3 コウモリ怪獣
今回も容赦なくエクスディクタムに転送された。
法律相談の最中だから早く戻らなくちゃいけないな。
とはいえ、後藤さんはちょっと取り乱しているみたいだし時間を置くのは多分許されるよね。
相談時間は30分単位だけど、今回は僕の都合で席を外したということで、無料で延長してもええでしょ。
「国府谷先生、いらっしゃ〜い」
――――― ナビィさん、そんなわけで今回は超特急で済ませときたいとこなんです。
「それならがんばらなくちゃね!
ニューロン交感開始!」
――――― ふう。またトコロテンが僕の全身にまとわりつく。
慣れてくるとこれはなかなか刺激が気持ち良いんですよ。
なんというか、マッサージ受けてるときと同じで身体が活性化するみたいでさ。
「そうね。活性化というのはある意味正しいかも。
もともと人間にはなかった神経細胞が電気信号を通しながら少しずつ国府谷先生の体内にも構成されつつあるから」
――――― ん〜? それはどういう……。
視界が明るくなり、目の前に景色が広がった。
ああ、ここは……。
「地名で言うなら、ここは愛媛県松山市一番町ね」
わりとすぐに分かった。
愛媛県庁舎が見えたから。
愛媛県庁舎の本館は、昭和4年に完成の特徴的な近代洋風建造物。
中央にドームがあって、鳥が翼を広げたような左右対称の形が見事だ。
日本人ってこの形が結構好きだよね。僕も好きです。
これが守るべき文化遺産なのは確か!
よっし!壊されないように頑張るぞ!
――――― ところで怪獣はどこ?
周囲を注意深く見回すんだけど、怪獣の姿が見えない。
前回の怪獣マムシーラみたいに地を這っている可能性も考えて下の方もよく目をこらして見ているんだけどなぁ。
「上よ!国府谷先生!」
ナビィさんの示す方向に目を向ける。
……でもなんで声だけの存在のナビィさんの示す方向が僕に分かるんだか。
脳内にダイレクトにイメージが伝わる感じ?
ホントに不思議やねぇ。
――――― ああ、怪獣おったわ。
そこにいたのは、巨大な翼を持つ怪獣だった。
大きな、黒い翼を羽ばたかせ宙を舞っている。
それに尖った耳。
この形状は……鳥というよりは、コウモリかな。
名前は、そうだね。
簡単につけるならコウモリ怪獣っぽく『Bat』をもじって『バットン』とかなんだろうな。
けど、コレは某特撮映像作品で使われた名前じゃないか。
確かにキャラクター名だけでは著作物とならない可能性が高いから、仮にこの世界が小説のような表現物であったとしても著作権侵害の危険性は少ないと思うんだ。
でも、キャラクターの名前は『商標登録』をされる可能性があって、その商標権の侵害の可能性がある。
だから僕がキャラクターの名前をつけようと思うなら、商標権の登録があるかどうかを確認してからにするところなんだけど。
あいにく今は怪獣と戦ってる最中ですから、商標権登録を確認している時間はなさそうだよね。
「今回も余裕ね!国府谷先生」
――――― すんません……。
どうもこの機体に乗ってると危機感が減退してまうみたいで。
「とか言ってるけど、国府谷先生はもともと危機感の薄いタイプだと思うわ」
え?そうですか?
まあええですわ。名前は『コウモリ怪獣』で。
シンプルイズベスト!
「さすが国府谷先生!
ネーミングセンスに一貫性がないわね!」
――――― うん、僕もここはツッコんで欲しいとこやったです!
しかも褒めながらしっかり落としていくあたり、絶妙なテクニックですわ!ナビィさん!
とか毎度のことながらナビィさんと親しく会話しているところに、そのコウモリが突進してきた。
そうでした!
掛け合いしてる場合やなかったわ。
コウモリ怪獣の突進を避けたので、コウモリ怪獣は交差点の地面に激突した。
その衝撃でコンクリートが割れ、コウモリ怪獣が地中にめり込んでいる。
交差点にいた人達が逃げている様子が見えた。
そうか。
今回はまだ真っ昼間。
人が大勢そのへんにいる。
――――― なんとかみんな早く避難して欲しいけど、それより場所をもう少し人のいないところに移さないと。
そうだな。愛知県庁舎の北側には松山城のある城山公園がある。
そこなら建物も少ない。
コウモリ怪獣をそっちに誘導したいな。
「コウモリ怪獣が地面でもがいてる今がチャンスよ!」
ナビィさんの言うように、空に逃げてしまったら捕まえるのが大変。
僕は地面にめり込むように埋もれているコウモリ怪獣の羽を掴んだ。
そのままこれを城山公園の方に投げてしまおう。
そう思ったんだけど、コウモリ怪獣が羽を激しく動かして暴れるもんだから……。
――――― あ、手がすべった。
城山公園の方向からズレて投げてしまった。
投げられたコウモリ怪獣は、落下地点の建物を大胆に破壊し再び地面に転落した。
あー、建物が見事に壊れたなー。
まあ愛媛県庁みたいに文化的な価値はなさそうなシンプルな建物だったから、まあいいか。
みなさん避難してますように。
「ちなみに今壊れた建物は、松山地方裁判所ね」
――――― 松山地方裁判所かぁ。
そういえば愛媛県は県庁所在地が『愛媛市』とかじゃなくて『松山市』なんだよね。
だから『愛媛地方裁判所』ではなく『松山地方裁判所』なんだ。
県庁所在地と都道府県名が一致してるとことしてないとこ、どっちが数として多いんだろう。
「國府谷先生、なんか現実逃避してない?
ちなみに人間のデータベースで検索したところ47都道府県のうち都道府県名と県庁所在地の名前が異なるのは19箇所よ!つまり一致してる都道府県の方が多いってわけね!」
――――― ありがとうナビィさん!スッキリした!
で、でも違うで!!
狙ったわけとちゃいますから。
僕、別に裁判所を壊して回ってるわけやないですから!
ともかく!
またもコウモリ怪獣が地面にいるうちに、今度こそ!
今度は僕はヤツの足を掴んで、城山公園の方向に投げた。
あっちで戦いましょう。
これ以上建造物に被害を出さないためにね。
木々をなぎ倒し、コウモリ怪獣が再度地面に落ちる。
コイツ軽いね。
空を飛ばさなければ余裕で倒せるかな。
地面に仰向けに倒れているコウモリ怪獣の胴体に、体重をかけた蹴りを入れるために僕は跳躍した。
……なんというか、僕はやっぱり戦闘向きじゃないね。
今回のミスは『相手の攻撃手段を確認するために様子を見る』ことを怠ったこと。
コウモリ怪獣と一瞬、目が合った気がした。
その後は何が起きたのか。
耳に、脳に、強い衝撃を感じた。
それから、暗転する。




