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4 呼ばれる名前


「レイシアさ―――――ん!

 レイシアさ―――――ん!」


 僕は声を上げる。


 というか、この空間は一体なんなんだろう。


 今の僕は自分の身体を認識して、自分の声を上げているつもりだけど、多分これは実体じゃないんだろうな。

 エクスディクタムに接続されたまま、自分として意識を保っている。


 だからこそエクスディクタムの翻訳機能が使えるし、レイシアさんと会話もなんとかできるわけで。


 はっ……!


 ということは、レイシアさんに会うためにめかしこんできたのも散髪に行ったのも無駄ということ……?


 いやでも僕ちゃんと転送される前と同じ服装だよなぁ。

 これって僕が記憶で作ってるってこと?

 ならオシャレも無駄ではないのかな?



「レイシアさ―――――ん!

 僕で―――――す!

 名乗り損なってましたけど、僕は国府谷こうだにあきらって言いまーす!

 地球人で、ええと、有能な弁護士ですよー!」



 あかん。ちょっと見栄はってしもうた。

 虚栄心の高いヤツとか思われたらイヤやな。


 というか、僕は今日は叫んでばかりなのに成果が上がった様子がない。

 転送もうまくいかなかったし。



 ここは発想の転換が必要かな。

 叫ぶとかじゃなくて……。



 レイシアさんを思い出してみる。


 あの透明感のある緑や紫色の光が流れるような姿。

 僕のために擬人化してくれた豊かな長い髪のあの姿。


 そして声。

 聴き取れないけれど、音楽を奏でるような声。


 あの声、再現できないかな。



『✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽』



 思い出そうとしてみると、不思議なほどにリアルに思い出せた。

 緻密なまでの記憶の再現。

 まるで今そこにいるようだ。

 レコーダーで再生するかのように音が脳内に響く。



 なんで? 人の記憶はここまで完全に再現されるものじゃないはず。


 あ、そうか。


『エクスディクタムの脳で考えているから』なんだ。


 エクスディクタムの脳は記憶の再現能力もハンパじゃないってことか。

 すごいな。

 これだけの記憶力があれば司法試験合格なんて余裕じゃないか。



『✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽』


 これは僕の聞いたレイシアさんの名前。


『✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽』


 何度も繰り返し思い出してみる。

 まるで今聞いたかのような、忠実な再現。


 本当に音楽を聴いているようだ。

 聞いていると幸せな気分になっちゃうよ。



『✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽』



 何度も聞いていると、口ずさむことができないかなって気になってきた。

 多分、人間の僕にはその名前について発声することはできない。


 だけど、エクスディクタムの発声能力なら違うかも。

 よーし!



「✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽」



 ……!! 言えた!!

 さすがエクスディクタム!



「✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽」



 レイシアさんの名前!

 僕がレイシアさんの名前を呼ぶことができるなんて。


 何度も口に出してみる。

 これはつまり、僕がレイシアさんを呼んでいるってことだよね。

 

 何度かレイシアさんの名前を呼ぶうち、気が付くと自分の視線の先に点滅するように明るい緑や紫色の光が浮かび上がってきた。



「レイシアさん……?」



 目の前にいるのは、僕の探していた美しいヒト。

 その宝石のような瞳で僕を見つめている。


 そうだ。



「✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽」



 言えるようになった名前を呼んでみる。


 すると、レイシアさんは一瞬きょとんとした表情をした後、その顔に笑顔を浮かべた。



「✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽」



 僕も嬉しくて、もう一度名前を呼ぶ。



『ヨ…デ……クレ、タ…ノ…』



「そう! 僕、あなたにお会いしたくて。

 あなたに会うためにここに来ました」



『……ウ…………シイ……』



「喜んでくれたなら僕も嬉しいです!

 あの、僕とお付き合いしてくれるというのは僕の勘違いじゃないですよね!?」



 レイシアさんは、今度も小さくだけど頷いた。

 でも今回は気のせいじゃない!


 レイシアさんはさらに僕に近づき、僕の手を取る。

 そのまま、レイシアさんの頬に僕の手の甲を触れさせた。


 うわぁ……。

 手の甲からレイシアさんの頬の感触が伝わってくる。

 擬人化しているからか、人間の肌のように感じられる。

 


「あの、交際してくださるなら、連絡先とか教えていただけませんか!?」


 交際といえば連絡先だよね!

 SNSのアカウントとかないかな。

 あ、あかん肝心なこと忘れてた。



「名乗るのが遅くなって申し訳ありません。

 僕の名前は、こうだ……」



『エクス……ディクタム』


 え?



『キミ……、エクスディクタム』



 なんで、レイシアさんはエクスディクタムの名前を知ってるんだろう。

 というか、僕の名前だと思ってるの?それを。



「いえ、僕は確かにエクスディクタムに搭乗してますけど。パイロットなので」



 おっと、これって守秘義務違反だったりしないかな。

 でもB・U氏は「スベテノ人間ニ」話さないで欲しいと言っていたから、宇宙人のレイシアさんはセーフかと。


 そもそもレイシアさんはエクスディクタムについて知ってるみたいだし。



「僕はエクスディクタムのパイロットです。国府谷こうだにあきらと……」



 レイシアさんは首を微かに横に振る。

『違う』という意思表示か? 



『エクスディクタム。

 キミヲ、タスケル……』



 また。

 君を助ける、と何回か聞いた言葉。


 レイシアさんは、エクスディクタムを助けようとしてるの?


 何から?

 怪獣から?



『エクスディクタム……』



 レイシアさんは、僕の手の甲に自らの頬を静かに撫でさせながら、愛しい相手を見るような瞳で僕を見る。


 お付き合いしてるとなれば嬉しいことなんだけど……。


 その眼は、僕を見ていないんじゃないか。

 レイシアさんは、本当は僕じゃないものを見ているんじゃないかなんて

 そんなことを思ってしまった。


 せめて、僕の名前を呼んでくれればいいのに。



『エクスディクタム、キミヲ、タスケル……


 ソノ、タメニ……』




 そのために?




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― 新着の感想 ―
[良い点] 第40部分到達、おめでとうございます! [気になる点] >その眼は、僕を見ていないんじゃないか。 >レイシアさんは、本当は僕じゃないものを見ているんじゃないかなんてそんなことを思ってしまっ…
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