6 エクスディクタムの感覚
ああ、なんてこった!
またやってしもうたわ。
レイシアさんが、僕に好意的なんだと思ったらつい止まらなくて。
僕がモテない理由は多分このあたりにある。
突っ走り過ぎるとこ!
いつも好意を持った相手に対してとなると頭が空回りしてまうのか、いきなり結婚してだの付き合ってだの言ってしまう。
そんで引かれる。
冗談だと思われたり、流されたり。
「外見だけで判断するなんて失礼」とか怒られたこともあるな。
僕って、失敗は次に活かすタイプなワリにはこの手の失敗を繰り返すよね。
しかも僕ってレイシアさんのこと好きだったわけ?
どんなにキレイでも、あのヒト多分宇宙人だよね?
僕大丈夫なのか?
B・U氏の影響か宇宙人に抵抗がなくなってない?
外見だけで見てると言われても反論できない。
いや、そもそもレイシアさんって女性かどうかも分からないだろ。
『擬人化した』姿が女性っぽかったから、つい女の人だと思ったけど。
そうとは限らないんじゃないか?
で、でも。
僕は比較的リベラルな方だよ?
相手の人種や性別には根本的にはこだわらないから……。
今まで恋愛対象は女性だと思ってたけど、好きなら別に……。
相手がレイシアさんなら、細かいことは気にしなくてもいいかなって……。
「国府谷先生! 国府谷先生!!」
そういえば僕の方はまだレイシアさんに名乗ってなかった!
ここも完全に順番を間違えている。
名乗ったらレイシアさんは僕のことをなんて呼んでくれるかな。
彰君とか?
うわー。
「国府谷先生! しっかりして!大丈夫!?」
大丈夫かと言われるとイマイチ自信がないなぁ。
だってさ、さっき僕がトチ狂って「交際してください!」って言ったとき、気のせいでなければレイシアさん、微かに頷いたように見えたんだよ!
それって、ひょっとしてOKってことじゃない?
僕に彼女ができるかも!
これが冷静でいられるわけがない。
もしもレイシアさんとお付き合いできたら、僕の家に招待して手料理をご馳走したり、一緒にドライブして美味しい物一緒に食べて、僕のセンスの良いところを見てもらうんだ。
宇宙人って何を食べるんだろ。
B・U氏みたいに何でも食べるかな?
「国府谷先生ってば―――――!!!」
そういえばレイシアさんの姿が見えなくなってしまったな。
これはひょっとしてタイムオーバー?
あんまり長い時間一緒にいられないのが切ない。
レイシアさんと会えるのに何か『条件』ってあるんだろうか。
「国府谷先生? 私のこと分かる?」
――― あ。あれ?ナビィさん?
ひょっとしてさっきから声掛けてくれてました?
「よ、良かったー!! 国府谷先生との接続が妨害されちゃって、全然アクセスできなくて心配しちゃった!」
――― 接続が妨害?
僕、気を失ってたんじゃないんですか?
「気は失ってなかったみたい。というか気を失ってたかどうかも分からないの。
国府谷先生との接続が他の接続に邪魔されていた感じ。
どうなってたのかしら」
――― うーん。分からないけど。
そういえばレイシアさんが「回線を繋いだ」って言ってたっけ。
その手の回線が切り替わったとかじゃないかな?
「レイシアさん? 誰のこと?」
――― いえ、また例の『美しいヒト』に会いまして。
今回は名前を聞いたんですけど、聞き取れなかったので『レイシアさん』って呼ぶことにしました。
「ふうん? とにかく今の状況を説明するわね。
怪獣ダイルーツに地中に引きずり込まれてしまったの。あの根のような触手からエナジーを吸われてる感じがするわね」
――― ということは、ここは土の中か。
どうりで土のニオイがすると思った。
今更だけど、エクスディクタムって嗅覚もあるんだな。
とゆーか、エナジー吸われてるって、肥料にされてるんですかね。
それヤバくないんですか?
