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2 転送訓練


 そんで週末。


 今日はレイシアさんと、ついでに怪獣調査のためにエクスディクタムに搭乗します。

 怪獣が出てないのにエクスディクタムに乗るなんて初めてだよ。


 エクスディクタムに搭乗していると時間が緩慢に感じられるから1日でもかなりの探索ができると思うんだ。

 レイシアさんに会える期待も高まるというものです。


 なんかよう分からんけどB・U氏の話では、エクスディクタムの超感覚とかで怪獣の調査もできるかもとのこと。


 発生源とか怪獣を引き寄せる要因とか分かるかも知れんって、そう都合良くいくかなぁ。


 ほんの3日前に『怪獣ミケーニャ』を倒したばかりだから、今までのパターンだと怪獣は暫く出ないと思う。


 あとレイシアさんに会ったときに恥ずかしくないように身なりも整えておいた。

 昨日は仕事の合間に散髪行っちゃった。

 レイシアさんは緑とか紫色っぽいから、それに合わせた感じで服もコーディネートしたし。

 レイシアさんと会えるかもと思うとソワソワしてまうなー。



 外出の準備を万端に整え終わった頃。 


「で、早速ですが国府谷こうだに先生。

 いつもエクスディクタムに搭乗する際の手順はご存じですよね」


 そう言うB・U氏の本日の格好はブカブカのスエットのような服の上にパーカーを羽織り、フードを目深くかぶっている。顔にはサングラスとマスク。

 つまり彼のお決まりの外出着だ。


 ということは彼も一緒に出掛けるのかな。



「えっと。いつもは怪獣が現れたというB・Uさんの連絡を受けて、怪獣のいる地点に転送されてますよね」


「その通りです。ですが一点補足させていただくと、転送は私が行っているわけではありません。正確には私がエクスディクタムにアクセスしてパイロットを引き寄せるように指示しているのです」


「へえ、そうなんですか?」


「そうなのです。つまり怪獣のいる地点に自らの機体を転送したり、パイロットをエクスディクタム内に引き寄せたりすることは、すべてエクスディクタムの持つ能力によるものです。

 国府谷こうだに先生がまだ順応不十分で機能をほとんど使いこなしていないだけで、エクスディクタムには時間軸や空間軸の座標をコントロールする能力が備わっています」


「あー。はい」


 エクスディクタムには僕が想像もできないようなすごい能力があるってナビィさんも言ってたな。

 すでに想像できません。



「私が言いたいのは、私が関与しなくても国府谷こうだに先生はいつでも自由にエクスディクタムに搭乗し、どこかへ移動することも可能であるということです」


「ほお。そら便利なことですね」


 それができるなら、エクスディクタムを使えばどこへ移動するのも簡単だろうけど。



「ええと、でも別にその必要はないですよ。エクスディクタムを私的に使う気はないですし、今まで通り怪獣が出たときに呼んでもらえればそれで」



 出張にエクスディクタム使って交通費浮かせても意味ないよなぁ。経費はクライアント持ちだし。

 旅行は行くまでの道のりも楽しみのひとつだから、こちらも一瞬で移転してもねえ。



「初めて国府谷こうだに先生にお会いしたときのことを覚えていますか?」


 B・U氏に初めて会ったとき?

