3 必殺武器スピニングロッポー
ともかく、このまま逃げ回って家屋に損害が広がるのは僕の精神衛生上よろしくない。
怪獣のせいだというのは分かってるけど、なんか僕の責任っぽいじゃないか。
触るのはイヤだけど、また前回同様、頭上から膝蹴り入れてみるか?
僕はムカデ怪獣に向かって駆け出し、そして跳躍した。
やっぱり……。
空を飛ぶかのように滞空時間が長く感じる。
奇妙な感覚だ。
ムカデ怪獣の頭上に位置を合わせる。
今回は膝ではなく、踵で落としてみようと思う。
なんとなく顔から遠い場所で攻撃したいから。
コイツ気持ち悪いんだもんなぁ……。
「国府谷先生、ダメ!!」
ナビィさんが叫んだ理由はすぐに分かった。
ムカデ怪獣は立ち上がり、その足を僕に向けたまま上体を捻らせた。
え……。
ムカデ怪獣が僕の踵を避けて、僕の身体に巻き付くように……。
――― うわ、うわ、うわ、うわああああああああ!!!
僕の全身に、ムカデ怪獣の足が!!足が!!
絡んでくる!!
いやだああああああああ!!!
助けて!助けて!!!
しかも、なんか、痛い!
ムカデの足が僕に刺さってる!!?
でもやっぱり何より!気持ち悪い!!!
僕はムカデ怪獣に巻き付かれたまま地面に倒れ落ちた。
そのまま、ムカデ怪獣に全身をホールドされている。
なにこれ!
なんかこのシーン、エロくね!?
そりゃもう僕は必死だったよ。
腕を動かして、ムカデ怪獣の足を無造作に掴む。
掴んだムカデ怪獣の足を力いっぱい、引き抜いた。
「グクュキュククアァアアアアアア…!!」
ムカデ怪獣の叫び声のようだ。
「効いてる! 国府谷先生、そのまま足を引き抜いて!!」
ナビィさんの言う通り、僕はヤツの足を掴むと、続けて二度ほど引き抜いた。
するとムカデ怪獣は、僕に巻きついていた身体を離して、僕から距離を取った。
はぁああああああああ……。
やっと離れてくれた……。
ちょー泣きたかったんだけど。
「国府谷先生、あとちょっとよ!
もっと足をむしっちゃって!!」
――― イヤです!!
もうアレに触りたくありません!!
あんなのもうダメです!!
「ワガママ言わないで。
ね? 良い子だから」
――― ナビィさんが何と言おうと、もう無理!!
「仕方ないなぁ」
――― 今僕、涙目。
全身サブイボできてるんですよ!
「武器の生成してみる?」
――― 武器?
武器使うのは無理って前にナビィさん言ってたよね?
「前回は無理だったけど、国府谷先生の機体への順応が進んでるみたいだから、シンプルな武器なら生成できるかも」
――― よう分からんけど、武器頼んます!!!
飛び道具がいい!!
でなけりゃリーチの長いヤツ!!
あのムカデに近寄りたくない!!
「じゃあ生成のやり方教えるわね。
まずは国府谷先生の使い慣れた武器を思い浮かべてください」
――― いきなり詰んだ!!
使い慣れた武器ってなんや!!
そんなんあるわけないやろ!!
「でも、その機体がその形に生成されたのは、国府谷先生が自分の身体の感覚を持っているからなのよ。
武器も同じようにやらないと」
――― 機体が生成って……?
この機体って、もともとこういう形だったんと違うん?
「国府谷先生が、怪獣を退治するためにその形に生成したの」
――― どういうこと……?
「とにかく武器でしょ?
国府谷先生が使い慣れたもので、強力なもの。
強い飛び道具とか想像して。そうしたら私の方で生成用のエネルギーを送るから」
――― 使い慣れた、強力なもの。
重くて、当たるととても痛い。
法律家の武器。
本来これは武器ではない。
しかし、関西人はツッコミのためにならあらゆる武器を使いこなさなくてはならないんだ……!!
僕の手の中で次第にはっきりと形をなす。
『それ』は見慣れた、直方体
「生成完了!使って!」
「よっしゃ!くらえ!! 必殺!!
スピニングロッポ―――――――――!!!!」
角が固い直方体の形をしたズッシリ重い物体を、僕は力の限りムカデ怪獣に向けて投げ放った。
回転を付けるのは忘れない。
なんか叫んじゃったけど、そういうのはお約束!
スピニングロッポーは、ムカデ怪獣にブチ当たると、閃光を発し爆発を起こした。
うん。
やっぱりツッコミは爆発しなくちゃね。
足が千切れて弱っていたところを、スピニングロッポーにブチ当たったムカデ怪獣は、爆発とともに破裂し足も胴体も飛び散った。
千切れた肉片を見ると、それは以前の溶岩怪獣のように、次第に細かく
塵ほどに細かくなり、跡形もなく消えた。
こうして、日本に再び平和が訪れたのだった。
「ええと、なにかしら?
今の武器は」
――― ナビィさん。
あれは…、六法全書を回転させて投げたものです。
当たると死にます。
「なるほど。よく分からないけど、さすが国府谷先生!」
――― ナビィさんは優しいなー。
「で、その六法全書というのは、当たると爆発するものなの?」
――― 関西ではそうなのです。
_________________
――― で、ナビィさん、機体から降りる前に少々お聞きしておきたいことがあるんですが。
「私で分かることなら。
でも早く撤収しないと、人間がこの機体を調べに来ちゃうんじゃないかしら」
確かに人が寄って来て踏みつぶしたりしたら大変だ……。
――― 手早く! あのさ、怪獣ってまさかこれからも来るわけ?
来るとしたらどれくらいの頻度?
また3ヶ月後くらい?
「さあ?」
――― 知らないのかぁ。
コレが分かれば保険のリスク評価の良い参考になったんだけどな。
じゃあなんで日本に来るの?
地球規模をターゲットにしてるとして、二回続けて日本に怪獣が出現したわけは?
「なんでかしらね」
――― ホンマ!? ほんまに知らんの?
嘘ついてへん?
「あなたに嘘はつかないけど……。
ほら、私ってこの機体のナビゲーターだから。
機体に関する情報以外は国府谷先生からアクセスできる範囲しか知らないし」
――― そう言われると確かにそうかも知れへんな。
むしろここは人外クライアントに聞くべきか。
じゃあ時間ないから最後にひとつ。
この機体に乗っているとき以外でナビィさんに連絡を取る方法があれば教えて。
「あら? 私とおしゃべりしてくれるの?」
――― 連絡手段ないと困るやん。
「そうね。国府谷先生のスマホに私の連絡先を入力しておくわ」
――― そんなんできんのか。
そういやクライアントもなんかスマホで連絡よこしよったな。
スマホのセキュリティ、ガバガバやな。
「じゃあ今日はこのへんで。
本当はもっとずっと国府谷先生と一緒にいたいけれど」
――― そんなことゆうてくれるとか、ナビィさんはほんまに優しいなぁ。
人間の女性だったら惚れてもうたわ。
「でも焦っちゃダメね。
もうちょっと待っててあげる」
ナビィさんがそう言った後に、すぐに僕の視界は暗闇に包まれていた。
前回同様、身体から何かが剥がれていく感触がある。
最初、全身にまとわりつくこのトコロテンが気色悪いと思ったものだけど
身体から離れるときには、なぜか心細い気さえしたんだ。