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2 降りられない


 怪獣ダンゴムを退治したので、もう戻ろうと思います。


――― じゃあナビィさん。お手数ですが僕を家まで転送して欲しいんですが。



「それは、できないわ」



――― あ。そうか。

 ナビィさん、何か僕に話があったみたいでしたもんね。

 とりあえず場所だけ移動しませんか? エクスディクタムをいつまでも和歌山市に置いておくのもなんですし。



「そうね。じゃあ海底洞窟でいいかしら」



――― ですね。地球上のどこを置いても多分あのあたりほど人目につかない場所はないわけで。およそ地表であるなら最近は衛星写真で捕捉されちゃうし。



 というわけで、ナビィさんに頼んでエクスディクタムを海底洞窟に転送させます。


 僕も今回ようやくエクスディクタムに自力で転送できたみたいなんだけど、エクスディクタムを別の場所に転送するのとはまたコツも違うだろうし。


 なにより、さっきのアレは無我夢中だったから、またできるかどうか分からんです。



――― さてと。

 じゃあここでゆっくりとお話しますか。


 今はまだ長期休暇中なので、あと2日は仕事予定を入れていないのでのんびりです。

 旅行後は2日ほど休みが欲しいものだからね。


 それが終わったら、たまってた仕事を片付けなくちゃならないから気が重いけど、まあ何とか頑張りますわ。



「あのね、国府谷こうだに先生」


――― はい?



国府谷こうだに先生は、もう戻れないの」


――― ? どこにです?



「つまり、国府谷こうだに先生としての生活に」


――― は? どういうことですか?

 エクスディクタムから降りられないってことですか?



「そうなの」


――― いや、でも以前ナビィさんおっしゃいましたよね。


『あくまでエクスディクタムのパイロットとして主導権を持つのは国府谷こうだに先生なんだから。 国府谷こうだに先生が降りたいと思えば降りることは常に可能だし、今後もそれは変わらない』

 って。


 僕が降りたいと思えば降りることは常に可能なんでしょ?



「ええ。可能だわ。だから国府谷こうだに先生が降りたいのであれば降りることは出来る。今も」


――― じゃあ……



「でも国府谷こうだに先生が今エクスディクタムから降りたら今度こそ死んでしまうのよ」


――― え……。


 なぜ、と言いかけて思い出した。

 僕はレイシアさんに殺されかけたところで転送できて、肉体は休眠状態であらゆる生命活動が現状維持されたまま停止している……。


 それってつまり……。



「そう。国府谷こうだに先生の肉体は瀕死の重傷を負ったまま。恐らく地球の医療で回復させることは不可能だわ。だからエクスディクタムから降りたら国府谷こうだに先生は死んでしまうのよ!お願いだから降りないって言って!!」


――――――――――――――――――



 困った。


 ちょっと驚きのあまり思考が停止してしまった。

 エクスディクタムに搭乗しているときって滅多なことで動揺することはないんだけど、さすがにちょっと困ってる。


 もしもエクスディクタムに乗っていない状態だったらショックで倒れてたかも。

 今僕は、エクスディクタムに搭乗したまま、海底洞窟で岩に腰かけている。


 精神的には落ち着いているのが奇妙なくらい。


 今の状況を整理してみます。


 僕、国府谷こうだにあきらの肉体は、レイシアさんの攻撃により致命傷を負ってしまったということだ。


 エクスディクタムに搭乗したことにより、肉体は現状維持されているけど、降りれば速攻死ぬらしい。


『現状維持』ということは、回復も見込めない。

 つまり、命が惜しかったら僕はエクスディクタムから降りられない。


 そんなわけで、こうして海底洞窟の中でグダグダしているんだけど、いつまでこうしていればいいわけ?

 あと2日で休暇も終わってしまう。


 困りましたよ。困りました。



「困ったわねぇ」


――― ナビィさん的には嬉しいことだったりします? 僕がここに居続けること……。



「まさか。だって国府谷こうだに先生がつらそうなのは私はイヤ」


――― すみません、ちょっと八つ当たりになっちゃったかも。解決策が見えなくて。



「うん……わかるわ」


――― 分かりますか?



「分かるの。国府谷こうだに先生が何を望んでどう考えるか」


――― 確かに僕、分かりやすい性格って言われる方です。



「それはあるわね」


――― あるんかい!



「それより、解決策を考えましょうよ」


――― そうですね。愚痴っても仕方ない!



「私としては、とりあえずB・Uに相談してみた方がいいと思う」


――― そうだ!そういえばB・Uさん!

 あの人、無事なんですか!?

 レイシアさんのいる場所に置いてきてしまったんだ!何かされたりしなかったですか!



「とりあえず回線繋いでみましょうね」



・・・・・・・・・・・・・・



国府谷こうだに先生』


――― あ!B・Uさん!無事ですか?



