42.油断した王子を守る
コボルトは完全には絶命しておらず、目を赤く染め、ゆっくりと起き上がっていたのだ。
爪を研ぎ澄ませ、最後の力で自分を斬ったルビオの背後へと襲いかかった。
その気配に気がついたのは、クレイだった。
「危ないっーーー!」
すかさずクレイはルビオに腕を伸ばし背中を突き飛ばすと、コボルトの前に踊り出る。
防御が間に合わなかったクレイは、コボルトの爪での攻撃を右腕に受けてしまう。
「くっ……!」
ルビオをかばい、怪我を負ったクレイはよろめき、腕からは血が滲んだ。
「クレイ!」
ルビオが叫び、すぐさま剣を抜くと、コボルトの正面からレイピアを突き刺した。
魔法を帯びさせる余裕はなく、ただ剣を刺した形になったが、体力がゼロに近かかったコボルトはすぐに消滅した。
ほっと息を吐き、剣を鞘にしまうルビオ。
よろけるクレイを、アリサが慌てて支える。
「だ、大丈夫ですかクレイさん!」
「はは、コボルトは瀕死の際、最後の反撃をするために攻撃力と素早さが増すのでした……。失念してました」
弱い魔物だが、倒れる間際に強くなるのが、このゲーム内のコボルトの特徴だったのだ。
「すまん、油断した。大丈夫か」
いつもわがままなルビオも、さすがに自分のせいで怪我を負ったクレイに申し訳が立たないのだろう。顔を歪めて謝罪する。
「いえ、あなたに怪我がなければ何よりです」
大したことないと、自分の袖を破き、血が出ている腕に巻き付けるクレイ。
傷は意外と深く、血が滴ってしまっている。
しかし、かすり傷だ、ルビオが怪我しなくてよかったなど、なかなか普通の人には言えないだろう。
その男気に、同じチームである白魔道士のエマが、密かに胸をときめかせていた。
「クレイさん、回復しますので、どうぞこちらへ」
回復魔法が得意なエマに呼ばれ、クレイは片膝をつき、怪我をした右腕を差し出した。
宝石が埋め込まれた杖をクレイの腕へとかざし、小さい声でエマが回復魔法を唱えると、小さな光がクレイの傷に集まり、たちまち血が止まり傷が塞がった。
初めて間近で見る回復魔法に、アリサは感嘆の声を漏らす。
「ありがとうございます。
いや、お恥ずかしいところをお見せしました」
クレイが紳士的に礼を言い、エマに頭を下げる。
「いえ、大事にならなくてよかったです。
魔法ぐらいしか私、取り柄がないから」
軽くウェーブのかかったピンク色の髪をしたエマは、照れながら謙遜している。
「高等な回復魔法をすぐに唱えられるのは、簡単ではありませんよ。素晴らしいです」
生真面目なクレイは、傷をすぐさま完治させたエマを真っ直ぐに褒め讃えた。
「ふふ、ありがとう。
普段は私、城下町の魔法学園で教師をしているの」
嬉しかったのか、くすぐったそうに微笑むエマ。
どうやら、彼女は普段魔法学園で学生たちに魔法を教えているらしく、多忙な毎日を過ごしているようだ。




