5 レイシア
エクスディクタムは怪獣ダイルーツの根っこに全身巻きつかれたまま地面に引きずり込まれたみたい。
ちなみにとっさにつけた怪獣の名前、ダイルーツは『大きい根っこ』です。
土中にいるせいなのか、視界すら根っこに遮られているのか、とにかく暗い。
「ナビィさん、どうしましょう?」
?
返事がないな。
「ナビィさーん、ナビィさーん!?
聞こえてますー?」
おかしいな。
僕のボケが酷過ぎて放置方針にシフトしたとか……。
いや、ナビィさんがそんなことをするはずがない!
ナビィさんは常に僕の期待に応えて的確なツッコミを入れてくれる人だ!
これぞ信頼関係!
ということは、ナビィさんとの接続が切れたか、僕が気絶したかのどちらかかな?
気絶した覚えはないけど、普通気絶なんて自分では分からないものだしね。
そして、もしも気絶しているとすると……。
今までのパターンから言えばあの美しいヒトに会えるチャンスかも!?
「あのー! いませんかー?」
あの美しいヒトを呼びたいのに、名前が分からないんだよな。
怪獣みたいに勝手に名前をつけちゃうのはさすがに失礼かと思うし。
僕のネーミングセンスはどうも不評だしなぁ。
『…………、……♪』
あ。聞こえた!
音楽のような音。あのヒトの声!
『※゜ᑫ・#w$[✴t!、.?/゜&;m∈✡#',、』
翻訳!
エクスディクタムの接続切れてませんように!!
「あの!あの!! 名前!
お名前教えてください!!」
しまった。こういうときには自分から名乗るのが礼儀だ。
つい名前が聞きた過ぎて、順序を間違えた!
こういうとこがあるから僕はモテないんだ。
『……ナ、マ……、エ……』
「そう! 名前!
あなたをなんてお呼びすれば良いですか!?」
『ナ、マエ、ハ……
✰⋆:゜・*☽:゜。✰⋆:゜・*☽✰⋆。:゜・*☽』
おお! 美しい名前!!
って聞き取れません!
なんてこった!
美しいヒトは、首を僅かに傾けて不思議そうな表情をしたように見える。
ヤバい。ぐっとくる。
表情が人間のソレと同じ意味とは限らないけど。
なんとか、名前を『音』じゃなくて『意味』で聞き取れないかな。
それなら翻訳で聞き取れるはず。
「すみません、もう一度、お名前をお願いします!!」
『ナ、マエ……、
……レイシ✰⋆:…デシデ☽✰⋆ダ……イ』
レイシオデシデンダイ?
「ええと、失礼かも知れませんが『レイシアさん』って呼んでいいですか?」
美しいヒトは微かに頷いたように見えた。
これは、OKという意味かな?
そういうことにしていいよね。
「あの、レイシアさん。
僕あなたとお話したいことが沢山あるんです」
レイシアさんは僕の方に腕を差し出した。
僕はその指先におそるおそる触れてみる。
いいんだよね? セクハラにならないよね?
指が触れた瞬間、レイシアさんの姿がスペクトルな光を放つ。
うーん、何が起きてもとにかくキレイだなこのヒト。
? あれ?
レイシアさん?
目の前にいるレイシアさんの姿が変化していた。
レイシアさんはもとから人のように二本の足に二本の手、そして頭部があるように見えたものの、人間とは異なる優美な曲線を持つ異質な姿だった。
それが、今は……。
ずっと人間に近い、それも女性のような姿になっている。
透明感のある緑や紫色は変わらない。
だけど、今のレイシアさんには人間の女性のように目鼻口も、豊かな長い髪もある。
ただ全身も髪も、やはり変わらず波のように光が脈打っていて、人間そのものではないんだけど。
例えるなら、美しいと思っていた宝石が、美女の形の宝石になったというべきか。
見惚れてしまう。
目が釘付け。
「ど、どういうことです……?」
『ギジンカ…』
「擬人化?」
ひょっとしてなんだけど、僕とコミュニケーションを取るために僕の姿にあわせてくれたってことなんだろうか。
それって都合よく解釈し過ぎ?
「あの、とにかく今までのパターンから言ってあまり時間がないと思うんです。
僕が気絶している間しか貴女にお会いできないみたいで……」
『チ……&✡ガウ……』
「違う?」
翻訳能力を使いこなせてないせいか、まだ言葉がうまく伝わらない。
もっと『順応』というのが進めば、レイシアさんとの会話もスムーズになるんだろうか。
『コチ&;mデ……カイセンヲ……ツナイダ』
回線を繋いだ?
「も、もしかして……、レイシアさんも僕と話したいと思ってくれているんですか?」
レイシアさんが微笑む。
これって、ひょっとして、ひょっとして……!
好意的って考えていいんだよね?
まるで人間の女性のような笑顔。
擬人化したからか、今までより表情の変化がわかる。
レイシアさんの笑顔は、気品があって、優雅で、眩しい。
どうしよう……。
キレイな宝石のようなヒトだと思っていたのに、なんだか僕……。
『キミヲ……、タスケル……』
”君を助ける”
前にも聞いたこの言葉。
レイシアさんは僕を助けてくれようとしている?
僕と同じように思っていてくれてるの?
僕は、もう矢も楯もたまらなくなってしまって、勝手に言葉を紡いでいた。
「レイシアさん! 僕と交際してください!!」
って。




