3 ナビィさんの孤独
「いらっしゃーい国府谷先生!!
怪獣出てないのに来てくれるなんてナビィさん感激ー♪ ゆっくりしていってね!」
エクスディクタムに転送されると早速ナビィさんが出迎えてくれる。
相変わらず暗闇の中なので、ここがどこだか分からない。
「ニューロン交感開始〜」
いつものアレが済むと、周囲が明るくなる。
――――― あれ?
ここは……どこですか? ナビィさん。
おかしいな。いつもと違う……。
周囲の大気が重いような……。
それに静かだ。音を感じない。
エクスディクタムは聴力がすごいから、いつもなら必ず何かしら音を聴き取れるのに。
なんとなく足元がふわふわしてるような……。
「ここは海底深く。国府谷先生が乗っていない間、普段エクスディクタムはこのあたりに身を置いているの」
――――― はあ、なるほど。海底……。
って、酸素とか無いんちゃいますか!?
僕、空気なくて大丈夫なんですか!?
「大丈夫よ。エクスディクタムには酸素は必要ないから」
――――― いや、エクスディクタムに必要なくても僕は!?
僕の吸う空気大丈夫なんですか?
エクスディクタムの機内って十分な酸素あるんですか!?
「必要ないわ。
以前説明した通りエクスディクタムと接続されると『彼』の感覚が国府谷先生のメインセンシズになるの。元の身体は現状維持したまま活動休眠状態になるって言ったわよね。
その間は歳も取らないし呼吸も必要ないのよ」
――――― ええと、ええと!!
僕の身体って今呼吸すらしてないってわけですか!?
僕は!? 今こうしてる僕は一体なんなの!?
「敢えて言うならエクスディクタムそのもの、かしら?」
――――― そうなん!?
ち、ちなみに僕の身体が呼吸もしていないってことは、僕の脳も動いていないの!?
「さすが国府谷先生、察しが良いわね。ステキ!」
――――― いやあそれほどでも……って、ちゃうわ!
ホンマ!? じゃあ僕は今、エクスディクタムの脳で物を考えているってこと!?
僕は今一体どんな状態なんだ!?
「うーん、国府谷先生に分かる言葉で例えるなら、高性能のCPUを搭載したエクスディクタムというPCに、国府谷先生自身の脳が物理ドライブであるDドライブとして搭載された感じ?」
――――― だとすると、僕の脳のCPU部分は今は使われてないってこと?
でも僕の意識ってCPUのことと違うの?
「そうねえ。国府谷先生の意識は例えるならOSとか?もしくはコアとして、PCを使う側、つまりユーザーとして存在するということかしらね」
考えると混乱しそうな話なんだけど、そこが不思議と僕は落ち着いている。
動揺したような態度は芸風やから。
――――― こうして落ち着いていられるのは、ひょっとしてエクスディクタムの『脳』でモノを考えているからなのかな。
「どうかしら? 国府谷先生はもともと危機感が薄いタイプだから」
ナビィさんが言うから、そうとも思える。
まあどっちでもええか。
「今まで怪獣退治が最優先だったから、あんまり自覚的にエクスディクタムの感覚を使ってなかったと思うのよね。この機会に実感するのは良いと思うわ。
今日はじっくりエクスディクタムとしての自分を感じてみて欲しいな」
――――― はぁ……今日は課題多いな。
ですが生憎そこまでゆっくりする気はないんです。
今日はレイシアさんを探すのと、怪獣についての調査が目的なんで。
「そっか。でも怪獣がいないのにエクスディクタムに乗りに来てくれたのが嬉しいから頑張って協力しちゃうわね」
――――― おおきに!ナビィさん!
早速ですがレイシアさんに会うためにはどうしたら良いと思いますか!?
なんかアイデアあったらぜひ!!
「アイデアってほどじゃないけど……。
以前そのレイシアってのと国府谷先生が会ったというとき、国府谷先生との接続が邪魔されたじゃない?」
ナビィさんはそんなこと言ってたな。
「だから逆に一時的に私との回線を遮断して、独立状態になった上でレイシアを呼んでみたらどうかしら」
――――― なるほど!
いいですね!
早速お願いします。
「でも正直、私は心配。
私との回線を遮断したら国府谷先生はひとりっきりになっちゃう。ひとりはとても寂しいわ」
――――― そんな長い時間やないですか。大丈夫ですよ。
「回線が遮断されたら、国府谷先生の時間感覚もコントロールが狂っちゃうかも。万が一再接続ができなくなってしまったら国府谷先生はひとり永い時を送る可能性だってあるんだから」
――――― え、それは怖い。
「でしょ。それに私も怖いわ。
もうひとりはイヤ。国府谷先生がここに来てくれるまで私はずっとひとりだったの。ずっとこの海底でひとりだったのよ」
――――― それは……。
どうして?ナビィさんはどうしてそんなツラい目に?
「エクスディクタムが地球に託されたとき
エクスディクタムを地球人の手で動かせられるように私というナビゲーターが置かれたの。
けど、寂しさを感じてしまうのはそのせいじゃない」
――――― というと、なんのせい?
「あなたのせい。」
――――― えーと。
それはさすがに冤罪ではないでしょうか。
確かに僕はナビィさんのおかげでいろいろ助かってますけど……。
地球人の一人というだけでそれを負わされるのは少々厳しすぎるのでは……?
「私はあなたのために存在してるの。
あなたを理解し、最適なナビゲートを提供する。
だからあなたの望みなら叶えてあげなくちゃ」
「接続、遮断するわ」
――――― え? 今!?
今ちょっとナビィさんの話も気になるとこなんですが!
ナビィさん!ナビィさ―――ん!!
ナビィさん!!?
あかんわ。
ナビィさんとの接続が切れたみたい。
でも、なんかすごいことを聞いてしまったかも知れん。
ナビィさん、そんなに長い間独りきりでこの暗い海の底におったのか……。
B・U氏も言ってた。
何千年もの長い間『恩人』との約束を守って地球にいた、って。
その間ナビィさんもずっとエクスディクタムのナビゲーターとしてこの海底に身を潜めていたってことなのかな。
地球を怪獣の侵略から守るために……。
それなら確かに地球人として責任を感じないこともないけれど。
『あなたのせい』って、そういうことかなぁ。
地球を怪獣の侵略から守るためにエクスディクタムが託されたって言ってたけど
それって、いつか怪獣が侵略に来るって分かっていたってことなんだろうか。
なぜ?
……あかん。
考えても分からんことばかりだ。
推理の基礎となるデータが足りない。
それより今は、当初の予定通りレイシアさんを探そう。
なんの成果も上がらんのではそれこそナビィさんにも申し訳立たんしね。




