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誰が王子を殺したか  作者: みのりやまと
誰が王子を殺したか
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誰が王子を殺したか6

「そんな、酷い!あんまりよ!」


 メリッサの叫び声に、隣の席の男子生徒が驚いて飛び上がった。教室中の生徒達の注目を集め、メリッサは舞台女優のような大きな身振りで、グシャリと手の中の手紙を握り潰した。


「あたしはジョーンズ様との最後のお別れがしたいだけなのに。それすらも叶わないの!?」


 メリッサが握り潰した手紙はオットーからのもので、僕が送った手紙への返事だった。ジョーンズ王子の葬儀に参列したいとのメリッサの願いを、すげなく断る内容だ。


 ジョーンズ王子の葬儀は王族と、ごく近しい者だけしか参列が許されないらしい。どこからかそう聞いてきたメリッサが、自分はジョーンズ王子の恋人だったのだから参列する権利があると言い出した。なんとかしてくれと駄々をこねるので、僕が公爵家のオットーに、王家への打診を頼んでみたのだ。


 無理だろうとは思っていたが、返事は想像以上に辛辣なものだった。参列する予定だったオットーまでが、葬儀の場に入ることを禁じられたらしい。


「おれ達はまだ疑われてんのかもな」


 ダグラスの言葉に、僕は頷いた。僕達は容疑者なのだ。そんな怪しい連中を、王族が集まる場所に近づけるはずがない。

 僕は納得していたし、オットーに迷惑を掛けてしまったことを心苦しくも思っていた。ダグラスも諦めムードだ。けれどメリッサは、苛々と爪を噛んで言う。


「でもローズマリー様は参列するんでしょ?それなのに、あたし達だけ締め出されるなんておかしいわよ!」

「そりゃまあ、そうだけどさ。王家の命令だし、しょうがないだろ」

「でもジョーンズ様のお葬式なのよ!絶対ローズマリー様よりあたしのほうが悲しんでるもの!一番悲しんでる人が出られないなんて、どうしてよ!」

「だから、おれ達は身分も足りないし──」

「身分なんて関係ないわよ!」


 ダグラスがなんとか宥めようとしているが、メリッサの癇癪は治まりそうにない。感情豊かなのはメリッサの美点だが、今回のは子どもじみた我儘だ。


「だいたい、オットーは本当に王家に伝えてくれたの?面倒だからって、勝手に断ってるんじゃないわよね。あの人、あたしのこと嫌いだから」


 その上言うに事欠いて、骨を折ってくれたオットーを非難している。さすがにこれは無いだろう。

 僕が呆れてものも言えないでいると、ダグラスが溜息をつき、うんざりした調子で提案した。


「わかったよ、オットーに会って確かめてきてやる。それで良いな、メリッサ」

「ダグラスが行くの?あなたじゃオットーに言いくるめられそうで不安だわ」


 二人同時に振り向いて、僕を見つめてくる。止めてほしい。僕はこれ以上、オットーに迷惑を掛けたくないのに。

 しかし僕は、ダグラスの無言の圧力とメリッサの潤んだ瞳に負けてしまい、放課後オットーに会いに行くことになってしまった。


 そして今、僕は公爵家の応接室でふかふかの椅子に座り、冷や汗をダラダラかきながらオットーと対面している。


 約束も無しに公爵家を訪れた僕は、見るからに歓迎されていなかった。それでも面会が叶ったのは、屋敷の門前で、ちょうど帰宅したオットーと行きあったからだ。偶然とはいえ顔を見てしまうと、優しいオットーには面会を断り辛かったのだろう。そうでなければ門兵に追い返されていたかもしれない。


「約束もなく押し掛けてしまい、申し訳ありませんでした」


 まずは非礼を詫びた僕に、オットーは苦笑した。


「どうせメリッサが癇癪を起こしたんだろう」


 僕も曖昧に笑って返す。オットーが笑ってくれたことで、僕は気が緩んでいた。


「彼女には困ったものだね。それに君たちも。いい加減、メリッサを甘やかすのは止めなさい」

「そんなつもりは無いのですが」

「自覚がないなら、なお悪い。この際はっきり言うが、陛下はお怒りだよ」


 僕はハッとして、ティーカップに延ばしかけていた手を止めた。いつの間にか、オットーの笑顔は消えていた。

 

「当然だろう。ただの男爵令嬢が、王家の決めた事に楯突いたんだ。更に命じられた事に不服を唱えるなんて、どうかしている」

「そんな、つもりは」

「でもメリッサは、まだ自分にはジョーンズ王子の葬儀に参列する権利があると、そう思っているんだろう?そして君も、メリッサの恥知らずなお願いを叶えてやろうと、わざわざ家まで来たんだろう?」

「恥知らず、なんて」

「王妃様のお言葉だ」


 王家の怒りが透けて見え、僕は息を呑んだ。メリッサの願いは、想像よりもずっと王家の不興を買う、非常識なもののようだ。


「正直に言って、わたしはもう君たちと関わりたくないんだ。学園での縁があるからと、一度は陛下に恩情を願ったけれど、後悔しているよ。メリッサを増長させるような話に手を貸してしまった」

「ですが、メリッサはジョーンズ様の恋人だったのです。ローズマリー様が参列されるのだから自分もと、そう思うのも自然な事ではないですか」

「本気で言っているのかい?ローズマリーは王家が決めた正式な婚約者だ、メリッサとは立場が違うだろう」

「そうかもしれませんが、ローズマリー様はジョーンズ様を殺」

「デイル!まだそんな戯言を言っているのか!」


 オットーに怒鳴られたのは初めてだった。僕が驚きで固まっているうちに、オットーは一つ息を付き、部屋の隅に控えていた使用人を下がらせた。


 二人きりになると、オットーは僕の隣に移動してきた。彼は酷く疲れた顔をして、低く抑えた声で僕に囁いた。


「いいかデイル、ローズマリーにジョーンズ王子を殺す動機はない。君は婚約破棄が原因で、ローズマリーが王子に毒を盛ったと思っているんだろう。でも、その前提が間違いだ」


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