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誰が王子を殺したか  作者: みのりやまと
誰が王子を殺したか
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誰が王子を殺したか4

「何だよアイツ」


 婚約者をエスコートしながら会場を後にするオットーを見送りながら、ダグラスはケッと悪態をついた。


「まぁ、仕方がないよ。オットーにも都合があるんだし。コンフィード公爵家と揉めたくはないんだろう」

「従兄妹だったよな。だからって、あんな女の肩持つか?」


 ダグラスの言う通り、オットーの家はコンフィード公爵家と親戚で、オットーとローズマリー嬢とは従兄妹だ。子どもの頃からローズマリー嬢と交流があるせいか、オットーはジョーンズ王子とメリッサの付き合いを快く思っていなかった。よくジョーンズ王子に諫言していたし、メリッサに対しても距離を置いている。


 だがオットーは、同じようにローズマリー嬢にも苦言を呈していた。メリッサに嫌がらせをする女子生徒を止めるように忠告もしていた。一方的にローズマリー嬢の味方をしている訳ではない。


「ねえ、それよりもローズマリー様が帰っちゃうけど、いいの?」


 メリッサに袖を引かれ、僕は慌ててローズマリー嬢に声を掛けた。

 

「ごきげんよう、生徒会役員の皆様。本日は慌ただしい中での式のお手伝い、さぞお疲れでしょう」


 家人と会場を出ようとしていたローズマリー嬢は、僕の声に振り返り、優雅に挨拶を返してきた。


「昨夜のことは聞き及んでおります。大変でしたわね。この後予定されていた卒業パーティーも、せっかく皆様が準備されていたのに残念なことです」

「あんな事があったのだから、仕方がありません」

「ええ。ですが、ジョーンズ様も心待ちにしてらしたのに」


 それはそうだろう。ジョーンズ王子は卒業パーティーの場でローズマリー嬢との婚約を破棄し、メリッサに求婚するつもりだったのだから。


「ローズマリー様も卒業パーティーを楽しみにしてたんですか?」


 メリッサが尋ねると、ローズマリー嬢の目がすっと細くなった。平坦な声が僅かに冷気を帯びる。


「貴女ほどではありませんが」


 ジョーンズ王子に婚約破棄をされると、ローズマリー嬢は知っていたようだ。となると、やはりローズマリー嬢にはジョーンズ王子を殺害する動機がある。

 貴族令嬢にとって婚約破棄は痛手だ。しかも相手が王族となれば相当な瑕疵となる。そうなる前に手を打とうとしただろうが、ジョーンズ王子の決意は覆らなかった。ならばいっその事殺してしまおう──有り得ない話ではない。


 僕が考えている間に、ダグラスがローズマリー嬢に詰め寄る。


「おい、メリッサを虐めんなよ」

「言い掛かりですわ」

「相変わらずムカつく女だな」

「王族の婚約者として恥ずべきことは致しておりません」

「婚約破棄を免れたからって、いい気なもんだ。ジョーンズが死んでホッとしてるんじゃないか?」


 辺りがざわりと揺れた。コンフィード家の家人がローズマリー嬢を庇うように前に出て、ダグラスを射殺しそうな目で見据えている。

 さすがに言い過ぎだ。僕は慌てて腕を掴んで、コンフィード家の家人に手を上げようとしているダグラスを止めた。


「ダグラス止めろ」

「離せよデイル。お前だって、コイツがジョーンズを殺したんじゃないかって疑ってんだろ」


 大声で言うなよ。慎重に探りを入れていこうとしていたのに台無しだ。


「そうなのですか?」


 ローズマリー嬢が僕に問いながら、ますます細く目をすがめる。思いきり警戒されてしまった。

 ローズマリー嬢が感情の読めない声で言う。


「ポジット様、貴方は余計なことを考えるよりも、婚約者のバイオレット様のことをお考えなさいませ」


 ジョーンズ王子殺しの犯人を探したら、バイオレットに危害を加えるという脅しだろうか。これがコンフィード公爵家の遣り口か。


 僕はギリと奥歯を噛み締めた。必死に感情を抑えたが、漏れ出す剣呑な気配に周囲が緊迫する。そんな張り詰めた空気の中、どこかのほほんとした声が割り込んだ。


「どうしたんだい、ローズマリー嬢。何か揉め事かい?」


 声の主は司法局の役人の一人だった。昨夜の取調べで僕を担当した男だ。僕がローズマリー嬢への疑いを口にした時、証拠も無いのにと一蹴した奴だ。

 役人は僕達とローズマリー嬢との間に立つと、ダグラスとメリッサには目もくれず、僕に話しかけた。


「君、説明してくれるかな」


 口調は丁寧だが目は笑っていない。探るように僕の一挙手一投足を窺っている。

 直感的に僕は確信した。この男はローズマリー嬢と繋がっている。いや、コンフィード公爵家と繋がっているのか。王族殺しの大罪を犯したローズマリー嬢を守るために、コンフィード公爵家が手を回したのだ。事件を有耶無耶にし、可能ならば他の者を身代わりに仕立てるために。


 犯人の身代わりにするなら、僕達生徒会役員がおあつらえ向きだ。なんと言ってもジョーンズ王子が殺された、その場に居合わせたのだから。

 オットーは気づいていたのかもしれない。だから関わり合いになるのを避け、僕に協力するのを拒んだのか。


「何でもありません、少し行き違いがあっただけです。ローズマリー様、大変失礼いたしました」


 僕は言いたい事も、聞きたかった事も全て呑み込んで、ローズマリー嬢に頭を下げた。また余計なことを言いそうなダグラスを引き摺りながら、メリッサに視線で撤退を告げる。

 その場を後にする僕の背に、ローズマリー嬢は追討ちを掛けた。


「ポジット様。皆様も、どうか身の回りにお気をつけください」


 気にかける振りをしながら堂々と脅しを掛けてくるローズマリー嬢の大胆不敵さに、コンフィード公爵家の権力を改めて思い知り、僕は黙って唇を噛んだ。


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