6 交渉決裂
フランス旅行は楽しかった。
あの後、茉莉のガイドであちこち観光できたし、茉莉の通っている大学も案内してもらった。
茉莉の大学の友達に囲まれて、日本に出現するエクスディクタムや怪獣の話をせがまれたよ。
茉莉が翻訳してくれて、いろいろ話せたのも楽しかったな。
茉莉にはたくさん友達がいるみたいで、それも嬉しい。
あと、茉莉には今のところ彼氏はいない!
ホッとしてしまった。
もちろん、将来茉莉から結婚を考えている相手を紹介されても茉莉が選んだ相手なら応援するけどさ。
そんなわけでいろいろお土産を持たせてもらったんで僕は日本に帰国しました。
フランスワイン、B・U氏と一緒に飲もうっと。
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「ただいま戻りましたB・Uさん。お土産ありますんでさっそく食べましょ~」
「おかえりなさい国府谷先生。出先に怪獣が出ましたね。打ち合わせが必要なようです」
そうでした。
旅行は楽しいけど、片付けが面倒だよね。
スーツケースの中身を出して片付けているのを見て、B・U氏も手伝ってくれる。
「ええと、実はどうやら怪獣とレイシアさんの関係なんですが……」
「たった今、同期で確認しました。『レイシアさん』の存在が同期記憶で確認できたのは初めてです」
「え? やっと伝わりましたか!? めっぽうキレイなヒトでしょう?」
今まではレイシアさんと会った部分については同期エラーが生じるとやらで、あの人の容貌やら何やらは全部口頭で伝えてたんだけど。
今回は現実世界でレイシアさんと会ったから同期できたのかな。
ともかくダイレクトに記憶が伝わるなら助かる。
なにせレイシアさんの美しさときたら筆舌に尽くしがたく。
僕のボキャブラリーではとても表現できません。
一応弁護士なんで状況説明は下手ではないつもりだけど、もうちょっと詩的な表現能力も欲しいとこ。
「納得です。どうりで怪獣を呼び寄せたり、同期記憶を遮断したり、ナビゲーターとの回線に割り込んだりできるわけです」
「なにを納得したんですかね」
「国府谷先生、その『レイシアさん』と戦ってはいけません」
「別に戦う気はないんですが」
なんでいきなり戦うという話が出るのか。
というか、一緒に実家に来てくれって、コレ多分プロポーズだよね。
僕は今、レイシアさんのプロポーズを検討中なんですが。
「もしも『レイシアさん』とエクスディクタムが戦えば、確実に負けます」
「はあ? レイシアさんですよ? 怪獣の話じゃないんですよ」
話がサッパリ分からない。
「高度な存在が怪獣の背後にいるとは考えていましたが、想定される中でも最悪です」
「えと、レイシアさんってそんなに強い方なんですかね……」
「今まで戦った怪獣とは全く次元が違います。
比較で言うならばエクスディクタムの全能力が解放された状態と同じレベルでしょうか」
ホンマかい……。
それだと結婚した後に夫婦喧嘩で殺されないためにも、確かにずっとエクスディクタムに乗ってないとダメなのかも……。
「あの、B・Uさん。僕レイシアさんから一緒に来ないかって誘われてるんです。もしも僕が一緒に行けば地球に怪獣はよこさないって言ってくれたんですが……」
「なるほど。どのみち戦っても勝ち目がない以上、その提案に乗るのもひとつの手です」
「ええんですか!? エクスディクタムに乗ったまま地球の外に行っちゃっても」
「仕方がないでしょう。抵抗する術はないのですから」
そ、そうなの?
っていうかそこまで?そこまで桁違いなの?
レイシアさんって一体何者!?
「ですが国府谷先生はそれで良いのですか? 恐らく『レイシアさん』と一緒に行くということは……」
「なんですか? 彼女の実家に問題でも?」
「宇宙のあらゆる惑星のあらゆる生物を支配下に治めるために戦い続けることになりますよ」
・・・・・・・・・・。
「さっぱり意味が分かりません!!!」
「地球人に分かるように説明するのは困難なのですが、近い意味で説明します」
地球人の把握レベルってそんなに酷い!?
