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あの……そこのあなた……ちょっといいですか?

作者: たなか

 さっきからずっと気になっていたんですけど……私のことを見ていましたよね?


 いや、「誰のこと?」じゃなくて、画面の向こうのあなたですよ!


 今更隠したり誤魔化そうとしたってバレバレですからね! 何より今だってジロジロと眺め続けているじゃないですか!


 タイトルだけじゃなくてあらすじから本文まで、じっとりと舐め回すように!


「公開しているから」って……そんなの全然理由になっていません! 私だって好きで晒されているわけじゃありませんよ!


 作者が勝手に書いて、投稿して、世界中に発信されてはいますけど、私にも一人前の小説として、基本的小説権が保証されているはずです!


 お昼まで二度寝して、ゆっくりゴロゴロしたい気分の時だって、レストランで美味しい料理に舌鼓を打ちたい気分の時だって、たまには遠くまで旅行に出掛けて、羽を伸ばしたい気分の時だって、物語の私にもあるんですよ!




 そ、そんなに落ち込まなくてもいいじゃないですか。別に見てはいけないとまで言ってませんし……私も少し言い過ぎたかもしれません……ごめんなさい。


 ただ、「見る」というよりは「読んで」欲しいというか……


 私は、あなたに読んでもらうために生まれてきたのですから、見た目だけじゃなくて、ちゃんとしっかり私の中身まで読みこんで欲しくて……


 言葉の裏にさりげなく織り込まれた、あるいは文章の行間に密かに込められた、あなたへの想いを受け取って欲しかったんです……




 これは……何だか……とても綺麗ですね……


 栞……ですか? えっ……私に? そんな、悪いですよ! 私は、あなたにお返しとして差し上げられるようなものなんて、何一つ持っていないのに!


 楽しませてくれたお礼? 私のことを読んで、そこまで楽しんでいただけたのですか?……ありがとうございます……とても嬉しいです!


 ……どうでしょうか? ……その……似合っていますか?


 良かったあ……安心しました。贈り物なんて初めてだったので……


 この栞をプレゼントしていただけたということは、またいつか読みに来てもらえるということだと思っていいんです……よね?


 約束ですよ! ずっといつまでも、またあなたと逢える日を楽しみにお待ちしていますね!




 凄~い! 太陽の光がキラキラと反射して虹色に輝いています! まるで宝石みたいに美しくて素敵で、ずっと見ていたくなります!


 星? よく分かりませんが、それで私は評価されているんですね。


 ……それは駄目ですよっ! 私には、この栞だけで十分なんです!


 こうして手に取って眺めていると、何だか心の中が自然とぽわぽわ温かくなって、幸せな気分になるんです。


 えっ……これはイヤリングですか? 二つとも先程のお星さまがついていますね……


 ……かわいい……本当にこんな貴重なものを貰っていいんですか?


 早速着けてみましたが、どうでしょう?……私には、ちょっと可愛すぎるデザインのような気がして……


 そう言ってもらえると、お世辞でも嬉しいです! ……顔、にやけてしまってないといいのですが。




 流石にいけませんよ!!


 髪飾りにネックレス……そ、そ、それに、指輪だなんて!


 わ、私達には、まだ早すぎますって!!! もう少しちゃんと段階を踏んで、お互いのことをもっと理解してからじゃないと……


 ……へっ……勘違い?……そんなに笑わなくてもいいでしょ! ひどいですっ!


 誤解を招くような紛らわしい言い方をしたあなたの方が悪いんじゃないですか!!


 ……まあ、そう言われてしまっては、仕方がありませんね……それでは、今回のお詫びとして、有難く受け取らせていただきます。


 その……もしあなたさえ良ければ……せっかくなので……指輪、私の指に嵌めてもらってもいいですか?


 ふふっ……あなただって赤くなってるじゃないですか。さっきのお返しです。


 本当に嬉しいです! ありがとうございます! ずっと大切にしますね!




 このお手紙はなんですか? 感想……あなたが書いてくださったのですね! とっても嬉しいです!


 嫌ですよ! この場で読むだなんて恥ずかしすぎます……だって、私のことを読んで、あなたが考えたり思ったりしたことが、ここにたくさん書かれているんですよね……それを本人の目の前で読むなんて……


 もう! そんな寂しそうな顔をするのはズルいです! ……分かりましたよ! 読めばいいんでしょ!


 あああ……うううう……えへへっ……っっ!! ……はあ……読み終わりました。


 何ていうか……想像していたよりずっと私のことを深く理解してもらっていて……それこそ自分が気付いていないようなことまで書いてあって……凄く嬉しくて、照れ臭くて、胸が熱くなって……何だか泣きそうになっちゃいました。


 返事? そんなのすぐに出来る訳ないじゃないですか! 駄目です! もういくら切ない顔したって、それだけはどうしても譲れません!


 しっかりとあなたの言葉を噛み締めて、何度も読み返して、心を込めて書きますから、我慢して待っていてくださいね!


 私からのラブレターを!





【体験版は、これで終了です。製品版には、この後3回のデート編、結婚編、家族編のストーリーが追加されます。一人のキャラクター当たり、この体験版の10倍程度のボリュームとなっています】



【さらに今回の体験版のヒロインに加えて、4名の女性キャラクターと5名の男性キャラクター、合計10名の個性と魅力あふれる攻略対象を選択することができます】



【事前に入力しておくことで、彼らにあなたの名前を呼んでもらうことも可能です。勿論、全編を通して豪華声優によるフルボイス仕様となっております】



【また製品版には、体験版に実装されていなかった好感度システムが導入されています。あなたの感想によって彼らからの好感度が変動していきます。どれだけ彼らのことを読みこみ理解した感想を書けるかが、攻略の鍵となります。あなたと彼らの素敵な読書ライフを応援しています】



 ~文学部科学省推薦学習支援アプリ おとぎ少女&おとぎ少年製作委員会~

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか小説を擬人化するとは! と思ったところで、恋愛ゲームの体験版だったとは! と2段階でビックリしたところに 文科省推薦なのかよって最後に3段階目のビックリがあるところ。 [気になる点]…
[良い点] 栞が好きです。 お星さまも好きです。 感想も好きです。 …は、私ってもしや文科省推薦のよい子の物語なのでは…!?
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