79.お似合いなカップル
二人の顔が近づくが、ルビオの体温を唇で感じることはなかった。
数刻過ぎ、アリサが片目を開けると、神妙な顔をして止まっているルビオの顔が目の前にあった。
「……こういう時、女性が喜ぶキスというのはどうすればいいのだ?」
「ええ?」
困惑して両目を開ける。
目の前のルビオは、眉をひそめて考え込んでしまっている。
「そういえばキスの仕方など習っていないぞ。
いつもどんな指導をしているのだ」
「い、いや、デートして結ばれた後は、各々にお任せしていますが……」
エスコートの仕方などは教えるが、具体的なキスの仕方や順序など、会員に教えたことはない。
というか、正式なやり方があるなら自分も知りたい、とアリサは思った。
「わからん。頬に手を添えればいいのか?
腰を抱き寄せればいいのか? 息は止めるのか?」
「なんで私に聞くんですか、もう!」
お互いの想いが通じ合い、結ばれた瞬間だというのに。
せっかくのロマンチックな雰囲気がぶち壊しである。
「ふ、普通にこう、チュッ、て感じじゃ無いですか?」
「それは親が子供にするようなやつだろう。
もっと、愛しの相手にするキスを教えよ」
教えよと言われてもアリサのそこまで経験がないので、変な汗が出てきた。
ルビオはいつもの調子で腕を組み、答えを求めてくる。
そんな不思議な二人の世界に、くすくすと笑い声が聞こえた。
「うふふ、王子ったら面白い人」
「こら、笑ったらダメだ」
聞き覚えのある二人の声が背後からしたので振り返ると、少し離れた茂みのベンチに隠れて、クレイとエマがこちらを見ていた。
よく見ると、その横にはケビンとレイラもいる。
「よ、四人ともそこでなにしてるんですか……!」
「覗きとは悪趣味だな」
見られたことに恥ずかしがるアリサと、不服そうなルビオが四人へと近づく。
「すまない。明らかに今日、アリサの様子がおかしかったから。
おしゃれしているのに上の空というか。
そしたら入り口にルビオ王子が待っていたから、きっと特別なデートをするのだと思ってな……」
ケビンが申し訳なさそうに髪を掻きながら白状する。
「それをレイラに言ったら、クレイとエマにも伝わってしまって。
二人がうまく行くか気になって後をつけてしまった」
ケビンの婚活仲間と知り、レイラはすぐにクレイの彼女であるエマと仲良くなったらしい。
コールで二人にそのことを伝えては、心配半分冷やかし半分で見に来たそうだ。
「二人ともすごくお似合い!」
「素敵なカップルですね、おめでとうございます」
レイラとエマがアリサに駆け寄り、祝福の言葉を伝えた。
続いて、クレイとケビンもルビオに向かってくる。
「王子のお相手など永遠に見つからないだろうと心配でしたが、お相手がアリサさんでしたら安心です」
「それは側近が言うことか?」
二十人もの貴族や王族相手に婚約破棄をしてきたルビオを、間近で見てきたクレイだからこそ人一倍心配していたようだ。
自分も世話になったアリサなら問題ないと、ほっとしているようだ。




