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弁護士ですが巨大怪獣によって裁判所が破壊されました  作者: 四十万 森生
第1章 地球が怪獣に狙われた日
6/62

6 怪獣退治


 目の前にいるのは、あの赤黒い巨大な怪獣。

 

 裁判所合同庁舎を破壊し

 僕を危うく殺しかけたバケモノ。

 


 でもおかしいな。

 巨大な怪獣が、人の大きさくらいに縮んでいる。


 目線が僕と変わらないじゃないか。


 自分がビルの高層階にいるのかとも考えたけれど、多分それも違う。

 ビルの高層階にいたとしても、こんな風には見えない。


 そもそも視野が広すぎる。


 それに、遠近感もおかしい。

 目前に怪獣がいるかと思ってビビったけど、よくよく景色と合わせて見ると結構距離があるような。


 距離感もおかしい。

 これだけ遠い距離が、こうもハッキリ見えるというのが変だ。

 自分の目じゃないみたいだ。



「今、機体と国府谷こうだに先生の神経回路は繋がっているから、機体を通じて視界の電気信号が国府谷先生の脳に送られているの。

 機体の『目』にあたる器官が人間のソレと性能が異なるので最初は違和感があるかも知れないわね」



 よう分からへんけど…。



「人間の動ける範囲の動作くらいならすぐにでもできると思うわ。

 よろしくお願いね。国府谷こうだに先生」



 よろしくと言われても…。


―――― というか、さっきから僕の思考とダイレクトに会話してない?君。



「私達、脳神経が繋がってる状態なの」



―――― そ……そうなん?

 ところで君は……?



「私はナビゲーター。

 名前が必要だったら適当につけて」



―――― 名前、僕がつけるの?

 そうだなぁ……。



 と、呑気に会話している場合じゃなかった。


 あの溶岩怪獣……仮にそう呼んでおこう……が、僕の存在に気が付いみたいだ。


 なに?

 なにか……

 あいつの目の下の口みたいなところが赤く光ってない?



国府谷こうだに先生!

 気を付けて!」



 おおおおっと!!!


 溶岩怪獣は口から赤い光線のようなものを吐き出した。

 多分僕を狙った!


 幸い、光線は避けることができた。


 確かにナビゲーターの言う通り、普通に動くことができるようだ。


 僕は運転免許くらいしか持ってないから『パイロット』とか言われても操縦なんてできるもんじゃないと思ってたけど……。

 なんとかなりそうかな。



 光線が止まったので、その光の軌跡を見てみる。


 建物が、溶け崩れているぞ。


―――― これ、すんごい熱線じゃない?

 こんなの何発も発射されてたら地球の温暖化が一気に加速しそう!


 っちゅうか、当たったら僕が死んでまうんとちゃうん?



「機体の性能から計算する限り、一撃当たったくらいじゃ死なないと思うけど。

 できれば避けて欲しいな」



―――― 死なないのか。

 良かった~。



「でも当たると痛いわよ」



―――― 痛いのはイヤー!



国府谷こうだに先生、ともかくあの怪獣を倒して」



―――― どうやって!?


 って言ってる間に、またあいつ、口の中が光ってる。

 さっきの熱線吐くつもりだ。


 確かに避けてばかりいたら被害が広がるばかりだ。

 倒せるなら倒さないと。


―――― そうだなー。

 武器とかないの?



「武器?

 国府谷こうだに先生が機体に順応してくれば使えるようになるけど、今は無理ね」



 ムリなのか……。



「人間が人間を制圧するときみたいな感じでお願い」



―――― え?

 つまりケンカみたいな?

 僕はそういうのあんまり経験ないんだけど。



「そこは見よう見まねで頑張って」



 そうだね。

 格闘ゲームくらいなら少しは遊んだことがある。


―――― ところで自分が今操縦している機体って、どんな形なんだろう。

 自分では見えないなぁ。



「とりあえず人間と同じパーツはあるから、動きとしては問題ないわよ」

 


―――― へー


 おおおおっとととと!!

 あー、ビックリした。


 また奴は熱線を吐いた。

 でもあんまりスピードが速くないから、なんとか避けられるな。



「それは機体が国府谷こうだに先生の神経細胞の働きを促進させているから、認識が速くなってるの」



 そうなんか。

 それに、僕の目には怪獣が人間サイズのように見えているせいかな。

 あれほど恐ろしく感じられた溶岩怪獣も、それほど怖いとは思わない。

 助かるわー。


 でも、ちょっとこの危機感の無さは奇妙な気がする。



―――― で、ナビゲーターさん……。

 そうか名前。


 『ナビィさん』でええ?