『ええこちらは。『レイシアさん』は国府谷こうだに先生が転送したのを見届けた後すぐに姿を消しました。国府谷こうだに先生の方は無事とは言えないようですね』


――― そうなんですわ。困ってしまいました。



『とりあえず私の方は今は自動同期設定が緊急停止しているため、国府谷こうだに先生の記憶に同期できません。何かあれば説明をお願いします』


――― 緊急停止?

 それってなんです?



『以前も説明しましたように、自動同期設定で肉体情報も同期されます。ですが今の瀕死の状態の国府谷こうだに先生に同期すると私も動けなくなってしまいますから。このような場合には同期設定が停止されるようになっているのです』


――― はあ、なるほど。

 ともかくB・Uさんに類が及ばなかったのは良かったです。

 僕はヤバかったけど、なんとか自力で転送できたから首の皮一枚で命が繋がったわけで……。



『そう言えるかどうか……』


――― なにかおかしいことでも?



国府谷こうだに先生が即死していない点がおかしいです』


――― それは酷いのでは?B・Uさん。



国府谷こうだに先生と『レイシアさん』の力の差は圧倒的です。むしろ攻撃して殺さない方が難しい。国府谷こうだに先生を生かしたのはワザとと考えるのが自然です』


――― 生かした、って……。

 これ生かしたうちに入ります?

 とにかく解決策ありませんか?



『解決策ではなく選択肢は提示できます』

 考えうる選択肢は3つ。


 ①エクスディクタムに乗り続けて生きる

 ②エクスディクタムから降りて死ぬ

 ③国府谷こうだに先生の身体を修復する


――― それ選択の余地ないです。

 ③でしょ!それ!それです!修復!



『エクスディクタムの能力をもってすれば、体内にある国府谷こうだに先生の身体を修復することも可能です』


――― す、すごい!

 さすがエクスディクタム!

 さっそく修復させたいんですが!



『問題は、国府谷こうだに先生の順応レベルではそこまでの機能を発揮できないことです』


――― B・Uさんやナビィさんが代わりにやってくれれば良いんとちゃいますか?転送みたいに。



『転送と通信。私に許されたエクスディクタムへのアクセス権はそれだけです。しかもそれらも国府谷こうだに先生の意思に反して使うことはできません。ナビゲーターもあくまで国府谷こうだに先生の補助的なアクセス権しか持ちません』


――― じゃあ僕がやるしかないってことか。

 分かりました!練習します。



――――――――――――――――――



 そんなわけで、僕はそりゃもう必死に練習してます。

 エクスディクタムの体内にある、僕の身体を修復するために。



――― うーん、分からん……。

 ナビィさん、コツとか教えてください。



「ええと。まずは体内にある自分のコアを把握してみて」


――― サッパリ分かりません……。

 自分のコアって僕の身体のことですよね。

 そういえば僕の身体ってどういう風に破損してるんですかね。

 目の前が真っ赤になってしまって自分ではよく分からなかったんですよ。



「そうねぇ。国府谷こうだに先生の××が××××で××××××して××××××、××××の××××に××な×××と×××××、××××××が×××しちゃったから××××××、それで×××の××××が××××ってなって×××して、××××も×××××××で××××××して×××××ってカンジ。それから×××も×××って、××、××、×××となって××××。その上×××の部分が×××となって××××、××××ってとこかしら。『レイシア』ってエグいことするわよねぇ」



――― 確実にどこかのコードに触れる描写をありがとうございます……。

 これ、エクスディクタムに乗ってない状態で聞いてたら吐いてたかも。

 よく生きてたな。


 それに……。

 もし死んでたら、その凄まじい死体を発見者に見られて大事件になってただろうな。

『弁護士の惨殺死体が自宅で発見』とかいって。


 で、そのすんごい状態の僕の身体が、このエクスディクタムの内部にあると。

 うわぁ……。


 

 それにしてもこんなに長くエクスディクタムに乗ってるのは初めてだよ。

 体感としては、もうかれこれ10時間くらいなんだけど。


――― ナビィさん、どれくらい時間が経ちました?

 怪獣ダンゴムを倒したのが金曜の午後4時くらいだったかな。



「今はその日の午後6時よ」


――― はあ、2時間程度ってことですか。


 いつも数分程度しか乗っていないわけだから、長いことには違いがない。

 体感として10時間経過していても、集中力は途切れない。疲労を感じない。眠気もない。空腹感もない。

 これがエクスディクタムか。


 もしもエクスディクタムに乗ったまま生き続けると、これが続くわけなんだろうな。





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― 新着の感想 ―
[一言] 休暇明けまで2日。 それまでに何とかできないと、エクスが弁護人として裁判所に現れることになるのでしょうか? シュールだわ。
[良い点] 第50部分到達、おめでとうございます! [気になる点] 事実関係だけに注目してみると、むっちゃ深刻。 果たして国府谷先生は『第3の選択』を自分の意思で掴み取る事ができるのか? [一言] 続…
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