1.最果ての地へ
「なんか、熱っぽいんだよね。クラクラする。」
加奈子は僕に呟く。
「昨日、お互い飲みすぎたね。でも、時には2人で飲むのも悪くないもんだね。」
僕の言葉に、加奈子は小さく微笑んでくれた。
僕と加奈子が付き合い始めたのは約1年前。
同棲を始めたのもほぼ同時だった。
僕は、加奈子にホットミルクを作ってあげた。
朝のホットミルクは、加奈子にとって日課なのだ。
「今日はゆっくりしなよ。とりあえず、コンビニで朝食買いに行ってくるね。」
「水をお願いしていい?食べ物は大丈夫。…気持ち悪くて」
横向きで寝たまま、無防備な体勢の加奈子が答えた。
今日の加奈子は機嫌がいい。本当に良かった。
僕は、加奈子を数秒間、優しくじっと見つめた。
玄関の扉を開けると、心地よい風が僕を撫でる。
「よく頑張ったね」
そして、ここいらでは珍しいハクセキレイが僕の横を歩く。
「今日は何くれるの?」
これは食べ物じゃないよ。彼(彼女)にそう話すと、どことなく理解したかのように飛んでいった。
加奈子との生活は楽じゃない。
機嫌が悪いと皿を投げ、時には僕のコートを八つ裂きにすることもあった。
加奈子は悪くないよ。悪いのは…
ここでバシッと答えられたら、
もし、咎めることができたのなら、加奈子はどれだけ救われたことか。
憂鬱な日にも、光は射す。
それは、風と鳥が、まさに今日教えてくれた。
僕は玄関の鍵を2つ閉めた。
さあ、行こう
最果ての地へ