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2 データアーカイブへのアクセス権


「おかえりなさい国府谷こうだに先生。お仕事お疲れ様」


 自宅に帰ると、いつも通りB・U氏が出迎えてくれた。


「あ、ええ。ただいま戻りました」


「夕飯の支度をしようと思ったのですが、冷蔵庫の中にお弁当らしきものが入っているのを確認しました。国府谷こうだに先生はあれを夕飯にするつもりなのですか?

 本日は夕飯は必要ない可能性を考え、風呂の用意しかしていませんが」



 あ、昼間の焼肉弁当。


「いやその、違うんですよ。実は昼にいったんうちに戻りまして。

 B・Uさんの分と思ってその弁当買っておいたんですがB・Uさんがおらんかったもんで」


「そうですか。夕飯はどうしますか?

 今から短時間で作れるものを用意しましょうか?」


「あー、じゃあ弁当は二人でシェアしましょう。

 それで足りない分だけ作ってもらえますかね」


「了解しました。では私は夕飯の支度にかかります。

 国府谷こうだに先生は先に風呂に入られると良いでしょう」



 というわけで僕はお風呂に入ります。


 そっか。

 B・U氏、うちにおったか。


 ほっとしてる自分がちょっとイヤなんだけど。


 でもB・U氏、ほんとに同居人としては悪くなくてさ。

 これで宇宙人でなくて、僕の姿してなくて、あと女性だったら……


 って、むちゃくちゃ条件合わな過ぎるわ!



「お風呂いただきましたっと」

「焼肉とごはんにあわせる簡単なものということで、冷凍の餃子と白菜の漬物です」


「おっ、いいですねえ。焼肉には白菜漬け合いますよね。では食べましょうか」

「はい」


 というわけで今晩もB・U氏と食卓を囲むのだった。



「僕この焼肉弁当大好きなんですわ。B・Uさんにも食べて欲しくて買うてきたんですが、どうです?」


国府谷こうだに先生がこの焼肉弁当を好んで食べているという情報を認識しています。国府谷こうだに先生が『美味しい』という感覚を得るのであればそうなのでしょう」


「はあ、うん。まあそうですね」


 B・U氏は主体的に味覚を楽しんだりはしないんだろうか。



「それでB・Uさん。昼間はうちにおらんかったようですがどこへ行かれてたんです?

 いや、もちろんどこに行くのも自由ですけど。言いたくなければ構わんので」


国府谷こうだに先生に頼まれている怪獣の目的調査を行っています。また、怪獣の飛来を国府谷こうだに先生の生活圏から外すための施策を同時に進行しています」


 あ。それか。

 確かに頼んだっけ。



「昼間に国府谷こうだに先生が戻られるとは思わず対応に不足があったようですね。もし緊急の用事があればスマホで連絡をくだされば戻りますので」



 まあ、スマホで呼び出すまでもないよな。

『B・Uさん、これから一緒に昼食を食べませんか』とか。

 仲良しカップルじゃあるまいし!


 いやいやいや。


「それで調査って具体的にどういうことをしているんですか?」


「………」


 あ、珍しい。B・U氏が沈黙している。

 無表情は相変わらずだけど。



「どうしたら国府谷こうだに先生の持つ語彙で説明できるか判断しかねています」


 どういうことなんだろう。

 僕では理解できないということなんだろうか。



「したら今の段階で何か分かったことってありますかね」


「ないですね」


 ないのか。



「以下、不正確な表現になってしまいますが説明をこころみます。

 簡単に言うと怪獣が国府谷こうだに先生を狙っている可能性を念頭に置き、各地に多数のダミーを分散配置しています。配置場所を確認するため外出する必要がありました」


「ダミー?ってのはなんですかね?」

 まさか僕にそっくりな人形がたくさんとか……」


 それ、誰かに見られたらエラいことになるんじゃ……。



「ダミーと言っても国府谷こうだに先生と同じ外見をしているわけではありません。

 ダミーごとに国府谷こうだに先生の『要素』を細分化し、どの餌にかかるかという結果を見て怪獣のターゲットを絞るという調査法です。

『外見』はひとつの『要素』ではありますが、怪獣が国府谷こうだに先生の『外見』を頼りにターゲットを設定している可能性は低いと考えています」


 要素?


「その『要素』ってどんなものですか?血液型とか?」


「『要素』については人類が把握していない要素が多数存在します。そのため人類に分かるように説明することは困難です」


 そうなんか。

 とにかく何とか僕に理解できるように説明してくれているのは分かる。


「僕の要素だけなんです?

