61.フルコースの食事
三十分もせず、部屋にはたくさんの料理が運ばれてきた。
白いコック帽をかぶったシェフが、大きなテーブルに一枚一枚皿を並べていく。
まるでフランス料理のフルコースだ。
「うわあ……すごい美味しそう……!」
「私も共に食べることにしよう」
テーブルの向かいに座ったルビオは、食前酒が入ったグラスに口をつける。
「王子って毎日こんな豪華な料理食べてるんですか?」
「無論だが」
おしゃれなハーブサラダ、魚のカルパッチョ、ポタージュスープに、魚と肉のメインディッシュ。
都内で食べたら何万円するんだろう、というような並びだ。
アリサが震える手でよく磨かれたナイフとフォークをそっと手に取り、一番に肉料理を口に入れた。
食べる順番があるのだろうが、空腹の体にはすぐにお肉を入れたかったのだ。
「んー、美味しい!
ミシュラン3つ星って感じだわ。お肉が体に染みる……!」
子羊のローストだろうか。上品ながらボリューミーなそれは、アリサの好きな味だった。
「ほう、私は肉が好きでな。
酒と合うからよく食べている。そなたもか?」
ルビオがナイフを動かしながら、緑の目を見開きアリサに問いかける。
「私もお肉とお酒は大好きです!
でも甘いものも炭水化物も好きですね〜」
体調不良のため今はお酒ではなく水だが、ワインに合いそうだなぁと肉を口に運ぶ。
(ま、肉とお酒と言っても、普段はコンビニでホットスナックと缶チューハイを買っているだけだけどね)
しがないOLのアリサからしたら、今日はかなり贅沢な食事である。
自分のこだわっている料理を褒められたからか、ルビオは上機嫌だった。
「そうか。まあゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます!
あー美味しい!」
美味しそうに食べるアリサを、向かいの席からルビオが微笑んで見つめる。
親である王や皇后、側近や臣下もいない、気の張らない食事の席はルビオも久々だった。
婚活アドバイザーの庶民の女との食事が意外と気楽なことに、王子は内心面白がっていた。
* * *
疲労からくる貧血は、たくさん食べてたくさん寝るようにと医者から言われたので、久々に仕事のことを考えずにアリサは広いベッドで一晩ゆっくり寝ることができた。
次の朝、身支度を整えたらコールするようにとルビオに言われたので、連絡する。
「おはようございます!」
『体調はどうだ』
「おかげさまで、だいぶ調子がいいです」
『そうか。朝食を持って行かせるから待っていろ』
朝も王宮御用達の朝食が食べられるようだ。
すぐに侍女が焼きたてのパンに紅茶、オムレツにサラダ、フレッシュフルーツの盛り合わせを持ってくる。高級ホテルの朝食ビュッフェのような品目だ。
(おお、美味しそう……!)
アリサがよだれを垂らしそうになりながらいい香りを嗅いでいると、頭から爪先まで完璧な美形が部屋に入ってきた。
「揃ったか。私も共に食べよう」
朝食もルビオが一緒に食べるようだ。王族同士で食べなくて大丈夫かな? と思うも、まずは空腹に朝食を食べたいアリサは頷いて席に着く。
「ん〜! このオムレツ美味しい!」
卵の黄身が濃厚で、口の中でほろほろととろける。
「私も朝食だと一番オムレツが好きだ」
「んん、しかもチーズ入ってますね!」
目をキラキラ輝かせて一口一口味わっているアリサを愉快そうに見つめるルビオ。




