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弁護士ですが巨大怪獣によって裁判所が破壊されました  作者: 四十万 森生
第1章 地球が怪獣に狙われた日
3/62

3 巨大怪獣出現


 次の日早朝、僕は東海道新幹線に乗り込んだ。


 すでに指定席乗車券を買っていたので、そのまま乗ってしまった形だ。

 どうやら東京駅まで普通に新幹線は通ってるみたい。



 それにしても…。

 昨日から情報がない。


『巨大生物が暴れている』という話はツイッターに流れているが、あの後、報道は完全に止まってしまったようだ。


「状況が分かり次第、会見を行う予定」とかそんなことは言っているが。

 東京の現在の状況をニュースでも報道していない。


 裁判所書記官は巨大生物なんて見ていないと言っていたし。

 だけど建物に被害が出ているって?


 ツイッターには多くの情報が出ている。

 破壊された都心の写真や動画。


 これはどこまで真実で、どれがデマだか分からない。


 巨大生物らしきものをとらえた動画もいくつかあるけれど、距離が遠いしボケてて鮮明ではない。


 巨大生物らしいものから何か、レーザーだか熱線だか知らないけれど、それが発射されたようなシーンもあった。


 もしもアレがフェイク画像でなければ、あの巨大生物が遠距離に攻撃を加えるようなことが可能なのかも。

 その被害が東京に及んだと考えることができるだろうか。


 あとは…。

 海外のプレスが取材しているようだ。


 むしろ海外ニュースの方が情報が詳しいな。

 在日アメリカ人に対して帰国指示が出ている。


 日本の状況を知るのに、なんでアメリカの報道を見なくちゃいけないんだか。


 ドローンで撮影されたらしき巨大生物の映像がある。


 赤黒い。溶岩の塊のようだけど。

 意思を持って動いているように見える。


 やはり巨大な生物はいると見ていいのかも知れない。



 そうこう考えているうちに、東京駅に到着した。

 本来なら新幹線車内で尋問の準備をしているところだったのに。

 それどころじゃなかった。 



 しかし、東京駅構内の様子は拍子抜けするくらいに平常通りだった。

 東京の人達は今日も変わらず勤務先に出勤しているようだ。


 実は巨大生物はデマだったんじゃないかという気がしてきたぞ。



 東京駅から地下鉄丸ノ内線に乗り、霞が関に着いた。

 地下鉄の駅から階段を上がり、改めて街並みを見てみる。



 ・・・・・・!!


 そこには、様変わりした官庁街が広がっていた。



 さっきまで…。

 東京駅に着いたときにはまだいつもの日常だったのに。


 ほんの30分の間に、何があったんだ?


 確かに無事なビルもあるものの、完全に破壊され倒壊しているビルも散見される。


 倒壊したビルからは炎が上がり、消防車が消火活動に当たっている。

 サイレンの音がけたたましく鳴り響く。


 なぜや。


 なぜ急にこんな!?


 大体、巨大生物は千葉におるんじゃなかったんか?

 なんで東京にこんな甚大な被害が出とるんだ!



 …なぜ僕はここに来てしもたんだ?


 僕はアホかも知れへん。

 いや アホやわ。

 何を考えてたんだ。


 裁判所の書記官が何を言おうが来るべきじゃなかった。


 巨大生物は今どこにいるんだ?


 急いでツイッターを開く。

 モバイルWi-fiの通信は生きているようだ。

 TLの中から細切れの情報を拾う。


 ふと周囲が暗くなった。

 影が落ち、日が遮られた。


 僕はスマホから目を離し、上を向いた。


 

 そこには地上19階建ての東京高等地方簡易裁判所合同庁舎がそびえ立つのだけれど……。

 庁舎の横に何か見慣れない建物が……。


 建物?


 いや違う。


 動いている。


 合同庁舎のすぐ隣に何かがいる。


 ビルと間違えるほどに巨大な何か、赤黒い、山のような形。

 生き物? なのか?



