6 タコパでおもてなし
B・U氏がマンションの僕の部屋の前にいる。
普通ならクライアントを家に招待するなんてあり得ない。
けど、この僕と瓜二つの容貌を持つB・U氏。
そのへんに放置するのも心配だし、ここで喋っているのを近隣の人に見られるのも困る。
やむなく部屋に入れることにした。
「ええと……。B・Uさん? 夕飯は?」
「私のことは気になさらず。
国府谷先生が空腹なのであれば食べてください」
気になるわ!!
しゃあない。
テキトーにうどんとか思っていたけど、別のものを作るか。
うちに今ある材料で、客に出せるものといったら……。
なぜかうちにはタコ焼き器がある。
ちょうど良い具合にタコ焼き粉も天かすもあることだし。
おかしいな。
なんで冷凍のタコもあるんだ?
「まあ、タコ焼きですけど良かったら」
「いただきます」
僕がさくさくとタコ焼きを焼いて皿に置いて出すと、B・U氏は息を吹きかけることもなく口に入れた。
熱くないんか?
ともかく僕も空腹なので食べることにする。
ビールが欲しいけど、これから宇宙人(仮)と打ち合わせをするのにアルコールを入れるわけにはいかないから。
お茶でガマンしておく。
___(2時間経過)_____
「B・Uさん、どうですか地球のタコ焼きは。
タコやのうてもどんな具材でもイケるでしょ。
次は何入れましょうかね~」
「なんでもイケるというのであれば、冷蔵庫にあるものを片っ端から入れてはどうですか?」
「あー! それええ!!
そうしましょう!
ついでにビールもう1ケース開けますわ」
やっぱりタコパはいいねぇ。
ヨソから来たお客さんをもてなすならタコ焼きパーティーに限るわ。
B・U氏はねー
なんか他人な気がしぃひんねー
顔が僕とクリソツやからねぇ。
「B・Uさん、やっぱ僕の生き別れの双子の兄なんでしょー?」
「違います」
「またまた〜!こんなそっくりな顔、双子の兄やのうたら宇宙人しかおらんでしょ!」
「ですから地球外から来たんです」
「さいですかー。
で、地球にはいつからおったんですか」
「かれこれ四千年ほど前からでしょうか」
「よんせんねん~?
ほんならもう完全に地元民やないっすか!
もうあんた地球人や!そやろ?
タコ焼きもよう食べ慣れとるんちゃいますか~」
「いえ初めて食べました」
「ホンマ!?
ほならもっと食っといてくださいよ。
ぎょうさん作っとりますよって。
明太子とチーズ入れたヤツ、日本酒に合うんですわ!
とっときの地酒出すんで飲んでってや~」
「では遠慮なく。
ところで国府谷先生、私にまだ聞きたいことがあったのでは?」
「ありますあります~!
せやなぁ、僕が乗ったあの巨大ロボ?
アレ名前とかないんですか〜?
名前無いと不便でたまらんですよ」
「名前ありますよ。
昔は『エクスディクタム』って呼ばれていました』
「ほ~。カッコええですねぇ!
エクスディクタム~~~!
エクスディクタムにかんぱーい!」
翌朝、僕はむちゃくちゃ反省しました。
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翌朝は、二日酔いでむっちゃ辛かった……。
幸い土曜だったから仕事は入れてなかったけど。
そんでもって、B・U氏は、目を覚ましたときにまだ僕の部屋にいた。
多分昨晩、酔った勢いで「泊まってけ」とか言ったんだろうなぁ僕。
「大丈夫ですか国府谷先生。
人間の身体はあまりアルコールと相性が良いとは言えません。
ほどほどにした方が良いのでは?」
そう言ってB・U氏はコップに水を入れて僕に渡した。
ううう……。
地球外の得体の知れないヤツにそんなことを言われてしまって。
しかも僕とおんなじ顔で……。
昨晩はついついタコパの勢いで酒も入って盛り上がってしまった……。
でも収穫もあった。
最初に聞いたんだよ。
「B・Uさん。あなたの目的は?
なぜ怪獣を退治するのに兵器を提供しているんですか」
って。
「大切な方に頼まれたんです。
地球を侵略者の脅威から守って欲しいと」
B・U氏はその大切な人に『命をもらった』と言っていた。
きっと命の恩人とかなんだろう。
その約束を守って、長い間ずっと地球に身を潜めていたんだそうだ。
なんかさ。
ソレ聞いて、ほろっと来てしまったわけですよ。
苦労したんだなーと思って、ビールとか勧めているうちに、僕も酔っぱらってしまったみたい。
僕もB・U氏に命を救ってもらった身だし、やっぱり協力しとかんとあかんなって気になっちゃったもんだよ。
そうそう。
「B・Uさん、テレビつけますね。
昨日のムカデ怪獣が出てるかも知れんですし」
報道局のヘリが来てたから、今回は機体がちゃんと映ってるかも。
前回はブレブレな映像ばっかりだったしな。
お。ちょうどニュース番組やっとる。
二日酔い気味で目が覚めきっていなかったんだけど、テレビ画面を見て僕は一気に目が覚めた。
僕は、そこで自分の目と耳を疑いました。
怪獣が地球に出現して以来、自分の目も耳も信用できへんことが多くて困る。
というか、これが幻覚・幻聴であって欲しいんだけど。
「よっしゃ!くらえ!! 必殺!!
