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2 宇宙人スタイル


 怪獣マムシーラの出現からそろそろ3週間ってところかな。


 平和な日々が続くのは良いことなんだけど……。

 怪獣の出現する理由は未だ不明のままだし、あの美しいヒトのこともずっと気になってる。


 いけないなぁ。

 僕はあまり要領が良い方じゃないから、仕事に集中しないと。

 ついロクでもないこと考えちゃうしね。


 裁判所壊れちゃえばいいのに、とか。


 最近、ロクでもないことを考えるとなぜかそれがフラグになってしまうことが多いので、気を付けないといけません。



 ともかくあまり仕事が早くない僕は、以前はよく残業をしていたし、夕食は外食で済ませることも多かった。


 でも最近は夕飯をB・U氏が用意してくれるものだから、出来る限り残業をせずに帰宅するように頑張っている。


 とりあえず今日は残業せんで済みそう。

 今のうちに……。



 昼休み、僕は公園で焼肉弁当を食べながら、スマホでB・U氏に電話をかけた。


「B・Uさん、今お手すきですか?」


『大丈夫です。国府谷こうだに先生、何か緊急の用事でもありますか?』


「いや、緊急でもないんですけど。今晩は少し早く帰れそうだから夕飯は僕も一緒に作ろうかと思って」


『なるほど。では風呂の支度だけしておきましょう』


「いつもおおきに~」



 これで良しっと。


 なにせ僕自身が料理のレパートリーを増やさないと、B・U氏のレパートリーも増えないのですよ。


 B・U氏自身が未知のレシピを『調べて』『調理する』ことも可能ではあるけど、それはどうやらB・U氏自身の知識として蓄積されないようなんだよね。


 次の同期のときに僕国府谷(こうだに)あきらの同期用メモリーからは消えて、別の領域にしまわれてしまうとか。


 B・U氏のメモリー領域は何層もあって複雑な構造をしているようだ。

 基本的に、僕との同期用メモリーで表層に出ているもの以外はB・U氏自身の判断では引き出すのが難しいとか言ってたな。


 同期用メモリー以外のものは、『エクスディクタムのパイロット』の権限でアクセス可能らしいけど、それを完全に復元しようとすると「国府谷こうだにあきらが壊れる」という話なので、怖くてアクセスなんて出来ません。


 よく分からない点は多いけど、少なくとも僕自身が料理のレパートリーを増やさなければならない。


 それに僕自身もたまには料理をしないと、腕が鈍ってしまうし。

 いつか彼女ができたときには、手料理を振舞うのとか憧れてるんだよね。



―――――――――――――――――――――――


 昼食を終え、事務所に戻る。

 入り口に米山さんが待っていた。


国府谷こうだに先生、法律相談予約の後藤さんがいらっしゃいました。もう面談室にお通ししていますけど……」


「ん? すぐに行くけど、なに?」


 米山さんがなんだか気まずそうな表情をしている。



「これは私も同席した方が良いかも」

「米山さんがそういうなら、お願いしますわ」



 後藤さんは電話で予約してきた法律相談の人だ。

 受付票には「30代くらいの女性」とある。


 若い女性と男である僕との一対一の面談はのちのち問題が起こる可能性がないとは言えない。

 確かに念のために女性である米山さんが同席してくれた方が安心だ。

 こういうことはよくある。


 本当にただの念のためであって、別に相談に来る人を疑うつもりはないけれど、初めて事務所に来る相手というのは素性が分からないわけだし。


 弁護士業って危ない仕事もあるから、僕みたいに大雑把な人間ですら慎重になるものなんだ。



 相談室のドアを開け、後藤さんの姿を見たとき、一瞬ギョっとしてしまった。



 後藤(しずく)さんは、つばの大きな帽子を被り、目にはサングラス、口には布製の大きめなマスクをしている。

 首には厚くスカーフを巻いていて、袖はゆったりと膨らむ長袖の服。下はくるぶしまでのロングスカートだ。



 ……って、このスタイル!!


 宇宙人かも!



「後藤さん、大丈夫ですか?」


 米山さんが優しく声を掛ける。

 うーん、さすが米山さん、宇宙人にも優しいな。



「すみません、お見苦しい恰好で……」



 息を詰まらせるように声を出す後藤さん。

 帽子を取り、サングラス、そしてマスクを外す。

 思わず身構えてしまう僕。



 あ


 目の周りにははっきりとわかる痛々しい紫色のあざ

 口の横に小さくテープが貼ってあり、出血の後と思われる。



「昨夜、夫と口論になったときに……」



 配偶者の夫にやられた?

 これは……DV被害か。



 法律相談の途中、後藤さんは何度か嗚咽を漏らして、ついには泣き出してしまった。

 米山さんが優しく声を掛けている。


 同席してもらって良かった。

 僕だけではオロオロする一方だったかも知れない。



「僕、お茶煎れてきますわ」


 そう言って僕は席を立つ。

 本当ならこの役目は米山さんの務めなんですが。



 そうだよなぁ。


 マスクにサングラス。

 このスタイル、DV被害者がケガを隠すときの典型やんな。


 米山さんは分かってて同席を申し出てくれたんだ。


 僕ときたら、なんで『宇宙人かも』とか思ってしもうたんだか。

 いや、原因は明らかなんですけど。



 給湯室でお茶を入れていると、スマホの着信音が鳴った。



「この人のせいだな。うん」


 B・U氏からの着信だった。



『お仕事中失礼します国府谷こうだに先生』


「なんですかB・Uさん。

 夕飯の食材買い出すついでに必要なものでも?」


『怪獣が出現しました。

 エクスディクタムに搭乗して下さい。

 あと、買い物のついでに乾燥パスタをお願いします』



 だから日常会話に怪獣を混ぜてくるのはどうかと僕は思うんです。




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― 新着の感想 ―
[一言] 新章スタート、楽しみです。 そして、やっぱり、B・U氏の、連絡は、怪獣+日常生活のミックスなんですね(笑)。 夕食は、パスタ。
[良い点] 今話もありがとうございます! >僕はあまり要領が良い方じゃないから、仕事に集中しないと。 >ついロクでもないこと考えちゃうしね。 >裁判所壊れちゃえばいいのに、とか。 >最近、ロクでもな…
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