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10.猪突猛進な武道家

「良かったです! 

 ではお二人とも、来てくださったついでに、2回目のデートの予約をいたしましょうか?」



 アリサが嬉々として提案すると、ジョンが照れ臭そうに切り出した。



「いや、実はさ……俺、初めて会ったのにケイトにすっかり惚れちまって。

 食事が終わってすぐ告白したんだ」



「ええ!?」



 武闘家は、恋愛も即断即決、懐に飛び込む武闘派なのだろうか。


 なんと初回のデートだというのに、男性の方から女性に告白したのだという。



 大体1回目は、お互いの紹介、結婚の条件や会話の相性などの確認程度で終わる。

 お互いが楽しかったなら、2回目、3回目と進み、カップル成立となるのだ。



「だってよ、ぐだぐだしてたら好きな女を他の男に取られちまうかもしれねーだろ?」



 一応結婚相談所は、紹介した人同士はうまく成婚するか、どちらかがもう会わないと決めるまでは、他の人に紹介はしないのだが。



 ただ、相談所で紹介しないだけで、いつどこで誰と出会って口説かれ、奪われるかなんて、確かに誰にも分からない。



「で、ケイトさんのお返事は……?」



「ふふっ、せっかちだなって思ったけどね。

 オッケーしたよ」



 ケイトも情熱的なジョンにまんざらでもなかったようだ。



「おめでとうございます!」



 アリサがとんとん拍子でうまくいったことに感激して拍手をする。


(命懸けで毎日戦っている、異世界の冒険者ならではの発想かもね……! 

 好きになったと確信したら、すぐに告白しても良い、と。勉強になったわ)


 

 自分の婚活アドバイザーとしての経験は、異世界でも通用する。

 ただ、異世界ならではの価値観の違いもあるのだと、アリサは知識をアップデートした。



 ギルドの片付けをしていたケビンも、その様子に友人の恋愛がうまくいったことを察し、ジョンの肩を叩いて笑いかける。



「でもジョンさん、家事は女性にばかり押し付けるのでなく、二人で協力するんですよ。

 毎日三食お食事作るのは大変なんですから、ジョンさんも作ってあげてくださいね」


 

 カップル成立することがゴールではない。

 交際を続かせるのが次の課題で、成婚した後も幸せになれるかは、二人の歩み寄りが大事なのだ。


 

 美味しい食事を作れるケイトさんに胃袋を掴まれたと言っていたが、店で働いて、家でも食事を作る毎日では大変だろう。男性のサポートも必要である。


 

 浮かれてばかりではなく、相談者のために少し厳しいことも伝えるのが、婚活アドバイザーの醍醐味だ。



「う……料理は肉や野菜炒めるぐらいしかできねぇけど……」



「あたしが教えてあげるよ。

 良い料理人になるさ!」



 しどろもどろになるジョンに、あっけらかんと笑いかけるケイト。

 早速尻に敷かれているようだったが、相性が良さそうだな、とアリサは安心した。




 二人は肩を並べてギルドを出ていった。


 アリサはジョンとケイトのプロフィールカードに、『成立済』と赤ペンで書き込む。



「良かったな。

 ジョンは昔から無理そうな女性ばかり追いかける奴だったから、友人として俺も安心したよ」



 付き合いが長く、ジョンの歴代の恋愛模様も知っているのだろう。

 ケビンは微笑ましそうに二人の後ろ姿を見送っていた。



「ケビンさんからの提案があったからです。

 ありがとうございます!」



 3番街のレストランのスタッフの子が良い、と提案してくれたケビンのおかげだと礼を言うが、



「いや、君のアドバイスのおかげだろう」



 ジョンを指導したアリサのおかげだと、首を横に振るケビン。



「趣味が同じ相手が良いとか、食事するデートとか、考えたことなかった。

 結婚相談所というのもは、面白いものだな」



 異世界には存在しなかった結婚相談所に、最初は不信感を持っていたケビンだったが、立て続けに二件うまくいき、感心しているようだ。



「普通はどういった人と結婚するんですか?」



「まあ、親同士が知り合いとか、近所に住んでて幼馴染とか。

 冒険者なら、パーティが同じになった……とかか?」

 


 ケビンが友人の恋愛や、自分の過去の恋愛を思い返しているのか、指を折り羅列する。


 前世で言うところのお見合いか、同級生か、職場の知り合い、ということだろうか。

 自然な出会いで付き合って、結婚するのが当たり前であり、普通なのだろう。


「ふふ、私みたいなお節介な婚活アドバイザーが、普通に生活していたら出会えない人と、巡り合わせるのが結婚相談所です」



 誇らしげにアリサが胸を張ると、ケビンも感心して頷いていた。

 すると、今度はギルドの扉が開き、来客から恐る恐る声がかかった。



「あのー、すみません。

 アリサさんいらっしゃいますか?」



 顔を覗かせていたのは、私服を着ている僧侶のハリーだった。



「ハリーさん、どうかしましたか? 

 あらローザさんも」



 初日に相談に来た、僧侶のハリーと魔法使いのローザのカップルだった。



「閉店時間過ぎて明かりがついていたので」



「ええ、どうぞどうぞ」



 今日は次々と人が訪れる日だ。



 アリサが光栄だと店に招き入れると、ハリーとローザは仲睦まじく、手を繋いでいた。

 


 二人の左手薬指に、綺麗なシルバーリングが付けられているのに気がつき、息を呑む。

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