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1 怪獣ダンゴム


 何が起きたんだろう。


 レイシアさんに抱きしめられて、次の瞬間視界が真っ赤に染まって……。

 


 呼吸ができない。


 状況が分からない。


 わからないけど、多分、僕は今死にかけている。

 苦しい、苦しい、息……。

 口に膜のようなものが張って息が僕の体内に入っていかない……。


 僕の心臓の鼓動が聞こえる。

 すでに絶え絶えで、今にも消え入りそうだ。

 鼓動が、止まる……?

 目の前が見えない。


 死ぬ。


 イヤだ。死にたくない。

 怖い。


 レイシアさんの顔も見えない。

 レイシアさんがやったのか……?


 僕を殺そうとしている?



「こう……に先生……!………!」



 B・U氏の声、微かに聴こえる。

 けど、なんと言っているのか。

 とても遠い……。



「私との同……が遮断さ……ており転送でき……せん!

 国府谷こうだにせん……い! あな……が……」



 ……『同期が遮断』『転送できない』?


 そう言えば転送訓練始めたとき、B・U氏が言ってた。



『今後、あの時のような事態が起きた場合に、私が必ず動ける状態にあるとは限りません。

 国府谷こうだに先生には命の危機に際して、自らの身を転送し身を守って欲しいのです』



 そうか。

 殺される前に逃げなくちゃ……。

 自分で逃げなくちゃいけない場面なんだ……。


 転送を、転送して……。

 転送の方法、B・U氏はなんて言ってたっけ。



『エクスディクタムそのものになったことを想像し、体内に必要なコアを取り込むイメージ……』



 薄れゆく意識の中。

 僕はエクスディクタムを操縦しているときのあの鋭敏な感覚をやけに鮮明に思い起こしていた。



 僕は『エクス(EX)ディクタム(Dictum)』……。


 僕に必要なのは『コア』。

 コアがなければ僕はただの機体。


 だから、コアを取り込む。

 それは僕の『命』そのもの。



 そして、『僕』になる……。




――――――――――――――――――



・・・・・・・・・・・・・



 暗闇。

 もう、何も分からない。

 なにも、感じない……。


 これが、死ぬってことか……。

 さよなら、みんな……。






「ニューロン交感開始!」


 ……? ナビィさんの声……。

 心に直接響く。



――― は、はあっ、はあっ、

はあっ、はあっ、はあっ……。


 こ、呼吸?できてる?

 苦しく、ない。


 僕、生きてる!

 転送に成功した?

 


 目の前の光景が広がる。

 ここは、以前来た海底かな?

 静かで、目に映るのは岩くらいだ。



国府谷こうだに先生!良かった間に合った!

 危なかったわね!」



――― ナビィさん? どういう状況なんですか?



国府谷こうだに先生が死にかけていたの。でも転送でエクスディクタムの内部に取り込まれたから生命活動が止まる前に身体を休眠状態にすることができたのよ」



――― あ、そうか。

『元の人間の生理的な欲求から解放』されるって話だった。

 以前トイレに行きたいのを感じなくなったように、さっきまでの苦しさを感じないのはそのせいか。


 けど一体何があったんだ?

 レイシアさんに抱きしめられたと思った途端、目の前が真っ赤に染まって息ができなくなった。

 ひたすら苦しくて。

 痛み、はよく覚えていない。


 ……あんまり考えたくないことだけど、僕はレイシアさんに殺されかけたってことなんだろうか。

 レイシアさんの提案を断ったから。



「残念だけどそういうことかしら」



――― そっか…。

 僕はレイシアさんに振られてしまったんだな。

 レイシアさん……。


 そういえば転送……。

 僕、自力での転送に成功したんですかね?



「したわ。さすが国府谷こうだに先生。やっぱり本番に強いのね」



――― 複雑。こんな本番嬉しくないです。

 でもなんとなくわかったような気がした。

 自分がエクスディクタムそのものになって、コアを取り込むイメージ。


 今、エクスディクタムとしての僕の体内に、もともとの僕の肉体が収容されていて、それがコアなんだよね。

 変な感じ。


 そもそもエクスディクタムって『機体』だと思って来たんだけど、さっきB・U氏が変なこと言ってたような。


『レイシアさん』は、エクスディクタムと近い存在」とか……。



国府谷こうだに先生、考え事してるところ悪いんだけど、怪獣が出たみたい。転送する?」



――― 怪獣か。

 やっぱり交渉が決裂したから、レイシアさんは怪獣を止めるつもりはないんだ。


 ともかく怪獣は退治しなくちゃ。

 ナビィさん、転送お願いします。



「分かったわ。

 ……ねえ国府谷こうだに先生」



――― なんです?



