5 地球の支配者
エクスディクタムとの接続を外すとき、少し心細い気持ちになる。
その理由は、多分、エクスディクタムの器官の性能と、僕の本来のものとのギャップのせいだろう。
エクスディクタムの目は遠くをハッキリと見ることができるし、その他の五感も鋭敏になっている。
認知機能や思考速度もずっと速くなり、時間が緩やかに感じる。
そのせいか精神的に余裕もできて安定する。
それに比べて、僕自身は本来やっぱり弱い人間だからね。
エクスディクタムとの接続が切れると、途端に小さな存在になったような気がするんだ。
――― これはあんまり良くないね。
エクスディクタムの感覚に慣れてしまわないように、怪獣を退治したらできるだけ速やかに機体から降りた方がいいと思う。
「えー? いいじゃない。
エクスディクタムと繋がってると気分良いでしょ?
国府谷先生、ずっとここにいればいいのに」
――― ナビィさんはそういうけど、勿論そんなわけにはいかない。
仕事だって残ってるし。
「そっかぁ……。あなたはそう言うのよね。
怪獣退治するときしか乗ろうとしてくれないし」
――― 怪獣退治以外にこの巨大な機体をどう活用しろと!?
まさか通勤用!?
目立ちすぎるわ!
「いろいろできると思うの。
エクスディクタムならこの星を支配だってできるでしょうに」
――― はあ?
支配?
いきなり話が飛ぶなぁ。
ツッコミが追いつかんわ。
大体、僕は怪獣退治のために契約しただけなんです。
怪獣退治以外のことにエクスディクタム使うとか、クライアントだって許さないでしょ。
「そんなことはないと思うわよ?
あなたがこの星の支配を望むなら協力するんじゃないかしら」
――― まったまた!
怪獣退治しても僕が地球支配とかしたら意味ないやん。
怪獣が蹂躙するのとなんも変わらんやんか。
それに僕あんまり権力欲とかないんですよ。
日弁連会長選挙とか興味ないし。
投票はしてるけど。
「ま。いいわ。
国府谷先生が望むようにしてちょうだい」
――― ありがと、ナビィさん。
今回も助かりました。
ほなまた!
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機体からダイレクトに僕の部屋に転送されたらしい。
暗闇が晴れると目の前にはB・U氏がいた。
「怪獣退治、お疲れ様でした。国府谷先生」
怪獣討伐を僕に依頼した人外クライアント『B・U』氏。
エクスディクタムの『パイロットの補助』として甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。
「風呂の湯の温度が冷めないうちに入ると良いでしょう。
入浴すると体の水分が失われますから、先にナトリウム配合水を飲むことを推奨します。飲みますか?」
「あ、はい」
ナトリウム配合水?
スポーツ飲料のことか。
いろいろB・U氏と打ち合わせしときたいことがあるんだけど、とりあえず先に風呂に入ることにした。
風呂から出ると、B・U氏はやはりスポーツドリンクを持って来た。
ちなみに彼は今、僕の寝巻を着ている。
いや、本人は着替える必要もないって言ってたんだけど、夜になってもそのままのカッコでいられるのは僕が落ち着かない。
ちゅうことで寝巻くらいは着てもらっている。
服のサイズは僕と全く変わらないことだし。
僕に気を遣ってかサングラスだけはかけたままだけど。
「通常タスクに加えて本日は怪獣退治もありました。
国府谷先生はお疲れでしょう。寝ますか?」
「あ、いや。その前にB・Uさん、ちょい確認しときたいことが数点ありまして」
「なんでしょう」
「ええとですね。今回怪獣が来たの、ここ僕の地元やないですか。
なんか段々出現場所が僕に近くなってきてる気がするんですよ。
けどそれだけじゃなくて。 二体目以降の怪獣は僕が敵対行動をとる前から僕を襲って来た節があるんです。
まさか、怪獣は僕を狙ってるってことありませんかね」
「確証はありませんがその可能性はありますね」
「なんで? なんで僕を狙うんです?
というか僕なんですか?
