38.2人の趣味は?
夕方、ギルドは人が少なかったので早めに閉め、デートに向かうケビンを送り出す。
(うまくいくといいな、いやきっとケビンさんならうまくいくはず。
街コンカップリングパーティはお互いを選び合う工程を踏むことで、実際のカップルに進展する確率も高いから、異世界でも好評だもの!)
ケビンのデートの成功を願いながら、アリサは紅茶を入れて、ほっと一息つこうとした。
紅茶の甘い香りが鼻口をくすぐり、温かさが喉を通り抜けていく。
「それで、私にぴったりな婚活イベントとやらは、思いついたか?」
勢いよく紅茶を吹き出した。
ゲホゲホ、と気管に入りアリサは激しくむせかえる。
目の前に、金髪碧眼の、イケメンの無駄使い王子が立っていた。
「何を驚いている。
今日も来いと言ったのは、そなただろう」
確かに、街コンの帰り道にルビオに向かってギルドに来いと言ったのは間違いないが。
「ゲホッ、る、るびお、おうじ、けほっ」
「大丈夫ですか、アリサさん」
横についてきていたクレイが、颯爽と近寄り背中をさすってくれた。
白いハンカチを手渡してくれたので、受け取り口元を抑える。
そんなアリサは気にも留めず、我が物顔でカウンターの席に座るルビオ。
「さっき、道で黒髪眼帯とすれ違ったぞ。
何やらめかしこんでいたが」
「黒髪眼帯て……ケビンさんは今からデートなんですよ」
何度もイベントを一緒に過ごしているんだから、名前ぐらい覚えてほしい。
ルビオは『デート』という言葉を聞き片眉を上げると、面白くなさそうに肩をすくめる。
「それはそれは。
私も、早く運命の人とやらに会ってみたいものだな」
椅子に肩肘をつき、ふてぶてしい物言いをするものだ。
「すみません。
ケビンさんに先を越されて、王子は昨日から少し機嫌が悪いんです……」
クレイがそっと耳打ちをしてくれた。
(自分が、カップリングカードを白紙で出したくせに!)
いい人と出会えないのはアリサのせいだ、とでもいうようにふんぞり返っている。
アリサは入れたばかりの紅茶を飲むことを諦め、来訪者二人に向き合い、婚活アドバイザーモードになる。
次こそはクレイとルビオになんとかして相手を見つけようと、彼らに合う趣味コンを模索する。
(エグゼクティブパーティでは女性に話しかけに行くこともできず、相席居酒屋では男同士で仕事の話で盛り上がっていたこじらせ男子な二人も、セミナーの甲斐あって街コンでは女性と話せていた。
クレイさんは、カップリングまであと一歩だったのよね)
今までを振り返り、二人の成長を実感するアリサ。
その上で、より相性の良い女性を探すために趣味コンを思案する。
「そういえば、お二人の趣味ってなんですか?」
アリサに問われ、ルビオとクレイは顔を見合わせる。
「お恥ずかしながら、自分は仕事一筋なもので、趣味というものが無く。
強いて言うなら、体を鍛えることが好きです」
クレイは細身に見えるが、腕まくりした時の筋や、足のふくらはぎの筋肉はなかなかのものだ。
王子側近として日々鍛錬を怠らず、意外に細マッチョなのかもしれない。
「私は乗馬やボードゲームしている時が一番楽しいな。
後は剣技の鍛錬か」
ルビオはさすが王族らしい趣味である。
確かゲームの公式プロフィールにも書かれていたな、と思い出す。
バランスのよいステータスを持っていたが、剣が一番強かったため、レアな剣を装備させて戦わせていた。
「なるほど……。ではお二人の共通しているのは、体や技を磨くことなのですね」
クレイは乗馬やゲームをやらなそうだし、二人とも魔物と戦うための鍛錬をよくしているようだ。
同じスポーツや、同じエンタメが好きならば、趣味コンも考えやすかったのが。アリサは頭を悩ませる。
「城を脅かす魔物を、我々で退治したりしますからね」
クレイの言葉に、ひらめいた。
複数人でパーティを組んで、魔物を倒すというのも、共同作業なのではないか?
フットサルや料理作りより、命を懸けた極限状態ではその人の性格がわかるし、目標を達成した後に絆が生まれやすいのではないか。
「なるほどなるほど。では、こうしましょう!」
アリサはペンを持ち、手近にあった紙に書き殴った。
そこには、
『二十代限定☆週末魔物狩りコン!
※イベント中に負った怪我は自己責任となります、ご了承ください』
と書かれている。




