1 あのヒトに会うために
「お疲れ様でした。国府谷先生」
「はあ、今回も無事怪獣倒せて何よりでしたわ」
というわけで、本日も例によって
①事務所で起案作業中に怪獣の出現をB・U氏からの電話で知り
②エクスディクタムに搭乗し怪獣を倒して
③事務所からの帰り道に切れていたみりんと食材を買って自宅に帰ってきました。
箇条書きにしてみた!
今日の夕食は天丼。
さっき怪獣連絡の際にB・U氏が言っていたので天丼の気分で楽しみにしている。
天丼♪天丼♪
それは置いておくとして……。
「レイシアさんに会えない……」
交際を申し込んで、気のせいでなければイエスの返事をもらっている。
なのに、あれ以来レイシアさんに会っていない。
今日倒した怪獣ですでに3体目。
その間一度もレイシアさんからの接触がないんですけど!
どうして!?
まさか、もう僕に飽きてしもうたのでは……!!
それともやっぱり交際は早すぎると思い直したのかも!
宇宙人心はよう分からんのです。
ああ……天つゆのええ匂いが漂ってきた。
僕の傷心は天丼で癒すしかない……。
「国府谷先生にお伝えしなければならないことがあります」
「え!? 改まってなんですかB・Uさん!」
「実は、天丼の天ぷらがあまりカラっと揚がらなかったのです。
同期した国府谷先生の知識に従って作ったんですけど」
「あ~」
そうでした。
僕もあんまり天ぷらをキレイに揚げられんで最近はめっきり出来合いのを買っていたんだ。
僕が作れないものをB・U氏が作れるはずがなかった……。
「タレである程度は誤魔化していますけれど、天ぷらは出来合いのものを買って来た方が良いのでは?」
「そうかも……」
天丼も僕を癒してはくれないのか……。
ぺしゃぺしゃの天丼は僕の心の涙だ……。
でもせっかく作ってくれた天丼だからありがたくいただきます。
B・U氏は僕の目の前に丼を配膳した。
蓋を開けると、なんというか僕が作ったような天丼。
吸い物もあるし完璧やんな。
もぐもぐ……。
やはり天丼と言えばエビ天丼。
わざわざ特選冷凍ブラックタイガー(エビ)を購入し、B・U氏にリクエストしたんだ。
うむ、ぺちょぺちょでも天丼は美味しい。
素材の味が効いてる。
しかし、どうしたら天ぷらをカラッと揚げられるんだろうな。
「で、国府谷先生。本日の怪獣退治はいかがでしたか」
夕食がある程度進んだ段階でB・U氏が切り出した。
既に必要な事項は同期で記憶共有してるだろうから、特殊な事情とか疑問とか感想といったものが求められているんだろう。
「今回もレイシアさんに会えませんでした」
「そうですか」
僕が一番関心があるのはこの点。
B・U氏がレイシアさんの件について無関心なのか興味深いと思っているのかは正直よう分からん。
無表情だからねぇ。
「やっぱりピンチにならんとあかんのでしょうかね。今回の『怪獣ミケーニャ』も、前回の『怪獣ロブスターン』もその前の『怪獣チューリッパー』もわりと難なく倒してしもうたし」
「どれもお見事でした」
「いえいえ」
僕が気絶するようなピンチがなかったからレイシアさんは現れなかったのかも知れない。
ちなみに『怪獣ロブスターン』のせいで天丼が食べたくなってしまったのは余談である。
なお、3回とも死者等の犠牲者は出なかった。
エクスディクタムの聴力の向上が大いに役に立っている。
もっとも全く犠牲がなかったわけではない。
この3回の間に犠牲になったのは、水戸地方裁判所、津地方裁判所、大分地方裁判所。
なぜか全部裁判所だけど、これは偶然に過ぎない。
尊い犠牲だった。
「やっぱりピンチにならんとレイシアさん来てくれないのかも。
けど以前は危機的状況になくてもお会いできたんだけどな。
どう思いますかB・Uさん」
「さあ。私はなんとも」
「可能性としては『おつきあいOKされたと思ったのは僕の気のせいだった』説か『思ってたのと違うからやめる』説が一般論として挙げられる有力な説ではないかと思うんですが。
でも『思ってたのと違う』というほど接触してないですし前者ですかね。
どう思いますかB・Uさん」
「まったく見当もつきません」
「そうですよねぇ。
僕もまったく見当もつかんで……。
いや待てよ。例えば今まではいつもレイシアさんから僕にアクセスしてくれたやないですか。でも付き合った以上は僕からの積極的な態度を求めてるとか。
こんな説はどうですかB・Uさん」
「是とも否ともいいがたいですね」
「そうなんですわ。積極的に否定する理由もないわけで。
恋愛関係を進めるには自分から一歩踏み出す必要があると誰かが言っていたような気もするし!
となると僕からレイシアさんを探すためにはどうしたら良いかが次に問題になるわけです。
何かアイデアはありますかB・Uさん」
「エクスディクタムに搭乗し、エクスディクタムの感覚を頼りに探してみてはどうでしょう」
「なるほど!」
B・U氏は恋愛相談の相手としても素晴らしいな。
さきほどから的確な合いの手を入れてくれる。
真の会話上手というのは、本人が自分で考え然るべき結果を導き出すよう促すものだしね。
「とはいえ、エクスディクタムを怪獣退治ではなく私的な動機で扱うのは気が引けないこともないんですわ」
「あながち私的とも言い切れません。
そもそも怪獣の目的調査について私の方で進めていますが結果はあまり芳しくないのです。
調査能力の点でいってもエクスディクタムの本来的能力を頼る方が効率も良いと言えます。
エクスディクタムに搭乗し『レイシアさん』とやらの探索を行うのであれば、それは同時に怪獣についての手がかりを見つけられるかも知れません」
「B・Uさん……あんたというお人は……」
僕がためらいなくレイシアさんを探せるように背中を押してくれるなんて……!!
相変わらず無表情のままだけど、キューピッドに見えてきた!
「エクスディクタムで調査を行うのであれば、国府谷先生にはいろいろ試してみて欲しいことがあるのです。怪獣が出ていない以上は急ぐ必要もありませんから腰を据えて取り組みましょう。次の週末にでもいかがでしょうか」
「あ、はい」
って、随分B・U氏が乗り気に見えるな。
怪獣が出てないときにもエクスディクタムに搭乗することは『好ましい』言ってたからな。
僕としては、エクスディクタムに乗ってると感覚がおかしくなる気がするからあんまり積極的に乗りたいとは思わないけど。
でもまあ、レイシアさんに会うためだし頑張るか!




