48.広範囲設置型魔法
「地図上にちらほら青い点があるな。
君の場合の仲間っていうのは、結婚相談所の仕事中に関わった人なのかもしれない」
近くの通りをゆっくり歩いている青い点を試しに触ってみる。
『ジョン レベル34 武道家 所在地:3番街』
武道家のジョンが街中を歩いているらしい。
スキルや写真の下に、『コール』という文字が書いてあることに気がつく。
「これはなんですか?」
「仲間と連絡をとって声を交わすことができるんだ。
これも、魔法のスキルは必要ない」
これはゲームにはなかった。
でも確かに、ストーリー上、どうしてこのキャラが主人公の窮地を察して助けに来れたんだろう? というような展開もあったので、このコールを使っていたのかもしれない。
異世界版の、携帯電話といったところだろうか。
試しに、ジョンのスキル画面にあるコールに触ってみた。
ピピピ、ピピピ、と電子音のような音が響く。
『おう、アリサか!
久しぶりだな、どうした?』
コールをかけた相手、ジョンの明るい声が直接頭の中に聞こえてきた。
「あ、こんにちは!
近くにジョンさんを見つけたので、コールを使ってみました」
『そうかそうか。俺は今からケイトの店の手伝いに行くんだ。
最近はイベントの二次会にも使ってくれてありがとな!』
ジョンは彼女のケイトの店の手伝いに行く途中だったようだ。
二人の交際も順調そうである。
二言三言会話をし、コールを切る。
「へえ、すごい。頭の中に直接ジョンさんの声が聞こえました」
「『マップ』を使えば道に迷うことはないし、何かあったら『コール』で仲間に連絡取ると良い」
というか今まで何故知らなかったんだ、と尋ねてくるケビンに、愛想笑いして誤魔化す。
令和の日本から異世界転生してきて、誰も教えてくれなかったから、なんて言えない。
(それにしても便利だわ。
これは、何かに似ている……)
顔写真とともに、プロフィールが表示される。どこに住んでいるか分かり、気軽にメッセージを送りあえる。
悩める婚活アドバイザー、アリサはピンときた。
「これって、結婚相談所に来た人たちのプロフィールと顔写真が表示するようにしたら、マッチングアプリみたいに応用できますね!」
現代日本で大流行りしている、スマホでできる出会いの場、マッチングアプリが作れるのではないか、と。
「ま、マッチングアプリ? なんだそれは」
聞き慣れない単語に、ケビンが首を傾げて問い返す。
「ケビンさん、次こそはお似合いの女性と出会えるように、私も頑張りますからね!」
彼の質問には答えず、名案だとテンションの上がったアリサはケビンの手を取り、ブンブンと上下に振る。
すると、表示したままだったマップの上に、ギルドに近づいて来る青い点を見つけた。
(ん? 誰かしら……)
そっと指で触ると、その相手のプロフィールが表示される。
『ルビオ レベル41 王族 所在地:ギルド前広場』
その数秒後に、ギルドの扉が開く音がする。
「なんの騒ぎだ」
アリサの声が外まで聞こえていたのだろう。
足早に近づいてきたルビオは、マップに自分のスキルが表示されているのを見て怪訝そうな顔をする。
「ルビオ王子、ちょうど良かった。
あなたにも、アリサ流マッチングアプリをやっていただきますよ!」
「なんだと?」
意味のわからないことを言われ、ルビオは眉間の皺をさらに深くする。
(『マップ』を使って、異世界でマッチングアプリの仕組みを作ってみよう!
そしてケビンさんとルビオ王子を登録してもらおう!)
こじらせ男子二人を無事成婚させる、その使命を果たすために日々邁進である。
ちょうどルビンとケビンが揃ったことだし、早速システムの整備を始めてみる。
「ケビンさん、結婚相談所に来ている人たちのマップ上のプロフィールを、婚活バージョンに変えることはできますか?」
戦闘のレベルではなく、趣味や特技、好きなタイプを載せるプロフィールを作りたい。
冒険者用ではなく、婚活者用にのプロフィールを作り、マップ上に表示できれば、今近くにこんなプロフィールの人がいる、と連絡がとりやすくなるだろう。
「可能ではあるが、通常の冒険用で使いたい者も多いだろうし、相談所の利用者のみ使えるようにするとなると広範囲設置型の魔法が必要だ。
俺は専門は剣技だから、そこまでの魔法は使えないな」
現在使っているマップとは別に、婚活用の新しいマップが作れるようにするには、高等な魔法技術が必須だそうだ。
レベル1のギルド店員であるアリサにできるわけがない。