マジに全く意味が分からないんですけど。
「『レイシアさん』は超越的存在である故に、その本質は『支配者』です。宇宙のあらゆるものを征服し、秩序を作り上げ支配することが本能となっています」
「はあ…?」
「恐らく怪獣は『レイシアさん』により征服された他の惑星の戦闘生物です。怪獣は駒なのですよ。『レイシアさん』は己の征服した対象をコマとして他の惑星に送り出し、延々と支配範囲を広げているのです」
つまりなんだ。
レイシアさんはいろんな星で侵略行為を行って、ヨソの惑星の生命を支配して、その支配下に収まった生物を使って次の侵略を繰り返していると?
「えーと、それだとレイシアさんが極悪な感じに聞こえるんですが」
「『レイシアさん』としては悪いことをしているつもりはないのでしょう。あらゆる生命は優れた存在に支配され秩序がもたらされるべきだと考えているのですから」
「それがホントなら支配される側はよい迷惑だと思うんですけどね」
「どうでしょうね。優れた存在に支配されることを望む者達も多いものです」
「そうかなぁ……」
「恐らく地球もそのターゲットになったのでしょう。そこで『レイシアさん』は偶然エクスディクタムを発見した。戦力として取り込みたいのではないかと考えられます」
偶然……?
「B・Uさん、あなたのおっしゃることが本当だとして、どうしてそこまで分かるんです? 僕と記憶を同期しレイシアさんの姿を見ただけなのに。推測にしては大胆過ぎるんじゃありませんか?」
B・U氏がここまで断定的に言うのは珍しい。
「それは『レイシアさん』は、エクスディクタムと近い存在であることが判明したからです」
「は?」
どゆこと?
いや『近い存在』とか意味分かんないんですけど。
大体レイシアさん別に巨大ロボとかじゃないですよ。
全然違うじゃないですか。
「エクスディクタムの組成を私は認識しています。ですから近い存在は分かるのです。これは由々しき事態です。『レイシアさん』は国府谷先生を『ミツケタ』と言っていましたね。もう逃げられません」
「別に逃げる気はないんですけど……」
B・U氏は相変わらず無表情だし、淡々とした喋りっぷりなんだけど、危機的状況にあると言いたいのは分かった。
『時が来た』
背後から声が聴こえる。
振り向くと、そこにはレイシアさんがいた。
ここ、僕の家ですよ。
このヒトが突然現れるのは先日経験済みとはいえ、いきなり僕の家に現れるのはさすがに驚く。
家の鍵を渡した覚えはないし。
まだそこまでの関係とは言えないから。
あ、でもプロポーズされてて検討中なら鍵くらいは……。
って混乱してるな僕。
思いがけず『彼女の自宅訪問』イベント発生なんだけど、なんかそれどころじゃなさそう。
レイシアさんは僕と瓜二つのB・U氏の姿を見ても特段驚いた節を見せない。
『ここにあったか。B・U』
レイシアさんはそう言って満足気な笑顔を見せた。
こんなときだけど、やっぱりキレイなヒトだ。
B・U氏のことを知ってるのかな。
「ええと、いらっしゃいレイシアさん。コーヒーでも飲みますか?」
彼女が家に来たら、やってみたいこと沢山あったんだけど。
とりあえずお茶をすすめる。
『答えを聞きにきた』
いきなり本題か。
でもそういう口数少ないカンジのところもレイシアさんの魅力だよね。
「あの、先にちょっと確認したいんですが」
レイシアさんは静かに頷く。
「レイシアさんと一緒に行ったら、宇宙征服のために戦い続けるってことなんですか?」
B・U氏はそんなことを言っていた。
まさかな内容だけど、一応確認してみないと。
『レイシアはこの世界に秩序をもたらす存在。これからはキミとともに』
まさかでしたか。
「でも地球は見逃すということですか?」
『この星に怪獣を差し向けないことがキミの条件。
ならば怪獣ではなくレイシアが直々に制圧すれば良い』
これ、ダメだわ。
「すみませんレイシアさん、その条件はのめません。
地球が支配されるというのは納得できませんし、地球以外の星の生物なら良いとも思えないので」
『断る?』
「別の条件でお話できませんか?」
『他はない。チャンスを与えたのに残念だ』
そういえばレイシアさんは以前言っていた。
『すでに目的は達したも同然だが』
『キミにチャンスをあげる』
と。
何のチャンスだった?
レイシアさんの目的って?
レイシアさんは僕に近寄り、その手を伸ばす。
抱きしめ、られた……?
「レイシアさん……?」
次の瞬間、僕の視界は真っ赤に染まった。
こんなとこですが本章終わりです。
ここで止めるのはちょっと酷いので、なるべく早く次章更新します~。
次章!シリアス展開なのに国府谷先生はわりとのんき!




