6 関係疑惑
「じゃあ海上にいるB・Uの付近に転送するわねー」
ナビィさんに転送を頼むと、エクスディクタムは怪獣ギザザメを抱えたまま一瞬で地表に移動していた。
ここはどうやら海岸沿いから少し離れた岩礁の上。
見回す限りでは人の姿はないようだ。
まだ太陽は上方にあることから、あまり時間が経過していないのが分かる。
両腕でしっかり掴んでいた怪獣ギザザメもちゃんと一緒に来ている。
ではさっそく怪獣ギザザメをかじってみますかね。
――――― いただきまーす!
エクスディクタムの顔を近づけると……。
あれ?なんか怪獣ギザザメの様子がおかしい。
さっきから痙攣するみたいに小刻みに動いていて……。
特に上方に向いた4つの目のような部分が……?
「様子が変よ! 気を付けて国府谷先生!!」
ナビィさんが言うのとほぼ同時に、その眼球の部分がいきなり肥大化し……。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・う
――――― うぎゃああああああああああ!!!!
ああっ!!
あぶっ!
ひぃえええええええ!!!
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
は、はぁ、はぁ、ふ、ふぅ……。
「大丈夫? 国府谷先生?」
――――― し、失礼しました。
ああ、ビックリした。
驚いたぁ……。
関西人ともあろう者が言葉を失ってしまうとは。
いやもうコレ、描写してもいいの?
すごくグロテスクだったんだけど。
なんかコードに触れたりしない?
表現をソフトにして説明してみる。
海上に上がってほんの短い間に怪獣ギザザメの身体が膨らみ始めた。
眼球もまた肥大化した。眼球は中の圧に押し出されるかのように飛び出して、エクスディクタムの視界にブチ当たる。
眼球はぶしゅっと音を立てて破裂し、エクスディクタムの顔に体液がモロにかかった。
続いて眼球の飛んだ後の目の窪みからビシューっと体液が吹き出す。
さらに怪獣ギザザメの表面はプチプチと小さく破裂を繰り返し……
以下略!
とにかく気持ち悪かった!
実際に怪獣ギザザメの破裂した眼球が当たったのはエクスディクタムの顔部分なんでしょうけど、普通に自分の顔に当たった感覚だからもう!
今のなんだったんだ? 自爆?
「ひょっとすると深海の水圧に耐えられるように内部の圧力を高めにカスタマイズされた個体だったのかも知れないわね。だから地上の気圧では内部の圧が高すぎて破裂しちゃったのかも」
――――― そ、そういうものなの?
そういえば、怪獣ギザザメはどこへ行ったんだ?
あまりに気持ち悪くて、とっさに遠くに投げてしまったような記憶があるんだけど。
「国府谷先生」
――――― ? 聞き覚えある声。というか僕の声。
B・Uさん? 近くにいるんですか?
軽く周囲を見回すと、しゃがみこんでいるエクスディクタムの近くに小さな人の姿があった。
「お疲れ様でした国府谷先生。
無事怪獣は塵と化しました」
エクスディクタムの聴力はとても良いので、エクスディクタムよりもずっと小さいB・U氏の声もちゃんと聞き取れる。
――――― あ、そうですか。
倒したところを見届けていないんですが、倒せたなら良かった。
っと、エクスディクタムは音声発信をオフにしてたんだっけ。
「大丈夫です。国府谷先生の声はナビゲーターが送ってくれています」
――――― そうですか。今回は建物にも一切被害が出なくて良かったです。
今後、怪獣の出現場所をコントロール出来れば被害は今回みたいに最小限に抑えられるんでしょうけどね。
「それが、一切被害が出なかったわけではないのです」
――――― え? なんでや。
海底で戦ってたのに。
「国府谷先生、先ほど怪獣を放り投げましたよね。
アレがかなり飛んでしまって、落下地点の建物が破壊されました」
――――― ホンマ!?
あっちゃー!
誰か犠牲者は出ませんでしたか?
「建物はほぼ全壊しましたが、幸い週末だったためほとんど建物内に人はいなかったようです。私の確認できた範囲で犠牲者は認められませんでした」
――――― そ、それは良かった。
ところでその建物って……。
「鹿児島地方裁判所です」
――――――――――――――――――
『突如現れた怪獣の出現により、鹿児島地方裁判所庁舎が破壊されました。
しかし怪獣はその後すぐに姿を消した模様です』
そそくさと(転送してもらって)鹿児島を後にした僕たちは、近所のスーパーで夕食の買い物を済ませた後さっそく自宅でテレビをつけた。
怪獣の落下で犠牲者が出ていないことを確認したかったためと、ついでに鹿児島地裁が壊れたのがエクスディクタムの仕業ってバレてないかも気になったから。
……犯行現場から逃げたわけじゃないですから!
ニュース番組では、鹿児島地裁の庁舎が破壊されたニュースとそれが怪獣の落下によるものだということまでは報道していた。
『今回、突如怪獣らしきモノが落下してきたわけですが、どういうことでしょうね、解説員の原間さん?』
あー。またいつもの解説員の原間さんか。
怪獣評論家みたいになってない?
『そうですね。どうやら怪獣は地球外から飛来した存在のようですから、着地に失敗したという可能性も捨てきれません』
『なるほど。それでは毎回怪獣が着地に失敗してくれると被害は少なく済んで助かりますね』
『しかしこの可能性はほぼないでしょう。宇宙を渡り成層圏を無傷で通過できるだけの耐久力ある生物が、最後の着地に失敗しただけで消滅するというのも現実的ではありませんよね』
『とすると、今回の現象は他にどのような可能性がありますか』
『私としては、やはりエクスが噛んでいるのではないかと考えます』
いや、結局僕、味見できなかったんですよ。
噛んでません。
(誰も聞いてないけどボケてみる)
『エクスが我々に危害の及ばない場所で怪獣を退治した。その後に怪獣が最後の力を振り絞り逃亡し、そして鹿児島で果てたと考えるのはどうでしょう』
お?