 エクスディクタムが狙われてる可能性はどうですか?」


「確かに今はまだ順応が不十分ですから、平均化もされておらずエクスディクタムの要素も別に配置する必要があるでしょう。

 しかしとにかく膨大なサンプル数になりますから、優先順位を設けています」


 わからん。

 言葉自体は僕のボキャブラリーから出ているようで理解できるけど、全体として意味不明。



「また同時に、オリジナルの国府谷こうだに先生から発せられる『要素』を細分化し、そのジャミング……と言って良いのか。それを行っている最中です」


 うーん、分からんな。

 一応僕も司法試験くらいは通った程度にはインテリの自覚あったけど、まだまだ世の中には未知の分野が多いからなぁ。



「とにかく僕が狙われないようにしてくれてるということですか?」


「そういうことです」

「それは……お手数お掛けしとります」



「もし国府谷こうだに先生が望むのであれば、全てを理解していただくことも可能ではあるのですが」


「ほう? そんなこともできるんですか?

 僕もいろいろ知っておきたいとこなんですよ。

 でないと今後の見込みがつかなくて」


 勉強はそれほど嫌いじゃないし。


「私は国府谷こうだに先生に『同期』し、以後、国府谷こうだに先生の情報を定期的に取り込んでいます。

 これは一方向の情報同期なのですが、逆に国府谷こうだに先生が私から情報を引き出すことも可能です」


「B・Uさんの情報を引き出す?

 ってのは質問をすることとは違うんですか?」


「違います。情報をダイレクトに国府谷こうだに先生の中に『復元』させます。質問や会話などという欠損・劣化の激しい伝達手段とは次元の異なるものです」



 確かに。

 言葉って誤解が必ず生じるよね。



「私は『システム』なのです。人間に理解できる言葉で言うなら『AI搭載データバンク』というところでしょうか」


 システム?

 AI搭載データバンク?


 B・U氏が?



「エクスディクタムのパイロットには、私のデータアーカイブにアクセスする権限があります。

 ですからデータを国府谷こうだに先生に『復元』することにより、私に蓄積されているデータを取り込み理解することが可能です」


「それは、興味深い話ですね」


 

 宇宙人のB・U氏の知識……。

 未知なる宇宙の神秘を知れるなんてすごいぞ。



「ですが、あまりお勧めできません」

「え? そうなん?」


「私のデータアーカイブは膨大すぎて人間のキャパシティでは受け止めきれません。

 もし今国府谷(こうだに)先生への『復元』を行った場合『国府谷こうだにあきら』は壊れるでしょう」



 うん!却下!

 僕まだ壊れたくありません!


 宇宙の神秘に触れられるかも?とワクワクしてしもうたけど、儚い夢だった。





 布団に潜り込みながら僕は考えていた。


 なおB・U氏にも布団を使ってもらっているけれど、彼が寝ているかどうかはよく分からない。

 目を閉じている様子ではあったけど、呼吸音すら聞こえなくて。

 この人、呼吸もする必要ないのかな。


 B・U氏とは出会ってからそろそろ半年近く経つし、結構会話してるんだけど未だに全貌がつかめない。

 話せば話すほど、分からない部分が奥に広がっていくというか。


 B・U氏が『システム』で『AI搭載データバンク』というのも正直衝撃だった。


 この人は「宇宙人」であり僕のクライアントであり、主体性あるひとりの存在だと思っていたんだけど、実は違うのか?


 誰かの道具として使われる存在なんだろうか?

 

 B・U氏がAIだとすると、彼には『人格』なんてものはないんだろうか。


 僕が感じたB・U氏の『好意』とか、そんなのは実は錯覚だったんだろうか。



 以前、B・U氏は僕の「パイロットの登録が切れる場合」について

国府谷こうだに先生が死ぬとき、または機体が破壊されたとき、私の存在が消えるとき、新たな指令が下りて今の指令が取り消されたとき」

 と言っていた。


 そのときにもちょっと引っかかってたんだよ。


『新たな指令が下りて今の指令が取り消されたとき』って言葉。


 誰かがB・U氏に指令を与えたんだろうか。

 僕はB・U氏に「命を与えた人」のことをB・U氏の恩人だと思っていたんだけど、実はそうじゃなくて。

 言葉の通り彼を生み出した存在がいるのかも。



 そんなことを考えながら僕は眠りに落ちていた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 第20部分到達、おめでとうございます! >でもB・U氏、ほんとに同居人としては悪くなくてさ。 >これで宇宙人でなくて、僕の姿してなくて、あと女性だったら…… あかん、国府谷先生、そっち…
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