50.異世界版マッチングアプリ!
ブツブツと、エマは聞き取れないほど小さい声で魔法を詠唱している。
固唾を飲んでアリサが見守っていたが、数分後、エマは息をついた。
ファイルを包んでいた青い光が消え、エマはゆっくりと手に取る。
「うん、できたみたい。
見て、結婚相談所の会員がどこにいるか、このマップでわかるわ」
アリサがエマの前に表示されたマップを見ると、そこにはピンクのハートと緑のハートが地図上に浮かび、ゆっくりと動いている。
「普通の冒険者は赤と青の丸だから、婚活の人はピンクと緑のハートマークにしてみたよ。
ピンクが女子で緑が男子ね。
プロフィールもトレースしておいた」
「す、すごい……!」
試しにギルド内のピンクのハートをタップしてみると、名前・出身地・家族構成・趣味・好きなタイプなどのプロフィールが浮かび上がる。
エマと書かれた名前の下に、彼女のパーソナルな情報、そしてコールのボタンもある。
「こんな感じかしら?」
「コールもできるんですね!
エマさんすごいです、ありがとうございます!」
まさにこれは、近場にいる人にすぐ連絡が取れる、フットワークが軽い人用のマッチングアプリに酷似している。
「ふふ、アリサさんのおかげで、素敵な男性に出会えたから。
これくらい手伝わせて?」
エマが笑顔で言うと、横にいたクレイが自分のことかと、照れて目を泳がせていた。
他にも、来た相手は、送った相手のプロフィールを見て良いなと思えばコールに応えてメッセージを交換し、嫌ならブロックできるように細かく設定する。
異世界版マッチンングアプリの準備がとんとん拍子で進んでいくが、一番大事なものが実装されていないことに気がつく。
「このマップに、本人の写真をつけることはできますか?」
マッチングアプリで一番大切な、写真が載っていないことに気がつく。
「シャシン……て、なに?」
この世界では、カメラや写真がないので、エマも、後ろにいるこじらせ男子三人も首を傾げる。
「その人の姿形を写した紙というか……。
人や景色の画像を写して保管したものです。
最初のマップでアイコンをタップしたときに、皆さんの顔が表示されたと思うんですが」
たまに、街中のポスターなどで景色や人物が貼ってあるが、あれはどうやって作ったのだろう。
「光魔法の『サンライト』という呪文を唱えて、光で照射して写しているのよ」
エマが言うと、ギルドの責任者であるケビンが同意する。
「サンライトは、普段は魔物の姿やダンジョンの罠を記録しておく時に用いる魔法だ。
俺は冒険者の管理用に、ギルドに登録の際に本人の顔をサンライトで記録しているんだ」
ゲームの中でサンライトは、暗いダンジョンや洞窟を明るく照らすための環境用魔法だったはずだが、写真を撮る応用もできるのか、とアリサが感心する。
これならカメラやスマホは確かに必要はない。
「このマップ上に、会員様たちの顔を載せたいんですよね。
そのほうが話しやすいでしょう?」
「それもそうね」
エマも、顔が載っていた方が親近感が湧くから賛成、と同意する。
「サンライトなら俺も使える。
彼女は設置型魔法を使って疲れているだろうから、手伝おう」
ケビンがエマをねぎらうように言い、アリサに提案する。
メインは剣士だが、レベル56もあるからっさんライトぐらいの初期魔法は余裕で使えるのだろう。
「それに、二人はこれからデートなんだろ?」
マッチングアプリの顔写真撮影に付き合わせたら、時間が経ってしまう。
ケビンの言葉に、クレイとエマは顔を見合わせると、笑顔で頷いた。




