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3 怪獣マムシーラ


国府谷こうだに先生、国府谷こうだに先生……」


 声が聞こえる。

 僕を呼ぶ、僕の声。


「目を覚まして下さい、国府谷こうだに先生」


 目を開くと、目の前に僕の顔があった。


 違うか。これはB・U氏だ。


 なんでこんな近いんかな。

 自分の顔のアップなんて見ておもろいもんでもあるまいし。



「B・Uさん……? もう朝ですか?

 なんかほとんど寝た気がせんのですけど」


「そうですね。国府谷こうだに先生の脳波がθ(シータ)波を出してからまだ53分しか経過していませんから」


「ほなら寝かせて……」


「怪獣が出現したようです。転送します」



 え? ちょっ……

 せめてトイレ……!!!


 

 で。

 また問答無用でエクスディクタムの中に転送されたみたい。

 周囲が暗闇に包まれている。



「いらっしゃい、国府谷こうだに先生!

 さっそく接続しちゃうわね!」



――― あ、ナビィさん!


 でも僕、寝起きで。

 正直トイレとか行きたかったりしてたんですけど……



「だいじょーぶ、だいじょーぶ!!」



――― いえそこ大丈夫じゃないとこだと思うんですが……。

 考えたくないけど、エクスディクタムの中にその、漏らしてしまったら大変なのでは……?



「いやん。国府谷こうだに先生ったら。

 ニューロン交感開始!」



 毎度のことながら容赦ないな。


――― ……あれ?



「ね? 大丈夫でしょ」



――― うん……。

 なんで?

 視界が明るくなると同時に、さっきまで感じてた尿意とかそういうの感じなくなっている。



「エクスディクタムと接続されると『彼』の感覚が国府谷こうだに先生のメインセンシズになるの。だからエクスディクタムの生体感覚とほぼ同調する反面、元の人間の身体の生理的な欲求からは解放されるというわけ。

 元の身体は現状維持したまま活動休眠状態になるので勝手に排尿とかしないから安心して……って、排尿なんて私ったら~」



――― ほほう?


 ってちょっと?

 なんかまたいろいろ変な話出てない?


 生体感覚とか、それに『彼』って言ったよね?

 エクスディクタムって、まさか生物なの?



「それは『生物』の定義によるわね」



――― そう言われちゃうと困るな。

 確かに定義は大事です。


 『生物』ってなんだろう。

 『生命のある存在』?

 ほな『生命』ってなんだろう。

 人類が長い間探究してきたテーマでもあるね。


 でもそんな場合じゃない。

 まずは怪獣なんとかせな。


 いろんな疑問は置いておいて。

 そのへんは後でスマホで通話してナビィさんに聞けばいいし。



「何でも聞いてね!」



――― ナビィさんもB・U氏も、そういうところ親切だよね。

 基本的に説明してくれるし。


 よくアニメとかだと全く説明不足なままわけわからん状況に追い込まれたりするもんだけど、その意味ではホンマに助かってますわ。


 やっぱり説明があるかないかでは全く違う。

 それはインフォームドコンセントの考え方で、納得した行動というのは事態への能動性を促し、問題解決への主体性へと繋がる。最終的には自己決定権に深く影響するため、結果に対する受容性が……。



国府谷こうだに先生のおしゃべりを聞くのは楽しいけど、怪獣いるわよ目の前に」



――― そうでした!!!


 まずは状況把握!!

 ここはどこ?

 どんな怪獣? 


 今回も深夜であることは間違いないけど、僕の視界はクリアだ。

 夜とは思えない。


 そして……この場所は……。

 ほとんど建物が見えないな。


 目の前に少々大きめの建物が建っていて、それ以外は広大な土地が広がっている。

 なんという僻地……いえなんでもないです。


 人家の明かりもほとんどないから、多分すごく暗闇なんだ。この場所。



「人間の把握する住所で良ければ分かるわよ?」



――― お願いしますわ。ナビィさん。



「北海道釧路市柏木町4丁目」



――― 北海道、釧路か!

 ともかく僕の地元には怪獣がぉへんかったのは分かった。

 あと、この辺あんまり建物がないので被害が少なく済みそうなのは助かるわ。


 でもおかしいな。

 怪獣の姿が見えないぞ。



国府谷こうだに先生!! 足元よ!」



――― 足元?


 あ。ホントだ。おったわ。


 僕、ちょっとドジったみたいです。

 この怪獣、すっごい巨大な、蛇みたいな形してた。

 地面を這ってたんだ。ゆっくりと。


 気が付かないうちに、エクスディクタムの周囲をその長い胴体で囲んでいて……。


 つまり



 うわあ! 締め付けられてる!!?



 あれよあれよと言う間に、エクスディクタムの胴体に巻き付くように絡んできていた。

 っていうか、感覚としては僕が巻きつかれてる感じなんですけど!!

 でっかい蛇に!!


 ど、どうしよう! なんとか外さないと!


 ムカデ怪獣に押し倒された時よりは嫌悪感はないけど、でも困るな!


 蛇が僕を締める力がきつくなってきているようだ。


『蛇』ってのもな。何か良い名前はないかなー。

 怪獣のネーミング。

 怪獣なんだし、少し捻って……。


『怪獣マムシーラ』とかどうですか?ナビィさん。

 ちょっと模様がマムシっぽい気がするから。



「余裕あるわね!国府谷こうだに先生」



――― ううう……。そんな場合やないのは分かってるんだけど……。

 どうもこの機体に搭乗してると危機感が減退してまうみたいでイカンです。



「プジュルブフフゥグゥ……」



――― 怪獣マムシーラの鳴き声……?


 おや……なんだろ?

 なんか、意味がなんとなく分かるような……?

 気のせいかな。



国府谷こうだに先生の順応が進んでるってことね」



――― そうなん? 翻訳機能でもついてるんかなこの機体。

 超文明的な宇宙の神秘なら、それくらいあるかもなぁ。

 人間の世界ですら翻訳機は開発されてるくらいなんだし。



「機体への順応が進めば、エクスディクタムが本来持っている器官や感覚も自覚的に使うことが可能になってくるわよ。

 で、なんて言ってるか分かった?」



――― え? ちょい待って……


 僕ときたら、胴体に巻き付かれて絞められている状態で呑気に怪獣の言葉を理解しようと集中していた。


 でもさ、もし怪獣と言語的コミュニケーションが可能なら、何もしないで帰ってもらえるように説得とかできるかも知れんし。

 できれば戦わずに済ませたいとこじゃないですか。


 弁護士とか好戦的とか言われるけど、最も賢い勝ち方は『戦わずに勝つ』ことですからね。



「プジュルブフフゥグゥ……」



 また怪獣マムシーラが声を発する。ええと……

 なんとか意味が……




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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >元の身体は現状維持したまま活動休眠状態になるので勝手に排尿とかしないから安心して……って、排尿なんて私ったら~ ナビィたん、「標準的な地球人女性に相応の…
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