「そんなに急速にエナジーを吸われてる訳じゃないけど、早いとこ何とかしないと……エクスディクタムが疲れちゃう」
――― 疲れちゃうのかー。
あんまり危機感を感じないけど、まあ、疲れちゃうのはイヤだよね。
エクスディクタムの全身に巻き付いている根っこのようなものを両手で掴み、全力で引いてみた。
土の中なので若干動きに抵抗があるけど、それほど難なく動けるようだ。
根をぐいぐいと引っ張ると、上にいる本体が身体をうねらせているのが分かる。
この根を伝って地上に出ればいいかな。
自分に巻き付いていた根っこを地中に引きずり込むようにして移動し、ようやくエクスディクタムは地上に脱出することに成功した。
「やったエクスだー!!」
「エクス―!!がんばれー」
避難している人々の歓声が聴こえる。
かなり距離があるハズなのに声が聴こえるとか、やっぱりエクスディクタムの聴力が上がってる気がするな。
周囲を見渡すと、周囲一面、地面がボコボコだ。
怪獣ダイルーツの仕業なんだろうけど、被害は大きそう。
「脱出成功!やったわね国府谷先生!さっすがー」
――― ナビィさんがすかさず褒めてくれるので、張り切っちゃいますよ。
さて、次はこの厄介な怪獣を地面から引き抜いてしまいましょう!
のっぺりした建物の横にそびえ建つ木のような怪獣ダイルーツ。
その根元にあるボール状の物体を掴み、地面から引き離すように持ち上げた。
ボールから根が地中に伸びているのが見える。
コレ全部抜かなくちゃ。
怪獣の生えたボールを持ったまま勢いよくグイと引く。
――― うわ、おっと、とと……。
勢いが止まらない。
怪獣ダイルーツを持ったまま、よろめいてしまった。
と、ボコボコと地面が波打って、根が一気に地上に……。
――― あー……。
怪獣ダイルーツの横にあったひと際大きな建造物の真下の地面が根っことともに盛り上がって、直方体の建造物が真後ろにぶっ倒れてしまった。
その衝撃で建物は完全に倒壊した。
これは修復できないなー。
といっても建造物から人の声は聞こえないから、建物内にいた人は避難済みなんだろう。
良かった良かった。
っていうか、エクスディクタムの聴力で人の声が聴こえるのは助かる。
逃げ遅れてる人がいるかどうかが分かるから。
――― ところで、この建物だけやたら高層で立派なんだけど、何の建物だったんかな。
「ええと、完全に倒壊したあの建物は『福岡地方裁判所』ね」
――― 福岡地裁かぁ。
まだ行ったことがなかったんだけど、2018年に移転で高裁・家裁・簡裁と一緒の建物になった、日本で一番新しい地裁なんだっけ。
そうかー。どうりで立派な建物だと思ったよ。
壊れちゃったけど。
でも過ぎたことはしょうがないよね!
根っこをひっこ抜いたところ、怪獣ダイルーツは目に見えて弱っていた。
上方に伸びていた部分もしなびてるし。
――― これ、放っておいても死んじゃうんじゃないかな。
「放っておいたら多分また根を張って復活するんじゃないかしら」
――― そうですね!
倒します!
とりあえずこのボールのような物が本体っぽいので、根っこを掴んだままボール状の箇所を蹴ってみた。
軽く蹴っただけでは壊れない。
そのまま、踵で何度も足蹴にする。
ゲシゲシ!
ボール状の箇所にひびが入り、バラバラに砕け散った。
上方に伸びていた部分も倒れて、しなびていき、そのまま粉々になる。
地上に引きずり出されていた根は、しおしおに干からびるようになった後、細かく塵と化し、そのまま消えてしまった。
――― 倒した!
斯くして福岡市の平和は守られたのだった!
「お疲れ様!国府谷先生!」
というナビィさんの声の他にも、声が聴こえる。
「やったー! 怪獣を倒した!」
「エクスありがとー!!」
歓声の聞こえてくる方向に目を向けてみると、かなりの距離がありそうだった。
けれどよく見える。
双眼鏡でこちらを見てる人もいるみたい。
――― って、そんなのまで見えるのか、エクスディクタムの視力!
