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それでも告げられない事実

書類を纏めていっていた手を止め、果胡を見開いた目で見たままバートは固まった。驚きも勿論、その事実を果胡に知られている事の重大さに身体も思考もついていかないのだ。


「…な、ぜ、あなたがそれを…」


たっぷりの沈黙が続いた後、バートの口から漏れたのはそれだけだ。もっと問い詰めることもしなければならないのだろうが、いやに冷静な果胡を前に、感情がつられていく。

冷や汗を流すバートに、果胡はその汗の理由を知っているからこそ慎重に、誠実に答える。


「リタも知ってます。私はリタから聞いたので」

「…リタは…、あの人のことだから何となく気付いているのかと思ってましたが、そんな重要なことを他人に漏らすことを…」

「リタは適当な人間だけど、善悪の区別はつきます。割と頭は切れるし、何を口にしていいか悪いかも分かってる。()()()()()()私に話したんですよ」

「な…、」


ここまできて、もう果胡は身元不明の無関係者ではいられない。ある程度立場を固めなければ動きづらいし、誰からも不審がられる。考えて立ち回らなければ、自分の首を絞めていくだろう。


「リタが話さなくても、多分私はいずれロッテが代理だということを知ることになったと思います」

「どうしてです」

「言ったでしょう。私は神力を持ち、治癒をするほどにその力も強い。あなた自身が身を持って体験したはず。そこまで出来るのなら、神の声を聞くことだって出来るんですよ」

「……!」


他人のことを話すかのように、果胡はバートに明かしていく。一つ一つ、バートの様子を窺いながら。まるで、詐欺でも企てて人を騙しているかのようで非常に気分が悪い。ましてや相手はあのバートだ。生まれてからずっと、親と変わらない愛情を注いでくれた人に、何故こんなことをしなければならないのかと、未だ葛藤は終わらない。

もし果胡がオリヴィアの魂を持っていると言ったら、どんな反応をするのだろう。消えた存在にはやはり何とも思わないのか、思い出してくれるのだろうか。怖くて、そんなこと出来ないけれど。


「神託を受けることが出来ると…?」

「条件付きですけどね。この間まで私が寝込んでいたのはそれの弊害。意外と疲れるんですよ、まともに神の声を聞くと」

「で、ではまさか、カコさんが本当の神子だと…?」

「…いえ」


即答でもなく、考え過ぎるわけでもない、絶妙な間を空けて果胡は首を横に振った。


「それはあなたが一番分かっていることでしょう、バート。神子の選定は神子が死去または神子の神力の消滅の直前、先代神子が候補の中から指名する。私はその候補にも上がっていなかったはずです」


この世界にすらいなかったのだから、当たり前のことだが。

本当はオリヴィアもあんな事にならなければ、神子の役目を全うした後、次代神子を選ぶはずだった。ところが選ぶ前に殺され、世界からは存在を消滅させた。神子がいない事態が何故なのか分からないまま立てた神子なのだから、ロッテは先代神子に選ばれた本当の神子ではない。

と、難しいことを考えなくても、神が神子の魂は果胡にあると言っているのだから、果胡以外に神子はあり得ないのだが、それを他人に理解してもらうのは難しい。今は逆にそれが功を奏しているが。


「だったらカコさん、あなたは一体…」


当然、バートの疑問はそうなる。当たり前だ。突然現れた少女が国家機密を知っていて、神力を持ち、国を揺るがす事件に首を突っ込んでくる。国の頭脳と言っても過言ではないバートに意見し、王室付特別騎士までも傍についている。怪しむには充分の材料、今まで訊かれなかったことの方がおかしいくらいだ。

果胡は答えを用意していなかったけれど、不思議と慌てはしなかった。何故だかは分からない。

もしかしたらバートは、怪しんでいても味方だとどこかで信じていたからなのかもしれない。





「…私は、この城の人達に恩がある人間です」





それはもう、返しきれないくらいの。


きっとバートには、果胡が伝えたい思いとは違う意味として受け取られるだろうが、それでいい。

今は、それでなくてはならない。




「…そう…、ですか…」




そう訊きたいことを全て呑み込んでくれた彼に、これ以上歪んだ真実を明かしたくはない。









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