 それは、東京地裁に溶岩怪獣が出現して……。



「本来であれば国府谷こうだに先生はあと0.3秒もなく瓦礫に潰されて死んでいたところでした。

 あの状態からエクスディクタムに転送し生き永らえましたね」



 ホンマにあのときはマジに死ぬと思ったわ。

 走馬灯走らせたりしてたしね。


 死ぬ間際って不思議な時間が流れることを知った。

 今となると全てが夢のようでもある。


「あの折は助かりました。だから責任もって怪獣退治しますよ」


「お願いします。国府谷こうだに先生が契約を守る方で助かります。

 今後、あの時のような事態が起きた場合に、私が必ず動ける状態にあるとは限りません。

 国府谷こうだに先生には命の危機に際して、自らの身を転送し身を守って欲しいのです」


「なるほど」


 命の危険かぁ……。

 できるならもうあんな目には遭いたくない……。


 でも僕は確かにエクスディクタムに乗ってないときはケンカも出来ない弱い人間だ。

 どこで命の危険があるか分からない。


 僕が死んだらエクスディクタムのパイロットは別の誰かになるらしいけど、その相手が見つかるまでは怪獣に地球は壊され続けるとのことだ。


 僕があんまり簡単にくたばってしまうとB・U氏的にも都合が悪いことも分かった。


 それに、後藤さんの夫の件みたいに変な相手に襲われたときに一瞬で逃げられるとなると弁護士としてはかなり有利ともいえるかな。



国府谷こうだに先生の順応度合から見て、エクスディクタムへの転送が簡単にできるとは思いません。ですが少し練習しておいてくださいませんか?」


「分かりました。練習だけはしてみますわ」


 というわけで今回はエクスディクタムに転送されるところから始めます。



「ほなどうしたら良いでしょうかね」


「エクスディクタムとコンタクトを取ってください」

「どうやって!?」


 いきなり難解なんですが。



「エクスディクタムはすでに国府谷こうだに先生をパイロットと認識しています。ご自身がエクスディクタムそのものになったことを想像し、体内に必要なコアを取り込むイメージを持ってください」


「そう言われましても……。

 そもそもエクスディクタムそのものになったことというのが想像できないんですが」


「できますよ。いつもエクスディクタムを操縦しているでしょう。あれはすでにあなたがエクスディクタムそのものになっているのですから」


 無茶言わんでください……。


 ともかく訳分からんながらも一応言われるままに『想像』してみたけど……。




「エクスディクタム!!転送!!」


 ・・・・・・


「エクスディクタム!ゲット・オン!!」


 ・・・・・・


「搭乗!エクスディクタム――――――!!」


 ・・・・・・


「エクスディクタム、迎えに来たってや――――――!」


 ・・・・・・




 はあ、はあ、はあ……

 ぜい、ぜい……



 ……結局『転送』なんてものは出来ませんでした。



 いろいろ掛け声とかも工夫したけどうまくいかない。

 こういうのは気合かと思ったんだけどな。

 声がかれちゃったよ。



「おやもう昼ですね。

 国府谷こうだに先生がいろいろ叫んでいる間に軽く昼食を作りました」


 いやその『いろいろ叫んでる』とか酷くないですかB・U氏……。

 言われるままに練習しているのに。


 ともかくB・U氏お手製のハムサンドを食べる。

 ワサビが効いてて美味いな。



「B・Uさん、転送されへんのですが」


「ともかくお疲れ様です国府谷こうだに先生。

 すぐにできるとは私も思っていません。おいおい何とかなるでしょう。

 本番に強い国府谷こうだに先生のことですから命の危機になれば自然とできるようになるかも知れませんし」


 なんか怖いフラグ立てないで欲しい。


「午後はいつも通り私が転送させます。エクスディクタムに搭乗し、探索行為に精を出してください」


「叫びすぎて声が涸れてしもうたんで、そうさせてもらいますわ……」


 なお、僕の家の中は怪獣避けのためにB・U氏が特殊な措置を施しているらしく、どんなに叫んでも声は外に漏れないとか。

 ご近所に迷惑かけずに済んで助かります。

 これなら宅内カラオケも可能かな?


 それにしてもこの日本で僕みたいな変わった週末を過ごしている弁護士はあんまりいないだろうなぁ……。

 なにやってるんだろ。

(午前中はひたすら叫んでた)



「昼食も終えたようですし、午後の予定に入りましょう。

 エクスディクタムをどこに転送しましょうか?

 怪獣が出ているわけではないので、どこでも良いと思いますが」


「それですけど、怪獣もいないのにエクスディクタムがブラブラしていると騒ぎになりそうですよね。人目につかない場所に送ってくれればと。あとできれば動いて何か壊す危険のない場所がええです」


「では普段エクスディクタムのいる場所でいかがでしょう」


「え!? 普段エクスディクタムの!?」



 そういえばエクスディクタムって普段どこに置いてあるんだ?

 考えたことなかったなー。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! 特訓(?)シーンは古き良きヒーローもののお約束ですな。w (ウルトラセブンがレオに施したマジキチジープ特訓とか) [気になる点] >でも僕は確かにエクスディ…
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