それともエクスディクタムを狙ってるんちゃいます?」
「分かりません」
B・U氏も分からんのかぁ。
「ですが問題ありません。
私としては怪獣が飛来した際に迎撃し退治すればそれで目的は達せられます」
「しかしB・Uさん、そうはおっしゃるけど……。
今後怪獣はこの関西方面ばっかし現れることになりませんかね?
そうすると僕としては困るんですが」
「お困りのことがありますか?
むしろ今回のように怪獣の出現把握が容易になります。
また国府谷先生に地の利もありますから、退治する際の効率は高いかと」
「いやいやいや!
あんまり地元に怪獣が頻繁に来るようならさすがに僕がエクスディクタムに搭乗していることがバレる可能性が高くなりますやろ!
それに僕の生活圏を集中的に破壊されるのは僕が困るんですが!」
「なるほど。国府谷先生がお困りだと……」
「困りますね!」
「分かりました。では国府谷先生が望むのであれば私の方で怪獣の狙いを調査してみましょう。
その上で、怪獣の飛来を国府谷先生の生活圏から外すための方策を講じてみます。よろしいでしょうか」
「頼んます!!」
怪獣のことはいろいろ謎が多い。
どこから来たのか。
なぜ一体ずつなのか。
みすみすエクスディクタムによって倒されてるんだから、もっと一気に数体送りこむ方がいいと思うのに。
そうなると僕は困るけどね。
怪獣は同じ場所から来ているのか。
なぜ僕を?エクスディクタムを?狙うのか。
目的はなんなのか。
地球の破壊?
だけどB・U氏はこのへん全く興味なかったんやな。
僕が頼まなければ調べるつもりもなかったんだ。
ひたすら怪獣を討伐することだけが目的。
それも奇妙な気がする。
こうしてB・U氏と同居生活を送っていても、未だ僕にとって得体の知れない存在であることを実感してしまう。
聞いてしまおうか。
あの話。
「なあB・Uさん?」
「なんでしょう」
「もしも僕が怪獣退治以外の目的でエクスディクタム使いたいゆーたらどうします?」
「構いませんよ。今から転送しますか?」
「しないで!」
「そうですか」
って!いいんかい!
「いやダメでしょ!もしエクスディクタム悪用したらどないすんですか!銀行強盗とか!」
「地球の住人として地球をどうしようと私の関与するところではありません。
むしろ国府谷先生がエクスディクタムを積極的に使うことは機体への順応を促進しますから推奨されます」
ホンマですか!
僕、今、自分がパイロット引き受けて正解だったと思ってしもうた。
とんでもない悪人がエクスディクタムのパイロットにならんで良かった!
「ほならB・Uさん。もしも僕がエクスディクタムを使って地球を支配したいちゅーても構わんと?」
こんな質問をしたけれど、それでもB・U氏の無表情は変わらない。
少しくらい動揺してもいいと思ったんだけどな。
「助力が必要であれば、言って下さればやりましょう」
待ってーーーーーーーー!!!
「いや!冗談ですわ!!
そんなこと全く望んでません!!」
「そうですか。確かに国府谷先生がそれを望むとは思えませんね」
うん。まったくちっとも一切望んでません。
「そこは止めるとこちゃいますか。
もちろん僕はやりませんけど!!
僕が地球を支配とか、怪獣に地球が蹂躙されるのとなんも変わらんやないですか!!」
「変わりありますよ。少なくとも国府谷先生がこの星を支配するのであれば、いっそう怪獣を倒すインセンティブが高まるでしょう。それは好ましいことです」
ダメだ……。
本気でB・U氏、怪獣を倒すことだけに特化した思考パターンみたい。
まだまだいろいろ聞かなくちゃいけないことがあるけれど、なんかめっぽう疲れたわ。
僕は明日も仕事があるし。
っていうか、明日は顧問先の紹介で新件に繋がりそうな面談が入っているんだ。
事務所経営のために、しっかり仕事を取っていかないと。
今日はもう寝よう!
おやすみなさい!!!