すごいなー。
「国府谷先生の順応が進んでるから、エクスディクタムの能力もちょっぴりずつ使いこなせて来てるの。もっとたくさん乗っていればもっとすごいことができるようになるわよ」
――― もっとすごいことですか?
どんなことができるんです?
「エクスディクタムは国府谷先生がまだ想像もできないくらいのことができるわ」
――― うーん、ちょっと興味あるかも。
ちなみに参考までに聞くと、エクスディクタムの機能を全部使いこなせるくらい順応するのって、どれくらい時間がかかるものなんですかね。
「えー。そうねぇ。国府谷先生の順応のペースは悪くないから……。
ざっと50年ほどエクスディクタムに乗ってれば十分じゃないかしら」
――― ごじゅうねん―――――――!?
そんなに待ってられませんて。
「あくまでエクスディクタムに乗ったままで50年くらいね。
毎回30分も乗ってない国府谷先生なら何年かかるかしら。
興味があるなら、ずっとここにいない?
前にも話したけど、エクスディクタムの中にいると元の身体は現状維持したまま活動休眠状態になるから、その間は歳もとらないし50年なんてあっという間よ」
――― いえ、遠慮しときます。
大体、50年もエクスディクタムの中にいたら僕は浦島太郎になってしまうやないですか。
そういうの困るんで。
「そお? ざんねーん。
でも気が向いたらいつでもエクスディクタムに来てくれていいのよ。怪獣退治以外にも、楽しいこといっぱいできると思うのよね。それに……」
――― なんでしょう?
「国府谷先生が気にしている『レイシアさん』? その人と会うのだって、エクスディクタムに乗ってないとダメなんじゃないかしら」
――― そ……そういえば!!
そもそもレイシアさんとの意思疎通すら、エクスディクタムの翻訳能力がないとままならないんでしたわ!!
ということは、レイシアさんと交際することになったとしても、ずっとエクスディクタムに乗ってないとアカンってことやん!
手作り料理をご馳走したり、二人きりでドライブしたりできないのでは!?
そして逆に言えば、エクスディクタムに乗っていればレイシアさんに会える可能性が高くなっている。
今回、レイシアさんは『回線を繋いだ』って言ってたから、僕が気絶しなくてもレイシアさんが会おうとしてくれれば会えるってことでは?
……どうしよう、エクスディクタムに乗っときたくなってしもた。
「うふふ~。いつでも来てくれていいのよ~」
――― 誘惑せんといてくださいよナビィさん!
「そう考えると胡散臭いと思っていたその『美しいヒト』? 国府谷先生をエクスディクタムに搭乗させるために現れたようなものね」
『僕を、エクスディクタムに乗せるために現れた』
その言葉が妙に気になった。
ある意味、怪獣も同じに考えることが出来ないかと。
だって僕は怪獣が現れたときにしかエクスディクタムに乗らない。
現れては比較的簡単に倒される怪獣。
その目的は、ひょっとして……。
地球を破壊することや、エクスディクタムを倒すのが目的じゃないんじゃないか?
B・U氏が言うように、怪獣の背後に高度な存在がいるとして。
そんな高度な存在がみすみすエクスディクタムに退治されるような怪獣を次々に送り込むのが不自然だとは思っていた。
本当の目的は別にあるんじゃないかって。
その目的って、まさか……。
エクスディクタムの活動そのもの、とか。
僕を、エクスディクタムに乗せること、とか……?
うーん。
でも、そんな目的、それこそ「何のため」ってなるよな。
エクスディクタムに乗っていると、どうも頭の回転が速くなっているようで、いろいろ変なことを考えてしまうのかも知れないね。
本章これにて終わりです。
また気が向いたら次章書きますです。
今回は大物の裁判所(高裁入ってるとこ)壊せて満足ですが、大きいところだけ贔屓するのはなんなので、地味な裁判所もしっかり壊していきたいです!