スピニングロッポ―――――――――!!!!」
映像上で、巨大なロボットがそう「叫び」、光に包まれた物質をムカデ怪獣に向けて投げている。
光ってるし高速過ぎて、何を投げているかは映像からは判別できないけれど。
これは自分の記憶に従うなら、武器として生成した六法全書……。
そうか……。
高速回転して光ってるのか。
必殺技っぽいな……。
ちゃうわ!!!
「B・Uさん! なんでですか!!?
声!!僕の必殺技の叫び声が入っとりますよ!!」
「エクスディグタムには最低限人間の持つ器官が備わっています。発声器官も然り。
ナビゲーターから説明を受けませんでしたか」
「そんなことは言ってたけど!!
でも、ナビィさんとの会話は外に漏れてなかったよね!?
なんで必殺技だけ!!」
「怪獣に向けて発した声だからでしょうね」
「そうなん!!?」
確かに「くらえ」って言葉はムカデ怪獣に向けて発した言葉でございます。
さらに番組では、キャスターと解説員がいろいろ喋っている。
『この叫び声のようなものはどういうことでしょうね、解説員の原間さん?』
『そうですねぇ。まだ何も分かりませんが、こちらの人型の巨大な存在は、人間、もっと言えば日本人が操縦している可能性が強まったというところでしょうか』
あああああああああああ!!
ヤバい!!
どうしよう!
『人間』『日本人』ってとこまで限定されとる!
僕が搭乗してるってバレたらエラいことになるぞ。
『まだいろいろな可能性があるため断言はできません。
この人型の巨大な存在は、外敵を排除するために誰かが提供したとも考えられますが』
『原間さん、普通に考えるとその可能性が高そうですが』
『しかしもしこのような兵器を作り出すことができる人がいたとして、その人物がもう一体についても無関係とは言い切れないのではないかと』
『つまり怪獣とグルであると?』
『地球外生物が飛来したと考えるよりは現実的ですよね。
人類が二体の巨大な存在を作り上げて戦わせるということも』
『もしもそうであればタチの悪いゲームのようですね』
『あくまで可能性の話です。
ただ、この巨大な存在の少なくとも一体については、人類がコミュニケーションを取れる存在である可能性は高そうです』
『なるほど』
ううー。
そりゃまあ状況が分からないから勝手なことを言うのは仕方ないだろうけど。
解説員の原間さん、僕の代わりに『エクスディクタム』の操縦してくれませんかね……。
あれから何度となく、エクスディクタムとムカデ怪獣が戦う映像が流れている。
といっても、今回は双方かなり素早くてあんまり鮮明な映像がないな。
僕が報道ヘリの前に直立したときの映像が唯一のまともな映像かも。
『エクスディグタム』、巨大な人型の兵器。
カラーリングは、凡そメタリックブルー。
形は確かにロボットっぽいんだけど、表面の色合いというか……。
ところどころ無秩序に白い波形の模様が見えて、動作の度に水面が波打つように変化する。
まるで生きているようにすら見えるな。
どういう仕組みなんだろう。
プロジェクトマッピングみたいかも?
必殺武器の叫び声は、よくよく聞くと僕の声とは違う。
音声は出ちゃったけど、幸い僕の『声』が出たわけじゃないか。
あれってエクスディクタムの声なんかな。
これなら僕が乗っているなんてバレないか……。
『原間さん、スピニングロッポーというのはなんでしょうね』
『スピニングはともかく、ロッポーといえば、思い浮かぶのは六法全書なのでしょうけど、全くここでは関係なさそうな用語ですからねぇ』
関係なくないです!!
まんま!!
まんまやで!!
それは六法全書なんやで!!
『解説員の原間さん、他になにか分かることはありませんか』
『そうですね。この「よっしゃくらえ」という言葉といい、全体的なイントネーションと言い、この声を発したのは関西方面の人である可能性が』
うわああああああああああああああああ!!!
しもた!!
やってもた!!
『関西方面』まで範囲が狭まってきた!
縋るようにB・U氏を見る。
「…………」
励ましてくれないな。
「……次からは、音声は全カットするようにナビゲーターに指示を出した方が良いと思います」
『次から』て……
もう怪獣、来んといて……。
本章これで終わりです。
また少し書き溜めたら連続投下するかも〜




