4 爆炎攻撃
僕は本当にどうしようもないね。
自分のアホなミスにより、どうもまた気を失ってしまったっぽいです。
この暗闇には覚えがある。
そして何よりどうしようもないのは、期待している自分がいること。
だってこれ、前と同じじゃないか。
あのヒトに会えるかも!
そんな期待で胸が躍ってるんだから。
微かな音を期待して耳を澄ましてみる。
『…………、……♪』
……ほら、あの音が聞こえる。
『…j9$’&’”%$♪f…ij0…[la』
透明で済んだ音楽のようなあの声。
前回の経験があるから分かる。
今のこの状態、エクスディクタムとの接続は切れていない。
だから翻訳機能が使えるはずだ。
「あの、こんにちは……?」
音の聴こえる方向に呼びかけてみる。
「また、お会いできましたね?」
二度とその姿を目にすることも出来ないかとも思った。
常識を超えた、人知を超えた美しい存在。
ようやく姿を見せたそのヒトは、やっぱり明らかに『人』とは違うけれど、異質さが全く気にならなくなるほどに、とにかくキレイだった。
純度の高い鉱石のような瞳が僕を見ている。
「あの、僕は」
『h@=^/……8ui※ja;ge-w』
このヒトが声を発するたびに、その全身に流れる光が脈動を打つようだ。
言葉の意味が分からない。
翻訳機能を使うなら、姿じゃなくて音に集中しなくちゃダメだろう。
でもこのヒトを見ていたいという気持ちも強くて、なかなか音だけに集中するのは難しい。
『&i=aア3レ”✡…$%ドウ…♪8;∈…6』
なに?
少しずつ僕に聞き取れる音が増えている気はするんだ。
『キミ、ヲ…7=&…dス'%…L』
君を?
『 …… キ ミ ヲ、タ ス ケ ル 』
――――――――――――――――――
――――― やった!! ナビィさん!!!
「え? どうしたの? 国府谷先生?
今、軽く脳震盪起こしてたみたいだったけど、大丈夫?」
――――― 脳震盪?
何があったん?
「コウモリ怪獣は可聴周波数帯域外……つまり超音波のことね。それを攻撃手段にしているみたい。
それが国府谷先生の脳に物理的に作用を及ぼして、マトモに受けた国府谷先生が一瞬だけ脳震盪を起こしたの」
――――― 一瞬?
「ええ。一瞬だけど?」
――――― さよか。
もうちょい長い時間かと思ったけど、一瞬だったのか。
それより、聞いて下さいナビィさん!
例のあのヒトに会ったんですよ!!
「あのヒト?
私の方では全く覚知できなかったけど」
――――― そうなんですか。
いえそれよりも、あのヒト『君を助ける』って言ってたんですよ!
つまり僕にとっては味方ってことですよね!
「私にはよく分からないわ」
――――― 味方なら、もっとお近づきになれるかもってことじゃないですか!
うわあ、どうしよう。
「得体が知れない相手だから、私からは何とも言えないけど。
国府谷先生はなんでそのヒトにそんなに会いたいの?」
――――― なんで、って……。
「いえ、それより!
気を付けて国府谷先生!
また超音波攻撃が来るわ!」
――――― おおおおっと!
危ない危ない。
またマトモに食らうところでした。
マトモに食らって、さっきのあのヒトに会えるならそれも悪くないとは思うけど。
それでやられてしもたらシャレにならんわ。
あのヒトにそんなカッコ悪いとこ見せとうないし。
大体、怪獣退治は僕の契約上の債務なんだから、ここはしっかりこなさないと!
コウモリ怪獣は、僕が一瞬脳震盪を起こしていた間に、すっかり態勢を整え上空を舞っている。
掴んで地面に叩きつけたいところだけど、とても届きそうにない。
どうしましょう、ナビィさん。
「エクスディクタムが跳躍すれば届くとは思うけど」
――――― じゃあやってみますわ。
少し勢いをつけて、踏み込み、跳ぶ。
相変わらず時間が緩慢に感じるので、まるで宙に浮かぶかのように滞空時間が長い。
コウモリ怪獣の足を掴もうと腕を伸ばす。
あおおっ!
コウモリ怪獣はまた口の部分から超音波攻撃を出したようだ。
危うく直撃を受けるところだった。
超音波だけあって、音が僕に聞こえるわけじゃない。
エクスディクタムの聴覚を発揮すれば聞こえるんだと思うけど、別に聞きたいわけじゃないし。
大体、この音、聞いてもあんまり意味があるとは思えない。
ただ、その超音波の振動で大気が震えるのかな?
その音波が出ている部分の視界が微かに歪むんだよ。
だから攻撃が出ているのは分かる。
超音波攻撃を避けた僕は再び城山公園に降り立った。
公園の中には文化的価値のある建物が多いので、これはこれで壊さないように気を遣うなぁ。
コウモリ怪獣は、最初は突進して攻撃してきたけど、それで何度も僕に地面に叩きつけられたからか、空中から超音波攻撃をする方法に切り替えたらしい。
上空から降りて来る様子はない。
エクスディクタムで跳躍しても、またみすみす攻撃の餌食になるだけだし。
――――― よし、ここは武器ですね!
ナビィさん、スピニングロッポーで行こうと思います。
「分かったわ!例の爆発する六法全書というヤツよね!」
――――― そうなのです。関西の六法全書は投げると爆発するルールなんです。
「生成完了!」
――――― くらえ! 必殺!
スピニングロッポ―――――――――!!
しかし、投げつけた六法全書はコウモリ怪獣に避けられ、空中で爆発する。
まだまだ!! いくで連続!
スピニング・ポケットロッポ――――――!!
やや小ぶりの六法全書を次々に生成し、連続してコウモリ怪獣に投げつける。
爆炎が上空に広がり、コウモリ怪獣の視界を奪う。
「速い!!すごい!! 国府谷先生ってば!!」
――――― 任せてくださいナビィさん!!
下手な条文、数撃ちゃ当たるんです!!
投げた先から次々に爆発する六法全書!
シュールだ。
さすがにコウモリ怪獣も避けきれないようで、爆発に巻き込まれて錐揉みながら城山公園の森の中に落下した。
とどめだ!
僕は跳躍し、ヤツの胴体目掛けて踵から降下した。
コウモリ怪獣は避けることもできず、エクスディクタムの体重の乗った攻撃をマトモにくらう。
コウモリ怪獣は大きく目を見開き、超音波の混じった絶叫を上げ、すぐに静かになった。
そしてそのままコウモリ怪獣の体が崩れていく。
細かく細分化し、塵も残らず消えていった。
……勝った。
こうして愛媛県松山市に平和が戻った。
犠牲者が出ていないことを願います。
「やったわ!国府谷先生!
今回の武器攻撃はノリノリだったわね!」
――――― そうなんです!
気合い入ってましたよ!
だって、あのヒト……。
美しいあのヒトが僕の味方だって分かったから。
『なんでそんなにそのヒトに会いたいの?』ってさっきナビィさんに聞かれたけど、でも当たり前のことじゃないかな。
誰だって美しいものを見たいと思うものでしょ?
美しいものを見て感動したいから、わざわざ美術展などに足を運ぶし、桜や紅葉を見に出掛ける。
だから僕はあのヒトに会いたい。
頑張っていれば、また会える可能性が高まってきたんだ。
いつか、もっとお話しできるかも。
そう思うと、嬉しくてさ。
怪獣退治、がんばるぞー!




