新理想郷
僕はカロンから受け取ったネジやボルトで灯器を直し、青く錆びた本体と対照的に太陽を受けて光るその部品達を見下ろした。その上に僕の汗が落ちて、サビの原因になりそうだと慌てて拭った。きちんと灯りが付くかも確認して、動きも滑らかかを確認する。僕の不安をよそに灯りは滑らかに動いて、胸を撫で下ろす。その間にもチリチリと僕の背中に日光が当たった。灯台島最高点のここには、日光がまるで大気圏を無視したかのように降り注いでいる。
さっさと降りて倒木を刻みに行こう。そう思って立ち上がったところで、背後から足音が聞こえた。階段の方へ振り返ると、リビスさんが立っていた。
「お疲れ」
「ありがとうございます。今日も暑いですね」
「ん」
リビスさんは短く答えると手で目の上に日除けを作った。
「あー…どうかしましたか?」
「仕事の具合を見に来ただけ」
リビスさんがそう言ったので、僕は半身で避けて灯器を見せた。
「どうでしょう」
「こことここ間違ってる」
リビスさんはそう言って指差した。
「ネジが逆」
「道理で締めづらいと思いました」
僕はそう言って肩を竦め、ネジを緩めにかかった。
「ケガは治ったけどどうすんの」
リビスさんはそう言って隣にしゃがんだ。
「…僕は、ここにいてもいいんでしょうか」
「さあね」
僕の真剣な問いも、リビスさんは一蹴した。リビスさんはネジが回るのをただ見ている。
「ここにいたいと思ってはいるんです。
一人では危ないし…。なにより、僕はここが好きなんです」
僕はそう言ってネジを締め直した。
「変なやつ」
「ユートピアなんて無いんですよ。でも…あるとするなら、それは孤独かもしれない」
僕はそう言って道具を置いた。
「あんたは私のユートピアを奪おうとしてるわけだ」
「…そうとも言えますが、共有したいんです。理想を言えば」
「理想郷の理想、ね」
リビスさんはそう言って鼻で笑った。僕もつられて笑って肩をすくめた。
「後悔しても責任とらないから」
リビスさんはそう言うと立ち上がって、一足先に階段を降りていった。僕は工具箱を片付けて灯器を眺めると、立ちくらみを覚えながら階段の一段目に足を置いた。もしかしたら、ミザールにも同じ質問をしているんじゃないかと思うと、僕は早足になった。




