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70.恋をしたことがあるか

 時が止まったかのように感じた。


 ルビオの言葉に理解が追いつかず、呆然とする。


 しかし、頭の中で何度も『私の妻になってくれないか』という言葉が響き渡る。



「な、なななな、何を」



 プロポーズされたのだと気がついたら、一気にアリサの頬が赤くなった。


 動揺し、言葉が出てこない。


 ルビオはベンチから立ち上がると、夕日を背に振り返り、アリサに向き直った。



「恋をしたことがあるか」



 急なルビオの質問に、しどろもどろ答える。



「え……まあ、片思いばかりですが……」



 学生時代も、社会人になっても、素敵な人には彼女か奥さんがいて、なかなか実際の恋愛には発展しないことが多かった。

 芸能人やゲームのキャラにばっかりときめいていたのだ。



「私は今まで一度も無かった」



 ルビオがまっすぐ見つめながらアリサに語る。



「恋は突然落ちるものだと聞いていた。

 だから、第三者が介入して、理想の相手を品定めする結婚相談所など、くだらないと始めは思っていた」



 城下町をお忍びで歩いていた際、飛んできたチラシの煽り文句を、くだらないと握りつぶした。僧侶コンが大繁盛したなど、馬鹿馬鹿しいと初めは思っていたのだ。



「だが、確かに楽しく食事を取れる相手は良い。

 趣味が同じで、仕事に理解がある人でなければ、長年共にいられないだろう。

 一緒にいると時間がすぐ過ぎるのは、相性がいい証拠だと思う。

 それら全て満たす人が、運命の相手だというのも頷ける。そなたは、優秀な婚活アドバイザーだ」



 相席居酒屋、趣味コン、マッチングアプリ。何をやってもうまくいかず文句を言っていたのに。


 今までの婚活アドバイスは間違いないと頷き、ルビオはそっとアリサの手を取る。



「優秀な婚活アドバイザーのおかげで、私も自分を見つめ直しじっくりと考えた」



 一緒にいてすぐに時間が過ぎ、気兼ねなく素が見せれる相手は、一人しかいなかった。



「その答えだ。

 アリサ、私はそなたが好きだ。ずっと一緒にいたい」



 そう言うとひざまずき、ルビオはアリサの手の甲にキスをした。



 まるでおとぎ話のプリンセスに、王子様がするかのような優雅さで。



 温かい唇を離して手を握るも、驚いて固まってしまったアリサに気がつき、そっと体を離し立ち上がる。



「……ああそうだった。

 告白は三回目のデートが良いんだったな? 

 今のは聞かなかったことにしてくれ」



 顔を離し、不敵に笑うルビオ。


 婚活セミナーのアドバイスを思い出したかのように口に出す。


 夕陽が沈み、徐々に夜に近づいてきた。



 顔を紅潮させて黙り込んだアリサに、



「今日は楽しかった。家まで送ろう」



 ルビオは手を差し出し、スマートにエスコートするのだった。

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