「なんという適当……。ひどい」



―――― え? やっぱダメ?



「でもあなたが酷いのは今に始まったことじゃないか」



 この短時間で僕の評価ってそんなに落ちてたの?



「構わないわ。

 ナビィさんと呼んで」



 良かった。


―――― ナビィさん、あいつに殴ったり蹴ったりしたら効くかな?



「知らない。

 試してみたら」



 そうですか。


 僕は溶岩怪獣に向かって『歩いて』みた。



―――― ええ?

 歩いているつもりだけど、すごいスピード!

 走ってる感じ?


 一気に距離が縮まる。

 心の準備ができてない!


 あああ!

 なんか足元!!


 建物とか車とか、いろいろ踏んで壊してるやん僕!!


 どうしよう!

 後で賠償責任追及されちゃったりしないかな!


 仕方なかったんだ!

 怪獣を倒そうと思っただけだから…!!



「大丈夫よ国府谷こうだに先生。

 黙っていれば誰も国府谷こうだに先生がこの機体に搭乗しているなんて分からないから」



 そうだね!!

 どうかバレませんように!!


 怪獣はまた口の中を光らせている。


 また熱線が来るんだ。

 正面から当たったら困る。


 僕はスピードを活かして、出来る限り溶岩怪獣の口とは反対側に回り込んだ。



 よーし、試しに一発!

 拳を握りしめて、溶岩怪獣を背後から殴った。


 金属と岩が衝突したような音がする。

 拳は、別に痛くないけど……。


 破壊できた気がしない。

 うん、溶岩怪獣が壊れた様子はないな。



 うわ、溶岩怪獣がこっち見た。


 慌ててまたヤツの背後に回る。

 正面に回らなければ熱線を浴びる危険性は低そうだし。


 とりあえず逃げ回ろう。


 動きが鈍い相手で助かってるけど…。

 ダメージを与えられないんじゃ倒せないね。



「今のパンチは、機体の体重が乗ってなかったわね」



 格闘技経験ない人間のパンチなんぞ、そんなもんだって……。



「ちゃんと相手にダメージを与えるなら、体重を乗せないと」



―――― そうは言うけど、ナビィさん。

 多分、殴るのって技術が要ることですよ?

 今の僕には逆立ちしたってできませんわ。



「跳躍して上から足蹴りしてみたら?

 それなら全体重がかかることは間違いないから」



―――― なるほど。

 って、僕そんな高くジャンプできひん!



「でもジャンプ自体はできるでしょ?

 機体の性能が高いから、高く飛べると思うわよ」



―――― ま。やってみますわ。


 溶岩怪獣から距離を取る。

 できるだけヤツの背後に回りながら。


 そして助走をつけてし……!!


 うわ、うわうわ!!

 うわああああああああ!!


 速いよ! そうだ!

 歩いても速かったんだ!

 走ればそりゃあ……


 ええい!

 もう勢いだ!



 踏み込み、飛ぶ。





 これは、なんという高さ!?

 官庁街のどのビルよりも高く飛んでいる。


 空を飛んでいるようだ。

 随分滞空時間が長いな。


 どうもこの機体にいると時間の感覚もおかしくなってる気がするよ。


 空中で怪獣の存在を確認し、真上に機体を調整する。



「その位置なら大丈夫よ。国府谷こうだに先生」



 よーし!

 足のひざを溶岩怪獣に向けて、真上に落下する。


 膝を向けたのは、なんとなく膝が堅そうで良いかなと思ったから。

 滞空時間が長かったおかげで、姿勢を選ぶ余裕もあったことだし。


 膝が溶岩怪獣の脳天に当たり、そのまま、僕の膝は溶岩怪獣の中心にめり込む形で沈んでいく。


 長い時間に感じるけれど、これもきっと一瞬なんだろう。


 溶岩怪獣は僕の膝が沈むにつれて、頭から崩れ落ちていく。




 崩れて、崩れて、崩れて……

 崩れるに従って、赤黒かった怪獣の肉片は、次第に赤みを失っていく。



 僕が再び地表に降り立ったときには、溶岩怪獣は完全に破壊された黒い岩の破片として地面に散っていた。



「やったわね! 国府谷こうだに先生!」



 えーと、倒した?

 溶岩怪獣倒したの?



「見てて。怪獣は活動を停止すれば分子に分解されて地球から排除されるから」



―――― つまり?

 


「消えるってこと」



―――― 消えなかったら?



「まだ活動停止じゃないから復活する」



―――― 消えてーーーーーー!!!


