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誰が王子を殺したか  作者: みのりやまと
誰が王子を殺したか
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誰が王子を殺したか5

 すっかり人気の無くなった学園の廊下を、僕は一人歩いていた。特に目的地があるわけではない。ただ、誰かしら話を聞ける相手がいないかと、ここ数日は暇さえあれば学園中をうろうろしているのだ。


 卒業式が終わってからも、在校生には授業が組み込まれている。例年ならば、ここまで人が減ることはない。だが今年は、例の事件があったせいで、学園に来る生徒が激減している。学生寮にいる生徒でさえ、授業が終わるとそそくさと自室に帰ってゆくので、学園は閑散としていた。


 あれから五日。僕は時間が許す限り、生徒達や先生方から話を聞いて回っていた。いわゆる聞き込みというやつだ。


 ローズマリー嬢に返り討ちにされたあと、僕は事件について別の面から考察してみた。ジョーンズ王子殺害を、動機以外の点から考えてみたのだ。

 

 死因は毒殺、それも即効性の毒物が使われたとみて間違いないだろう。亡くなるずっと前に遅効性の毒を飲まされたなら、何かしら異変があったはずだ。けれどジョーンズ王子は倒れる直前までお元気で、特に具合が悪そうでもなかった。となると、生徒会室での飲食物の、何に毒物が混入されたのか。


 ジョーンズ王子があの場で口にしたのは、紅茶と菓子だ。王子は紅茶をストレートで飲んでいたから、砂糖やミルクは除外。オットーが持ってきた菓子も、全てが同じ見た目のクッキーで、皆がめいめい大皿から摘んで食べていたから違うだろう。ジョーンズ王子を狙うには不確実過ぎる。


 だとすると、紅茶そのものに毒物が混入されたということになる。ただ、僕達も同じポットから注いだ紅茶を飲んだから、茶葉や水には毒物は含まれていなかったはずだ。そうなると考えられるのは、ジョーンズ王子の使った食器類だろうか。


 スプーンは皆で揃いの物を使っているが、ティーカップはジョーンズ王子だけが違う物を使っていた。五客セットだったカップのうちの一つをメリッサが割ってしまったからだ。

 泣きついてきたメリッサと一緒に僕が新しい物を買いに行き、メリッサが選んだ一つだけ違うティーカップを、ジョーンズ王子が自分用にした。だから、ジョーンズ王子のティーカップにだけ毒物を付着させることは可能だ。


 生徒会室のある別棟は四階建てで、一階が図書室、二階三階が特別教室となっており、元々人通りの少ない場所だ。生徒会室は最上階だから、余計に人が来ない。普段から生徒会室には鍵を掛けないし、こっそり忍び込んで毒を仕込むのは容易だろう。


 毒を仕込まれたのは卒業式の前日、それも午後からに限られる。昼休憩にも生徒会役員で集まって、昼食を取りながら紅茶を飲んだからだ。その時は何事もなかったし、ティーカップを片付けたのは他でもない僕だ。いつも使うティーカップを、いつもの場所に収めたのを覚えている。

 

 卒業式の前日午後、夕方までの間に、別棟付近にいた者が怪しい。

 

 こう結論づけた僕は、ひとまず目撃者探しに精を出すことにしたのだった。別棟辺りでローズマリー嬢か、彼女の取り巻きの誰かが見られていれば、そこを取っ掛かりにしてローズマリー嬢の牙城を切り崩すことが出来るかもしれないと。


 しかし捜査は難航している。今のところ有力な目撃情報は得られていない。

 そもそも人が少な過ぎる。話を聞こうにも相手がいないのでは話にならない。冗談のようだが、これが実情だ。


 ならばと友人知人伝に生徒達から話を聞こうと思ったが、これも上手くいかなかった。僕は社交が苦手で、生徒会役員以外に親しくしている人がほとんどいない。ダグラスやメリッサに協力してもらうことも考えたが、彼らも友人は多くない。生徒会は忙しいので、他と疎遠になりがちなのだ。


 僕が親しくしている生徒のうち、社交上手で友人が多いのはオットーとバイオレットだった。オットーからは協力を得られないので、僕はバイオレットの力を借りようと、彼女に手紙を書いた。僕がジョーンズ王子を毒殺した犯人に、どれほど憤っているか、メリッサがどんなに悲しんでいるかを書き連ね、どうか犯人探しに協力して欲しいと訴えた。それから学園に来ないバイオレットを心配していると書き添えた。


 彼女とはしばらく会っていない。卒業パーティーの準備で忙しくしていたので、事件の前から会えていなかったし、バイオレットは卒業式の日から学園に来ていない。

 バイオレットに会いたい。この一年、ジョーンズ王子とメリッサに振り回されて、バイオレットと会う時間が減っていた。オットーもダグラスも当てにできなかったので、僕が二人の仲を取り持つのに奔走していたからだ。


 本心を言えば、手紙ではなく直接バイオレットに願いに行きたかった。だが、今は時期が悪い。出来ればバイオレットを巻き込みたくなかったが、彼女なら僕の関与を伏せつつ上手く情報を集めてくれるだろう。

 ローズマリー嬢の脅迫に屈するつもりはないが、行動には細心の注意が必要だ。バイオレットに会うのは、ジョーンズ王子殺しの犯人を挙げて、安全が確保されてからのほうが良い。


 バイオレットへの手紙は侍従に託した。この時はそれが最善だと思っていたが、僕は後に、バイオレットに会いに行かなかったことを後悔することになる。


 バイオレットからの返事は来なかった。

 

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