2 同居人ができました
ええと……。
結論から言うと、B・U氏はうちに居ついてしまった。
たこ焼きパーティで飲み明かした次の日、昼になってもB・U氏は僕の部屋にいた。
後になって分かってきたんだけど、基本的にB・U氏は僕の要望に応える方向で行動している。
だから「質問がある」といえば「質問に答える」ために僕と会話する。
僕が部屋に招き入れたから、彼は僕の部屋に来た。
恐らく僕が「部屋から出て行ってくれ」と言えば出ていくんだろう。
普通の人間のように「そろそろおいとまする」という空気を読んだ自己判断をしない。
よくよく考えてみれば確かにB・U氏の行動はそう解釈するとしっくりする。
彼は僕に「こうしては?」と『提案』はするけれど『決定』はしない。
最初の頃はそんなこと僕も分からなかった。
なもんで客人にストレートに「出て行ってくれ」とは言われへんし。なかなか。
「えーと、B・Uさん、いつ帰られるのかな?」
帰ろうとする様子のないB・U氏に、それとなく水を向けたりしたんだよ。
「いつかと言われれば『帰るべき時』に帰ります」
「いやその、つまり僕の家から出て自分の家に戻らんでええのかと」
「今のところ私が戻るべき場所はありません」
この宇宙人、ホームレスなの!?
とにかくそんな感じで、結局、土日の間ずっとB・U氏は僕の部屋にいた。
「僕、再来週に裁判の期日があってそのための書面を書かなくちゃいけないんだけど……」
「問題ありません。どうぞ書いてください」
「B・Uさんのお相手などできへんのですけど」
「私に構う必要はありませんが。
ひょっとして、お忙しいということですか?」
「そう!そうなんです!
忙しいんです!」
「なるほど。国府谷先生はお忙しいと。では助力が必要ですね。私の把握する限り、まだ国府谷先生は昼食を食べるタスクを終えていない。国府谷先生の昼食を今から私が作りましょうか?」
「え!? でけんの?」
「国府谷先生に同期しましたから方法は分かります。他に必要なことがあれば言ってくださればやりましょう」
そう言われまして。
最初は「ホンマかな?」って具合で試しにやってもらうことにしたところ……。
この人、むちゃくちゃ使える。
助かりまくり。
あれから2週間、家事みんなやってくれとる。
買い物は外で人に見られる可能性があるから、さすがに頼んでないけど。
資料整理とか調べものなんかも頼めばやってくれた。
僕には守秘義務があるから、B・U氏以外のクライアントに関係する書類は見せたりしていない。
そもそもその手の書類は自宅ではなく事務所に置いてあるしね。
ただ「同期してる」という話なので、ひょっとすると僕の機密情報も知ってるのかも……。
怖くて確認できへんのですけど。
しかしもしもそうだとしたら……。
B・U氏のことは僕の情報管理の一環として考えなくちゃいけないのかも知れない。
「B・Uさん、行くとこないんでしたらしばしうちにおって下さってええですよ」
「ではそうさせていただきます」
……というわけ。
実際、僕と瓜二つな顔を持つこの宇宙人。
あんまり外をウロウロして欲しくないというのはある。
B・U氏が意外に地球の常識を把握しているというのは分かったけど、誰かに見られた場合に僕に問い合わせをされても答えられない。
帰宅した僕が背広を脱いで楽な格好に着替えているうちに、テーブルにはB・U氏の手料理が並んだ。
「夕飯ですが、野菜多めというリクエストでしたので青梗菜のオイスター炒めを作りました。
野菜の在庫が少なくなっているので、必要なもののリストを作成してあります。
メモは国府谷先生の鞄に入れておきましたから、仕事帰りに購入して来るのが良いでしょう」
「いつもありがとうございます。
では食べましょか」
「はい」
なんでもB・U氏は「食事をしなくてもよい」とのことだ。
彼が人間ではないことは納得したつもりなので、その点今さら驚くのも芸がない。
でも僕だけ食べるのって気まずいから相伴にあずかってもらっている。
B・U氏が作ったゴハンだしね。
ちなみに野菜多めのリクエストにしてるのは、僕が昼食で焼肉弁当ばっかり食べてるから。
バランスを考えているためです。
B・U氏の料理の腕やレパートリーは全く僕と変わらないのでとりたてて『美味しい!』と感激するところではないけれど、作ってもらえるというのはありがたい。
「美味しいです」
「そうですか。人間にとって体調管理は大事ですからね。しっかり食べると良いでしょう」
そうします。
もぐもぐパクパク……
で
僕、一体なにしてるの?
なんでこんな日常送っとんの?
「あのー? B・Uさん?」
「なにかご質問がありますか?」
「ええと、なんでこんな世話を焼いてくれるんですかね」
ついついこんな感じで2週間経過してしまったわけだけど。
よく考えたらそこまでしてもらう理由はないわけだよなぁ。
「なぜと言われれば『エクスディクタム』のパイロットの補助をするためです」
「いやでも、怪獣は今は出てないじゃないですか。
それに怪獣が今後出現しない可能性もあるんでしょ?」
「そうですね。怪獣が再度出現するという保証はありません」
「するといつまでその『パイロットの補助』とやらが必要なんです?」
「パイロットの登録が切れるまでですね」
「いつ切れるんです?」
「一例としては、国府谷先生が死ぬときです」
「つまり一生!?」
どどどどどど、どないしょう……!!
一生面倒見るとか言われたの僕?
これってまさかプロポーズ!
ちゃうわ!!(自己ツッコミ)
「国府谷先生が死ぬとき、または機体が破壊されたとき、私の存在が消えるとき、新たな指令が下りて今の指令が取り消されたとき、といったところです」
ううーん?
ちょっといろいろ気になる点もあるけど。
「ですが別に国府谷先生がご負担に思うことはありません。
視界から消えろとおっしゃるなら私は消えますから」
「あ、いや別に消えて欲しいわけじゃないんですけどね。実際、むっちゃ助かり過ぎて甘えてもうて申し訳ないなぁと」
「お気になさらず。ところで夕食はもう終えていますか?おかわりは要りませんか?」
「はあ……」
「それは良かった。ちょうど怪獣が出現しました。風呂に入る前に怪獣退治お願いします」
とうとつ過ぎる!!!
日常会話に怪獣混ぜんなや!!