 上方には、2つの目のようなものが輝いている。


 待てよ…。

 目とは限らないだろう。


 なんでも人間の脳は逆三角形の形に三点あると顔と判断してしまうらしい。

 僕がアレを顔だと思ってしまっているだけかも知れない。

 これはシミュラクラ現象と言うそうだ。


 僕がその『顔』を凝視していたからか、一瞬、 僕と目が合ったような気がした。

 そんなワケはないんだけど。



 その生物の両脇から生えている腕のようなものを振る様子が見えた。

 その『腕』が遠心力をもって合同庁舎にぶち当たる。


 合同庁舎が、まるで海外のビル爆破解体作業のように破裂した。

 コンクリートが周囲に飛散し、崩れ落ちていく。



 何だかスローモーションのように見える。


 全てが緩慢なのに、僕は動くこともできず目が釘付けになったまま。


 瓦礫の破片が、僕に向かって降り注ぐ。

 破片といっても、法廷ひとつの天井分より大きいものだ。

 


 もうおしまい。これは死ぬ。


 妙に冷静に、そう思った。



____________________




「ちゅうわけでさ。いやあ、もうえらい目に遭ったわ」


 3日後、事務所に戻った僕は事務員の米山さんに愚痴をもらした。


「先生、ご無事で何よりでした。災難でしたね」


「まったくだ。せっかく期日に出頭したってのに、その直後に東京からの退避命令が発令されたからねえ。官庁関係はほぼ停止状態。結局は裁判も延期。無駄足もええとこだよ」


 裁判は延期になった上、確かに東京で一泊したけど遊ぶどころじゃなかったからね。


 裁判所の崩壊に巻き込まれたということで、自衛隊と役所に状況を報告したり一応医者にも見てもらったりで終わってしまった。



 不幸中の幸いにも早朝だったため、事件関係者のほとんどはまだ裁判所にいなかったようで、関係者からは被害が出なかった。


 しかし裁判所の倒壊に巻き込まれて、裁判所の職員や裁判官の多くが犠牲になってしまったとか。


 あのキレてた裁判所書記官さんも、無事ではないかも…。

 気の毒に。


 裁判官の交替はあるだろうか。

 そうすると、改めて再開される期日はかなり後になるだろうな。



「政府ももっと早く退避命令を出せば良かったんですけどね」


 米山さんの言うのももっともだ。


 確かに『怪獣』なんて、ちょっと信じられる現象じゃないけれど

『事態の確認』なんて待ってたら永遠に避難できない。

 

「そやね。そうしたら東京まで行かなかったのに」

 

 僕も確かに間抜けだった。

 裁判所が何と言おうと、自分で判断して欠席するべきだったんだ。

 こういうときに、政府や官庁に従っていてもロクなことにならない。


 そしてこんなめぐりあわせになることもなかったのに。



「例の巨大生物、東京まで来てもうたんですよね? 先生、直接見ました?」


「見たよ。目の前で裁判所が倒壊するのも見てしまった。驚いた」




『裁判所なんて壊れてしまえばいいのに』



 そんな子どものような願望が、まさかここで叶うとは思わなかった。



「よくご無事でしたね」

「悪運が強かったみたいだ」

「さすがうちのボスですわ」


 褒められた。




 さて。

 何があったのか一応説明しておこうか。


 例の赤黒い巨大生物(以下仮に『熔岩怪獣』と呼んでおく)は、千葉から一晩かけて裁判所付近にまで移動していた。


 熔岩怪獣が合同庁舎を破壊した後、そこに突如として別の巨大な「もの」が出現した。



 街を破壊していた熔岩怪獣と、後から出現した別の巨大なもの。

 その二体の戦いになった。



 時間としては数十分。


 熔岩怪獣は、新しく現れた巨大な「もの」によってなき倒され、跡形もなく消滅してしまった。


 新しく現れた「もの」の方も、その後どこかへ消えてしまったとのことだ。


 これが世間の認識している話。




「あの、新しく出て来た巨大な生物? アレってなんだったんでしょうね」


「なんやろうねぇ。でもアレのお陰で怪獣がいなくなったんだから助けられたんじゃないかな」


「先生はそっちの生物も見ました?」

「見てないんだよ。動画とか画像ないかな。見たいな」


 なにせ、自分では見れないもんだから。


「ほんまもんか分かりませんけど、素人投稿画像でそれらしいものが上がってましたよ」


「どれどれ? へえ~?」


 熔岩怪獣はまるで溶岩のカタマリのようないびつな姿だったけど、後から来た方はちょっとスマートでカッコいいな。人型だし。


「巨大生物というよりは…ロボっぽいね」


「ですね。ウワサでは自衛隊の最新兵器なんじゃないかって」

「ふうん。どのみち政府は情報は出さへんやろうな」



 そうか。


 アレはカッコ良かったのか。



 それは良かった。





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