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迷った末に辿り着いたということ

希成果胡(きなりかこ)は自分でも驚くくらい平凡な毎日を送ってきた高校一年生だ。高校生活もようやく慣れそうなまだギクシャクしていそうな、クラスの半分くらいとは会話したかなと思う三寒四温の季節。生まれつき瞳の色が薄い果胡は、カラコン入れてる集団だと思われがちで、今回の新生活も漏れなくそう見られた。生徒指導も受けたし金髪ヤンキー集団にも目敏く見つけられて危うく仲間に入れられそうになった。目の色くらいでそんなに騒がなくてもいいと思うのに、人間は同類を見つけたがるし外れたものを嫌う。面倒な世の中の入り口を見つけてしまったみたいで、早くも新生活に挫折を感じている。

果胡の人生に派手さがあったとしたら、その瞳の色くらいだ。他は平凡も平凡。仲間にされそうになった人達みたいに金髪でもないしピアスも開けていないしスカートの丈は規定通りだし。日焼け止めとリップクリームくらいは塗るけど化粧はしないし何なら視力一.五の裸眼だ。カラーどころかクリアでもコンタクトは必要なし。


それから、挫折を感じたことがもう一つ。平凡と言いながらまあまあ非凡ではないかと思ったのは、今果胡に起きているこの事態を受けてだ。

普段通りの学校の帰り道、一緒に帰るほど仲の良い友達はまだ出来ていない。いや、これから出来るかどうかも怪しい。だが、そんなことに心を折ったのではない。問題は、方向音痴が極まって帰り道を間違ってしまったことから始まったのだ。


街中を歩いていたはずなのに気が付いたら田んぼ道、気が付いたら日が暮れて、気が付いたら樹海のような場所。

今日の昼食を食べ損ねたことが祟ったのか、歩きすぎによるものか分からないけれど、奥へ奥へ進んでいくほどに頭がクラクラしてきたのだ。ここで倒れたら確実に警察犬出動案件だ。まずいとは思ったけれど身体は言う事をきいてくれなくて、ついには意識を手放してしまった。




そして、今の状態だ。







「じゃ、じゃんぐる……」







湿った地面に寝そべって見回した景色は、どこを見ても木、葉っぱ、時々果実。感想が固有名詞しか出てこないのは混乱していて、自分が置かれている状況さえ分からないからだ。とりあえず背中が土の水分を吸って冷たい。感覚が整理できるくらいには冷静になってきた。

身を起こすと、まだ頭はフラフラしたが先程まではない。目を閉じて冷たい空気を吸い込むと、段々と目眩が治まってきた。

改めて目を開けて周りを確かめると、やはりジャングルに他ならない。果胡の住む街にジャングルはなかったと認識していたが、単に果胡が遭難対策に知っている道しか通らないから気づかなかっただけだろうか。

だとしても何だか現代日本からは飛び出たような森である。鬱蒼と茂る木々は緑だが鮮やかさはない。実る果実も何だか毒々しいものばかりで、あれを食べるのはきっと死ぬ前くらいだろう。


それにしてもどうするか。

周りは前も後ろも右も左もジャングル。十歩先は闇が立ち込めているし、そもそもどっちに進んでいいかも分からない。最終手段はインターホンを鳴らして道を聞こうと思った住宅地までなら迷ったことがあるが、さすがにジャングルはない。というかジャングル自体初体験だ。

下手に動かずに助けを待った方が得策だろうか。いや、だがこのままではお尻が濡れて気持ちが悪い。とりあえず立ち上がろう。

制服の汚れを払うようにして立ち上がった時だ。


「いっ…!」


全身に強烈な痛みが走る。立ち上がれない。動かすのも辛い。そういえば頭を起こすときもぎこちなかった。どうなっているのかと、果胡は自分の身体を眺めた。


「……え?」


太陽は出ていないし、光源がないから視界不良でよく分からなかったけれど、少なくとも自分が正常じゃない状態ということは分かった。





全身、血塗れだったのだ。






肌に感じる冷たさは、濡れた土からのものではない。身を起こすのが辛かったのは、頭痛の所為だけじゃない。全身に怪我を負っていたのだ。


「な、に、これ…」


裂傷、打撲、骨折、捻挫。思いつく限りの怪我は、大決算セールで漏れなく搭載している。時期も外れていれば、決算で合わないからと言って一気に取り戻すものでもない。見た感じでは命に関わるような怪我はしてなさそうなのに、何故か出血は多いようだ。何処から流れているものか、第一自分の血なのかも怪しい。だが、万が一自分の血だとすると、このままでは失血死してしまいかねない量だ。

何とか出血箇所を探そうと自分の身体をまさぐっていると、すぐ近くでガサリと音がした。


「!」


果胡はビクリと肩を揺らし、身体を強ばらせる。もしかしたら熊かもしれない。何か恐ろしい獣かもしれない。この陰湿な森からはそんな想像しか湧き出ないのだ。

どうするべきか。とりあえず振り向くか、このまま死んだ振りをするか。いや、猛獣相手に死んだ振りは間違った対処法だ。ならばこのまま逃げ去るか。それも駄目だ。自分の足に自信がないわけではないが、人間の足が獣に敵うわけがない。それに痛みで走れない。

残った選択肢はとりあえず一つ。果胡は恐る恐る音のした背面を振り返った。







「……あれ?どうした?」







暗がりでもわかるくらい澄んだブルーグレーの神秘的な瞳だ。少し癖のある黒の髪をこの森と同じくらい鬱陶しく目元や頬にかけて、スウェットのようなだらしない格好で男が立っていた。









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