「あ……うん。でも怪獣退治が先ね。後で話すわ」



――― はあ、分かりました。



――――――――――――――――――


 転送先に出ると、まずは周囲を見渡す。

 地上に出たようだ。

 視界に街並みが広がる。


 怪獣が僕を狙っているなら怪獣ルアコンのときと同様、まずは僕が人のいない場所に行けばいい。

 僕を追ってくる怪獣を誘導できるはず。

 まずはエクスディクタムが場所移動をしよう。



 そろそろ日が落ちる頃で、夕日で空が赤く染まっている。

 さっきの光景。目の前が真っ赤に染まった瞬間を思い出してしまった。


 死ぬかと思ったんだよ。ホントに。

 もし転送が間に合わなかったら死んでいたんだろうな。


 レイシアさんが僕を殺そうとするなんて。


 僕は、レイシアさんに少しくらいは好かれていると思っていた。

 交渉が決裂しても、別の条件で妥協点を模索するくらいは協力してくれるんじゃないかって。


 だけど、レイシアさんは、交渉が決裂するや否や、問答無用に僕を殺そうとした。


 レイシアさんから好意のようなものを感じていたけれど、それは全部僕にとって都合の良い勝手な解釈だったってことなんだろうか。


 ……いやいや、今は怪獣。



『怪獣が出現しています。市民のみなさんは速やかに退避してください。繰り返します……』



 非常用のサイレンとともに避難を促す放送が流れている。

 ということはやっぱり怪獣は既に出現している。


 周囲を見回すと、少し離れたところに城が見える。

 日本の城だ。

 今回は国内みたいだね。


 城の周囲には、城址公園が広がるのがお約束。

 公園で戦わせてもらおう。


 僕は城址公園内で城から少し距離を取り、出来る限り建造物の少ない場所に移動した。


 少し待つ。



――― おかしいな。

 怪獣が来ない。

 僕を狙ってすぐに来ると思ったんだけどな。


 耳を澄ませ、目をこらす。



国府谷こうだに先生、あっちの方向に怪獣がいるわ」



 ナビィさんの示す方向に視線を向けると、そこには巨大な……。ええとワラジムシ? オオグソクムシ?

 背中に節ごとの甲があり、細い2本の触覚がある。

 そして無数の足。


 うううう……、ああいうのちょっと苦手。

 ウゾウゾと動きならが、周辺の建物を次々に壊している。


 まだエクスディクタムに気付いていないのか、行動を止める様子がない。

 このままだと被害が広がりそうだ。



――― ナビィさん、スピニングロッポーをぶつけて、あいつの注意を引きます。



「OK!武器生成ね」



 スピニングロッポーは何度も使ってるからもう慣れたものです。


――― くらえ! 必殺!

 スピニング・ロッポ――――――――――!!!


 生成した六法全書は回転し怪獣に当たると爆発を起こした。

 鎧のような背中の甲は伊達じゃないようで、あまり効いてる様子はないけど、注意は引けたでしょ。

 まずはコッチに来てもらわんと。


 そうだ。今のうちに怪獣の名前つけますかね。ええと。


 怪獣は身体を丸めて、今度は回転して転がりだした。

 丸まるということはダンゴムシかな?

 じゃあ名前は『怪獣ダンゴム』で。

 どうですか? ナビィさん。



「おかしいわ」



――― すんません、まんまな名前で……。



「あ、ごめんなさい。名前のことじゃないのよ。

 怪獣ダンゴムは回転して街を破壊し続けているけど、こっちに来る様子がないのよ。さっきのスピニングロッポーでエクスディクタムのことは認識してるハズなのに」



――― そういやそうですね。

 というかこのまま放っておくと被害は広がる一方だ。



「怪獣の名前は国府谷こうだに先生らしい命名でいいと思うわ」



――― わざわざフォローもありがとうございます。

 とにかく怪獣が来るのを待つのはやめて、僕の方から怪獣ダンゴムの方に向かおう。

 早くとっつかまえて動きを止めないと。


 そう思ったんだけど……。

 コイツ、ゴロゴロゴロゴロ転がっちゃって、捕まらないな。


――― よっと!


 手を伸ばして怪獣ダンゴムに触れたけれど、すべって逃げられた。


 動きを止めたいな。

 どうしようかな。



「大きい建物を挟んで追い詰めてみる?」



――― それいいですね、ナビィさん。

 ちょうど近くに横に平らな大きめの建物がある。

 うまくあっちに転がるように追いかけてっと。


 僕の思惑通り、怪獣ダンゴムは僕の攻撃を避けるためにその建物の方向に転がり、衝突した。

 建物の一面にダンゴムが完全にめり込んでいる。


 僕が近寄ると、ダンゴムは身体を開き、足をワシャワシャさせた。

 うう、生理的にちょっと……。

 あんまり近寄りたくないです。


 というわけで


――― またまたくらえ! 必殺!

 スピニングポケットロッポー!!!


 めり込んで動けない怪獣ダンゴムの腹部目掛けて、大量のスピニングポケットロッポーを打ち込んだ。

 ダンゴムにブチ当たり、次々と爆発する。


 もともとスピニングロッポーはムカデ怪獣に触りたくなかったから遠隔攻撃のために生成した武器だったっけ。

 どうもこう、足がワシャワシャしてるのダメ……。


 腹部に集中させて打った多数のスピニングポケットロッポーは効果あったらしく、怪獣ダンゴムは動かなくなった。


 そのまま塵となって消えていく。


 ふー。怪獣退治いっちょ上がりっと!

 今回はええと、どこの平和が守られたのかな?



「ここは和歌山県和歌山市。ちなみにさっき怪獣ダンゴムがぶつかって破壊された建物は和歌山地方裁判所ね」



――― うーむ。また偶然に裁判所が壊れてしまったのか。


 けど今回は……。


 周囲を見渡す。

 あちこちから火の手が上がり、多くの建物が瓦礫と化している。



――― なんてこった。裁判所以外にもかなり被害が出てしもうたわ。

 もっと早く何とか出来れば良かったのに……。

 なぜか怪獣が僕の方に向かってこなくて計算が狂ってしまった。

 いつもならエクスディクタムを狙ってくるってのに。



「エクス―――! ありがとー!」



 遠くから歓声が聞こえる。

 日本のみんなも怪獣慣れしてきたからか、避難が迅速になっている。

 まあ良いことだよね。


 怪獣慣れした国民性というのもどうかと思うけど。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] >――― なんてこった。裁判所以外にもかなり被害が出てしもうたわ。 今回は人的被害を避けられただろうか? [一言] 続きもきにしながら待ち…
[気になる点] 最終話までに、無事、生き残ることができる裁判所は、どこと、どこか? [一言] レイシアさん、エクスの中に入ってきちゃったりはしないの? 国府谷先生側から遮断することは可能なのかしら? …
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