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誰が王子を殺したか  作者: みのりやまと
誰が王子を殺したか
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誰が王子を殺したか3

 事件の翌日。学園の卒業式が、予定を大幅に変更して行われた。

 王族が亡くなるという非常事態、しかも現場は学園内という異常事態だ。卒業式は中止か延期にすべきだという声も多かったが、昨夜の今日では連絡も調整も間に合わず、規模を縮小して執り行うことになったのだ。


 とはいえ、ジョーンズ王子の悲報は一夜のうちに知れ渡っており、卒業式は異様な雰囲気に包まれていた。警備のための騎士も通常の倍以上が配備され、司法局の役人もまだ辺りを彷徨いている。役人の中には生徒に話を聴こうとする者もいて、僕はあまりの非常識ぶりに何度も眉をひそめた。


 卒業生はかろうじて揃っていたが、在校生の出席者は少なかった。保護者もあまり来ていないため、席はまばらだ。寂しい卒業式になってしまったが、生徒達の家族の気持ちを考えれば致し方ないことだ。未だジョーンズ王子を殺害した犯人が捕まっていないのに、犯行現場となった学園へ大切な子女を送り出すなど、不安でしかないだろう。

 僕の婚約者であるミュニケル伯爵家のバイオレットも、姿が見えなかった。彼女が休みで良かった。バイオレットには安全な場所にいてもらいたい。


 僕はこの後、ローズマリー嬢と対決しなければならないのだから。拳を握り締めながら、僕は壇上の公爵令嬢を睨みつけた。


 ジョーンズ王子が行うはずだった卒業生代表の答辞を、ローズマリー嬢が代理人として読み上げている。涙ひとつ見せず、ただ淡々と原稿を読む様は、さすが淑女の鑑と讃えられるだけはある。だが僕の目には、ローズマリー嬢は単にふてぶてしいだけだと映った。それは生徒会役員として僕の右隣に座るメリッサも同じようで、


「ジョーンズ様が心を込めて書かれた答辞なのに……」


 そう呟く声は心底悔しそうで、僕はメリッサを落ち着かせるために、彼女の左手にそっと右手を重ねた。と同時に左手でダグラスの膝を押さえる。僕の左隣に座るダグラスは、顔を真っ赤にしてローズマリー嬢を睨み上げ、今にも怒鳴り出しそうだったからだ。


「ダグラス、落ち着いて。オットー様の卒業式を台無しにするつもりか」


 生徒会役員で唯一の卒業生となったオットーは、僕達と離れた卒業生のための席に座っている。僕からは彼の姿は見えないけれど、オットーも僕達同様に、ローズマリー嬢を不快に思っていることだろう。


 予定よりもかなり簡略化された卒業式は、昼前には終わってしまった。本来ならこれから僕達生徒会役員は、夕方から行われる卒業パーティーの仕切りでてんてこ舞いだったはずだ。けれど、数ヶ月をかけて準備した卒業パーティーは、さすがに中止になった。

 これも仕方のない事とはいえ残念だ。何故卒業式の前日に事件を起こしたのだ。犯人に恨み言の一つも言いたくなってくる。

 

「この後どうする?」


 ダグラスがぐるりと皆を見回しながら問う。他の卒業生達との別れを済ませ、僕達に合流したばかりのオットーが申し訳なさ気に応えた。


「わたしは婚約者を送っていかないと。彼女の屋敷で、結婚式をどうするかの話し合いなんだ」


 オットーは、学園卒業と同時に年上の婚約者と結婚することが決まっている。相手を待たせていたので結婚自体は免れないだろうが、式をどうするかは悩ましいところだろう。慎ましくともすぐに式を挙げるか、ジョーンズ王子の喪が明けてからに延期するか。


「彼女はこれ以上待てないと言うから、親族だけ招いての結婚式になるかもしれない。君達にも参列して欲しかったんだけど」

「大変だな、もう尻に敷かれてんのか」

「ダグラス、わたしは婚約者を大切にしているだけだよ」


 君と違って、というオットーの本音が、続けて聞こえた気がした。


「君達は婚約者と話さなくて良いのかい?」

「あいつと話す事なんてねえよ。本当なら今頃、大勢の前で婚約破棄してやるはずだったのに。なあデイル」

「僕を巻き込まないでって言ったよね。僕はバイオレットとの婚約に不満なんて無いんだから」

「じゃあお前も婚約者と帰るのかよ」

「ええっ、デイルも帰っちゃうの?」


 メリッサが僕の腕を掴んで引き留める。ダグラスと二人きりになるのが不安なのだろう。

 メリッサの背後でダグラスが、お前もさっさと帰れと目で訴えてくる。けれど僕も、メリッサをダグラスと二人きりにするのは不安だった。

 ダグラスは良い奴だが、人間の心の機微に少し疎い。恋人を亡くしたばかりのメリッサに迫るような事をして、メリッサを傷付けかねない。


「バイオレットは欠席しているみたいだし、僕はもう少し残るよ」


 メリッサが嬉しそうに微笑んで、ダグラスが渋面を作る。


「良いのかい?ダグラスはともかく、デイルは婚約者に会って、状況説明だけでもしておいたほうが」

「大丈夫ですよ。バイオレットは分かってくれます。それに、僕にはやらなければならない事があるので」


 僕が視線を巡らせると、つられて皆も顔を向けた。僕達の視線の先には、司法局の役人と話しているローズマリー嬢がいる。


「何するつもりか知らねえが、乗った」

「あたしも」

 

 二人の援護に気を良くし、オットーも味方についてくれると期待したが、彼は慎重に言葉を選んだ。


「何をするつもりか想像はつくけど、止めたほうがいい。本職に任せるべきだよ」

「貴方はジョーンズ様の無念を晴らしたいと思わないのですか」

「彼のことは残念だった。でも、わたし達に出来ることはないよ」

「そんな事はありません。僕らが力を合わせれば──」

「デイル。わたしは協力する気はない。これ以上は御免だ」


 穏やかな気性の彼には珍しく、オットーは強い言葉で言い捨てた。そして僕達三人に背を向けると、そのまま離れて行ってしまった。


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