39.魔物狩りコン
「このフィルタウンは、若い冒険者の方が多いのですよね。
男女でパーティを組み、魔物を倒す、魔物コン!
命懸けでの戦いで生まれる、連帯感、団結力、吊り橋効果!」
両手を広げ、名案だと言わんばかりにプレゼンするアリサ。
「年齢は二十代の若者限定に縛りをつけることにより、老練の方ではなくフレッシュな人材に。
週末にすることで人をより集め、自己責任の一言を入れることで、何かあっても炎上せずコンプラも守る、と」
ブツブツと、細かいイベントの設定を言い連ねる。
人に集まってほしい、けれど集まり過ぎても困る。
エグゼクティブパーティのように苦情が来ないように、最初から注意書きをしておく。
盛り上がってほしいけど、混乱は招きたくない、絶妙な塩梅を考えるのも、婚活アドバイザーの腕の見せ所だ。
「魔物狩りを、婚活につなげるとは……すごい発想ですね」
クレイが驚きながら、顎に手を置き悩んでいる。
「ふん、私たち二人に合わせたのかもしれんが、現実問題、人が集まるとは思えんな」
ルビオも眉間に皺を寄せ、訝しげである。
「命の心配がないように、ある程度レベルの高い冒険者限定で、場所は……呪いの森にしましょう。
ここから近いし、魔物も初心者でも倒せると思います。やってみる価値はあると思うんですけどね」
もちろん怪我をしたら婚活どころではないので、レベル1の初心者でも問題ない、ゲームのチュートリアルで行く呪いの森という場所に設定する。
転生した初日に気になったこと。この町は若い男女の冒険者が多いのに、みんな体中傷だらけで、暗い顔だった。
恋人や家族がいて、守るべき家族がいればきっとモチベーションも上がり、はつらつとした表情になるのではないか。
(相席居酒屋も街コンカップリングパーティも、あまり冒険者の参加が全然いなくて、店員さんや町人ばかりなのが気になっていたのよね。
冒険者と、ルビオさんクレイさんの二人を同時に出合わせることができるし、魔物コンはピッタリだわ)
アリサはきっと上手く行くはずだと、胸を張って頷いた。
「また、時間の無駄にならねばいいがな」
自分の理想の高さを棚に上げ、嫌味を言っているルビオに、
「あら、王子お得意の魔法剣術を使えば、どんな女性もきっと王子にメロメロですよ。
腕の見せ所ではないですか?」
と、ヨイショしながら、少し煽るように笑いかける。
ルビオはゲームの中でも珍しい、魔法と剣技を一体化させた技を使えるのだ。
炎が燃える剣や、稲妻が走る剣など、見た目も派手かつ強い、王族しか使えないレアなスキルである。
提案に同意してもらえるかと思ったが、ルビオは腕を組み、アリサを真っ直ぐに見つめた。
「……なぜ私のスキルを、一介の庶民のそなたが知っている」
「え」
それは、毎日長い通勤時間にゲームアプリをやり込み、土日のイベント期間には課金してガチャ引きまくっていたヘビーユーザーだから、王子のスキルぐらい覚えてるわよ、なんて言えない。
必殺技は隠しておくものなのだろう。
ルビオの青い目が疑念に染まっている。
「呪いの森の魔物が弱いというのも、冒険者でもないのによく知ってますね」
クレイも不思議そうに首を傾げている。
「はは、まあまあ。
敏腕婚活アドバイザーの、情報収集能力をなめないでくださいよっ!」
冷や汗をかきながら誤魔化すアリサの表情をじっと見つめ、不審そうにしていたルビオだったが、
「……ふん。まあいいだろう。
魔物コンとやら、参加するのも悪くない」
最終的にはなんとか納得してくれた。
「ルビオ王子が出られるのでしたら、私もお供します」
「良かったです!
それでは早速、参加者を集めるために宣伝しますね。
日時が決まりましたらまたお伝えします!」
次こそはこの二人に合う素敵な相手が見つかるに違いないと、意気込んだ。