 溶岩怪獣の破片を凝視していると、ヤツの破片は、段々と更に細かく崩れていく。

 粒子が小さくなっていき、遂には消えてしまった。


 塵も残っていない。


 どういう構造なんだろう。



―――― ナビィさん、倒したってことで良い?



「良い! できるじゃないの国府谷こうだに先生ってば」



―――― 良かったー!!


 契約内容は『怪獣退治』。

 ということは、これで僕の仕事は終わりだね。



「え? 国府谷こうだに先生、でも……」



―――― ナビィさんもありがとう。

 僕も動転してたからテキトーに名前つけちゃったけど、そんなの無視しちゃっていいから。




「そんな、できるわけない。

 あなたにもらった名前……」



―――― とにかく、もうこの機体から降りていいんでしょ?

 降ろして欲しいんだけど。


 ここにいると時間感覚とか、いろいろおかしくて落ち着かない。


 それに、どうもね。

 それだけじゃなくて。

 居心地が悪いわけじゃないんだけど。

 あまりここに長居しない方がいいような気がするんだよ。



「わかったわ。

 あなたがそう言うのなら」



 ナビィさんがそう言うと、僕の周囲は部屋の明かりが消えるように暗くなる。


 何かが自分の身体の表面から剥がれていく感触があった。


____________ 




 そして次に明かりが見えたときは、そこは合同庁舎の崩れた瓦礫の上だった。


 さっき、僕が機体に乗る前にいた場所。

 僕の頭上に落ちてきて、あと0.2秒だかで僕を潰そうとした瓦礫は、すでに地面に落ちて粉砕されている。


 これに当たって死ぬところだったんだな、僕。


 今までのは夢……ということはないと思う。

 なんか信じられないけど。




国府谷こうだに先生」


 声を掛けられた。



「あんたは、さっきの……クライアント?」



 そこで初めてその姿を見ることができた。



「ソウデス。オ疲レ様デシタ」



 なんというか、見るからに胡散臭いなこの人物。


 背丈は僕とほぼ変わらないくらい。

 だけどブカブカのスエットのような服の上にパーカーを羽織り、フードを目深くかぶっている。

 顔にはサングラスとマスク。


 怪しすぎる。

 強盗の準備かと思うくらいだ。


 とはいえ


「あんたのお陰で助かったと思っていいんだよね。ありがとう」



「私ハ契約ヲ果タシテイルダケデス」



「ところですごいカッコだな。

 そんな全身着込んで動きづらくないかい?」



「私ノ姿ヲ見セナイヨウ気ヲ遣ッテイマス」



「見せたくないとかじゃなくて?」



国府谷こうだに先生ハ驚クト思ウノデ。配慮デス」



「へえ……」


 そうまで言われて「見せろ」とは言えないな。


 っていうかさ。

 なんとなく最初のときにも思ったけど、このクライアント、人間じゃないんじゃないか?

 怪獣退治のためにどっかの星から派遣されてきた宇宙人とかかも……。


 そんなバカなと思うところだけど、今の状況を考えるとね。


 地球人にとってビックリな姿だから「驚かせたくない」というなら、それはやはり親切に甘えておくべきだろう。



「ジキ人間ノ救援ガ来マス。

 国府谷こうだに先生ハ被災者ラシク振舞ッテクダサイ」



「被災者には違いないけどな」



「ツマリ、今回見タコト、アノ機体ノコトナドハ誰ニモ話サナイデ欲シイノデス」



「それは家族やうちの事務員でも?」



「スベテノ人間ニ」



 異論はない。

 話しても簡単に信じてもらえるとは思えないし。


 大体、もしもあの機体を動かしていたのが僕だと知れたら、戦っている最中に踏みつぶしてしまった家屋や車、公共施設、その賠償責任を追及されるかも知れない。


 場合によっては怪獣が破壊した分まで!

 人が死んでいたなら、死亡に係わる賠償も!!


 弁護士保険効くわけ……ないよな?

 間違いない、破産だわ。



「誰にも話さないよ……」


 言われなくてもね。



「デハ、マタ」




 そう言ったかと思うと、瞬きした瞬間にクライアントの姿は消えていた。


 そろそろ僕は驚くタイミングが分からなくなってきている。


 


 そしてその後に来た自衛隊の救援を受けながら、僕はさきほどまでのことを考えていた。


 そういえばあのクライアント「では、また」って別れ際に言ってたけど……。


 ま。人間の挨拶ってそういうもんだよな。



 次に会う予定なくても


「See you again」


 そう言うもんだ。




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