6 息抜きも大事です
次の日、結局朝は忙しくてB・U氏と簡単な業務連絡くらいしかできなかった。
「B・Uさん、ちょい話したいことがありますし、昼はメシ食いにいったんうちに戻りますわ。昼飯の準備は要らんです。近くの喫茶店でランチを二人分テイクアウトしてきますから」
B・U氏との打ち合わせは、他のクライアントとのやり取りよりも格段に楽で時間がかからない。
なにせ『同期』とやらで、僕の経験は話さなくても伝わってしまうから。
プライバシーは本来であれば気になるところだけど、なんかもう諦めた。
一度「同期ってせんとあかんのですか?」って聞いたことがあるけど
「自動同期設定になっていますから」とのことだ。
どんな設定やんな。
この手の設定は簡単には変えられないらしい。
……ホンマかなぁ。
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今日も自家用車で事務所へ行く。
カーラジオを流してみたところ、ニュースで昨日の釧路の怪獣の話題をやっていた。
やっぱり怪獣の出現はちゃんと認識されたんやな。
そりゃそうか。
米山さんは既に出勤していて、朝から僕のために緑茶をいれてくれた。
「ありがとう米山さん。
ちょっとだけTV観る? 朝のニュース番組」
「ええ。やっぱり怪獣、気になっちゃいますよね。
また『エクス』って出たんですよね」
「らしいね」
テレビには案の定、エクスディクタムと怪獣マムシーラの戦う動画は出てこなかった。
「でも写真は撮れたんですねぇ」
米山さん、楽しそうだ。
怪獣、ちょっとお祭りになってるなぁ。
今回も人的被害が出なかったという話を聞いて、僕もほっとしたよ。
撮影された写真がスライドで流れる。
胴体を膨らませた怪獣マムシーラの写真が出た。
よく写真なんて撮影できたな。
全体的に輪郭が分かる程度みたいだけど、特殊なカメラなのかな。
「ああ、エク……、エクスがマムシーラに飲み込まれたとこ……」
つい『エクスディクタム』と言ってしまいそうになった。
危ない。セーフ。
「先生ったら、マムシーラだなんて。マムシに似てるからですか?」
米山さんがコロコロ笑う。
そっち忘れてた! アウト!
「でもマムシっぽいからその名前悪くないですよ」
あ、名前を即興でつけたと思ってもろたみたい。セーフセーフ。
そうだよね。あのときも即興だったし。
テレビはニュースキャスターが写真の解説を始めたようだ。
『これらの写真は、地元の写真家の清水さんが赤外線カメラで撮影したものです。
清水さんによると、巨大人型兵器エクスは一時的にこの蛇のような形態の怪獣に飲み込まれましたが、わずか数秒で内部から怪獣の胴体を裂き、脱出したとのことです』
『なかなか壮絶な場面のようですね。
映像がないのが惜しまれます』
そっか。数秒の間だったんだ。
僕が気を失って、あのヒトに会って……。
それから脱出したのは、わずか数秒……。
あのヒト、誰なんだろう。
奇跡的なまでにキレイなあのヒト。
宇宙人なのかな?
何かの干渉を感じたとナビィさんが言ってたから、夢ではなかったんだ。
夢じゃないなら、また会えるかも知れない。
そんなことを考えて、思わず大きなため息がもれてしまった。
「国府谷先生? お疲れですか?」
「あ!すんません」
いかんいかん。
「いえ、国府谷先生、最近お仕事大変ですものね。
ちゃんと休みは取ってます? 家でも起案作業なさってるんじゃ」
してるなー。
家に仕事持ち込みたくはないんだけど、僕ってあんまり要領良い方じゃなくて。
「疲れって知らない間にたまっちゃうものですから、しっかり休んだ方が良いですよ。
職業柄、精神的な疲労が多いでしょうから、寝るだけじゃなくて気分転換をするとか」
そういえば……。
怪獣が現れて以来、友達とメシ食いに行ったり、遊んだりといった娯楽から遠ざかっていた。
酔っぱらってエクスディクタムのこと洩らしちゃあかんと思って、外で深酒するのも避けてるし。
ちょっとだけ裁判官の気持ちが分かったりして。
裁判官も事件の内容を酒の席で漏らすのを恐れて、あまり店では深酒をしないらしいから。
で、代わりに裁判所内の裁判官室で飲んでいるらしい、というのは秘密。
「ありがと、米山さん。確かにその通りだよ。
次の週末はちょっと気分転換することにしますわ」
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昼は喫茶『SNAZZY』でランチをテイクアウトし、自宅に戻った。
「B・Uさん、昼飯食いましょう。
んで打ち合わせもしましょう」
「これは……サンドイッチですね。
飲み物はコーヒーで良いですか」
「お願いします」
B・U氏がコーヒーを煎れる間に、僕の方はテーブルの上にテイクアウトしたランチを広げる。
喫茶『SNAZZY』特製のクラブハウスサンド。
あそこのクラブハウスサンドには卵焼きに蟹カマが入ってるんだ。
ちゃうやろ! クラブハウスって蟹のハウスじゃないやろ!!
絶対あのマスター、シャレで入れてる。
関西の血筋というべきか。
まあそれはいい。旨いし。
「ところでB・Uさん。次の土曜ですが」
「何かありますか?」
「もしお時間あるようでしたら、一緒にドライブでもせんですか?
ちょっとした息抜きに」
車を運転するのはいい息抜きになると思うんだよね。
「国府谷先生がドライブをなさりたいのでしたら、私が側にいること自体は問題ありません。出先で私に何かご要望があるのですか?」
「あー、いや。別にそういうわけやないんですが。
B・Uさん、ずっとうちに居っぱなしじゃないですか。
たまには一緒に外出もええんやないかと。
車で移動するだけなら人目も気にならんと思いますし」
「私への配慮は不要ですが、打ち合わせも兼ねたドライブは国府谷先生の息抜きという意味では効果があるかと思われます」
「じゃあ決まりということで。週末どこ行きますかねー。
軽く神戸港あたりまで行きますか」
B・U氏が一緒の以上、観光地をふたりでウロウロするわけにはいかないし。
車内から景色を楽しむくらいでええでしょ。
「私の方でお弁当を用意しましょうか?」
「ありがたいですが、せっかくだし出先で美味いもん買い食いしましょう。
車内で食えば問題ないでしょ」
「分かりました。ではコースの概要を示していただければ、土曜までに国府谷先生のお好きそうなテイクアウト可能な外食店を探しておきましょう」
「さすがB・Uさん、気が利きますな!」
「同期していますからある程度は国府谷先生の需要を予測できます」
いやー。
ひさしぶりの外出、楽しみだな。
友達を誘うというのも考えたんだけどさ。
最近ちょっと秘密が増えてきちゃって、友達といると話せない話題があるのがストレスになるかなって。
もうちょい落ち着いたら友達も誘うよ。
言うとくけど、これは勿論デートとかじゃないから!
僕だって、デートはかわいい女の子としたいよ。
そういえば、あのヒト……。
あの美しいヒトは、女性なのかな。
本章これで終わりです。
また少し書き溜めたら連続投下します。
裁判所壊していくぞー
なお次章はドライブデートから始まります。
国府谷先生とB・U氏が大接近!(嘘