『なるほど。原間さんが言う通りであるなら辻褄は合いますね』
『ええ。エクスはどうやら人間に非常に気を遣っているらしいですからね。以前、根っこ怪獣の件で自らの身を盾にし子供たちのバスを守ったことからも分かります』
おお! 原間さん、随分エクスディクタムに好意的な解釈してくれるようになったんやな!
子どもの乗ったバスを助けたのが良かったのか!
ちなみに『根っこ怪獣』って言ってるのは、僕の命名するところの『怪獣ダイルーツ』のことだな。
僕の方がセンス良いと思うんだけどな。
『ただ、怪獣の出現の頻度が高いのが気になります。
前回出現したのはわずか3日前ですからね。
ここまで地球が……さらに言えば日本が狙われるのには何か原因があるのかも知れません』
『その原因については原間さんはどうお考えですか』
『分かりません。あくまで例えばですが、エクス自体が怪獣を引き寄せている可能性など……』
うわぁ……。
やっぱり解説員の原間さんは原間さんかぁ。
見方が穿っているというか。厳しいわー。
いつもなら「そこまで言うなら原間さん、エクスディクタムの操縦代わってくれませんか」って言うところなんだけど。
「B・Uさん、そういうことってあると思います?」
「と言いますと?」
自宅に着くなり、B・U氏は服を着替えてエプロンを着用し、夕飯の支度を始めている。
この宇宙人はつくづく働き者だ。
「エクスディクタムが怪獣を引き寄せているって話です」
ナビィさんが怪獣について
「国府谷先生が呼んじゃったんじゃないかなって」
と言ったときに、僕は冤罪だって返したけど。
本当に冤罪だったんだろうか。
僕が呼んだのは、レイシアさん。
初めてレイシアさんの使う言語で、あのヒトの名前を呼ぶことができた。
エクスディクタムから降りた僕には決して再現できないけれど。
多分僕があのヒトの名前を正しく呼べたから、だからレイシアさんは姿を現してくれた。
レイシアさんは、僕に呼ばれることを待っている節さえあった。
呼んだことをそれだけ喜んでくれたから。
もしかしてだけど。
レイシアさんを呼んだから、あの深い海の底に怪獣が現れた、という可能性はないだろうか。
わざわざ深海用にカスタマイズされた状態で現れた怪獣。
地上ではほとんど生存に耐えられないような怪獣ギザザメ。
「考えたくないことですが……、レイシアさんは怪獣と何か関係あるのかも」
「そうですね」
って、B・U氏にあっさり肯定されてしもうた!!!
「B・Uさん! そこは『分かりません』とか『その可能性もあるかも知れません』とかでしょ!? いつものパターンだと!!」
「いいえ。『レイシアさん』なる存在は、同期にエラーを生じさせたりナビゲーターとの回線を遮断するほどの存在のようですから。
それが怪獣の出現とリンクするように国府谷先生にアクセスしてきているのですから怪獣と無関係と考える方が無理があります」
そうかも知れませんけど……。
「で、でもレイシアさんは僕に好意的だし……」
「好意に基づく行動が常に相手にとって良い結果を及ぼすわけではない。と、離婚事件に慣れた国府谷先生であれば十分ご存じのことかと」
その通りですね!
ストーカーの行為なんてまさにソレだし。
いや!でも!レイシアさんはストーカーとかじゃないし!!
呼んだの僕からだし!!
「ともかく念のために今後はその『レイシアさん』は呼ばない方が良いかも知れませんね」
……そんなぁ……。
やっとレイシアさんに会える方法が分かったかも知れないのに。
けど、B・U氏の言うことも分かる。
さすがに僕の個人的な恋愛感情で地球を怪獣の危険にさらすわけにはいかない。
もしもレイシアさんが怪獣と関係あるなら、もうあのヒトを呼ぶワケにはいかない……。
――――――――――――――――――
そして本日の夕食は『サメ肉』の刺身です。
ちょうど買い出しに出たスーパーに売っていた『モウカサメ』という種類のサメの刺身。
B・U氏にゴハンをよそってもらって配膳完了。
いただきます。
サメ肉なんて今まで食べたことがない。怪獣ギザザメは味見し損なってしまったことだし。
今思うと、実際に食べるのはエクスディクタムとはいえ、僕もよく怪獣を味見しようなんて思ったもんだよなぁ。
やっぱりどうもエクスディクタムに搭乗してると、僕もなんか微妙に普段とは違う感じになりがちなような……。
「あ、うま」
サメ肉うまい。
値段も安かったし、また買ってもいいな。
サメ肉の刺身を食べながら、やっぱり僕はレイシアさんのことを考えてしまう。
レイシアさんのことは……怪獣と何かしらの関係がある説が濃厚だとしても。
やっぱり。
せめて一度だけでも、レイシアさんに直接聞きたい。
「あなたは怪獣と関係があるのですか?」って。
もしも関係があったとしたら……。
それこそ何か事情があるのかも知れない。
交際を申し込んでおきながら、何も言わずにこっちから距離を置くのも不誠実だと思う。
それにしても、どうしてこんなにも僕はレイシアさんに惹かれてしまうのか。
ま。こういうのは理屈じゃないって言うしね。
7章終わりです。
お付き合いありがとうございました。
また1章分書いたら投下します〜
そろそろ佳境に入りたいけど早いかな……




