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誰が王子を殺したか  作者: みのりやまと
誰が王女を脅したか
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誰が王女を脅したか7

 わたしの不安は予想よりも早くに現実となった。

 ジャスミン王女との面会から二日目の夜、わたしが身を寄せているアイリスの実家に、同僚の騎士が駆け込んできた。


「中央通りで事件があり、局長がオットー殿も臨場するようにとのことです」


 書類仕事担当のわたしが夜に呼び出されるのは初めてだ。不思議に思ったのが顔に出ていたのだろう、伝令の騎士が声を落として教えてくれる。


「被害者はキャトルとかいう近衛騎士です。知り合いですか?」

「そんなところです」


 言葉を濁しながら、わたしは急いで支度をし、騎士の案内で現場に急行した。


 夜も更けていたが、中央通りにはまだ人通りがあった。近くに新しくできた劇場が夜間公演をしているから、野次馬に集まった紳士淑女はその帰りなのだろう。物見高い彼らの間を縫って現場に到着すると、グラントが直ぐに気づいて手を振った。


「すまん。俺は明日で良いかと思ったんだけど、ローズマリーがお前も呼べって言うからさー」

「ローズマリーも来ているんですか?」

「劇場公演を見に来てたんだって。誰と見に来たんだろうねー」

「誰でも良いでしょ。オットー、呼び出してごめんなさいね」


 脇の建物からローズマリーが出てきて、話に加わる。彼女はシンプルだが上質な夜会服の上に、男物の上着を羽織っていた。


「いや、呼んでくれて良かったよ。それで、キャトルは?」


 ローズマリーが無言で路上を指し示す。少し離れた場所に黒っぽい布で覆われた物があった。暗い中目を凝らしてよく見ると、地面に点々と染みのような物もある。


「あの部屋を借りていたらしいわ」


 続けてローズマリーが指し示したのは、彼女がさっき出てきた建物の上階だった。建物は宿泊施設のようだ。見上げると、最上階のバルコニーから、司法局の制服職員が下を覗いていた。ローズマリーが指し示す手に気づいて、手を上げて応えている。

 

「あそこから落ちたら一溜まりもないねー」


 グラントの言うように、キャトルは即死だったらしい。運が良いのか悪いのか、落下時に居合わせた者が居たのだそうだ。巻き込まれそうになったその男は悲鳴を上げて腰を抜かし、騒ぎを聞きつけた宿泊施設の従業員が衛兵に知らせた。駆け付けた衛兵のなかにキャトルを知っている者がいて、まだ事件とも事故とも判断がつかない内から司法局に連絡が来たらしい。


 状況だけ見れば、まだこれが事件か事故か、はたまた自殺なのかは分からないが。


「報復だと思いますか?」


 その可能性があるから、わたしも呼ばれたのだろう。

 グラントは常に無い真面目な顔で、黒っぽい布の膨らみを見ていた。あの高さから落ちたのなら、遺体は酷い状態なのだろう。顔の見分けがつくのがせめてもの救いか。


「まだ何も分からない。でも、このタイミングだからねー、色々考えちゃうよねー」


 普段通りの軽い口調で答えた声は、普段よりも低く重かった。


 グラントは衛兵に遺体を運ぶよう指示を出すと、建物の中へと入っていった。ローズマリーが案内に立ち、長い階段を昇る。運動不足のわたしは直ぐに息が上がり、苦しくなってきた。それなのに深窓の令嬢だったはずのローズマリーは、軽快に足を運びながら捜査状況の説明までしてくれる。


「被害者は何度かここを利用していたみたいね。いつもは女性と一緒だったけれど、今日は夕方一人で来て部屋を借りたそうよ」

「さすが客商売だねぇ、ちゃんとお客の顔を覚えているもんだ」

「なかなか目立つ外見だったようだから。それにお相手の女性も毎回違ったそうだから、悪目立ちしていたようね」


 どうやらキャトルにはジャスミン王女以外にも、浮気相手が居たらしい。しかも複数と来た。相当女癖が悪かったようだ。


「そうなると交友関係も調べなきゃだなー」

「前に身元を調べた時は、女性の名前までは出てこなかったわ。決まった相手を作らず、その時々で女性を引っ掛けていたのだとすると特定は困難ね」

「あの顔なら幾らでも女性が引っ掛かったろうね、あーやだやだ」


 グラントは捜査が難航しそうなのを憂いているのか、それとも単に美形をやっかんでいるのか。以前も顔が良い奴は、なんて言っていたが、グラント自身もなかなか男前なのだが。王族らしいキラキラした感じではないし、黒縁メガネとクセの強い髪質のせいでモッサリして見えるが、顔立ちは悪くない。あれこれきちんと整えれば、美人のローズマリーと並んでも遜色ないと思う。


「その辺りは私が調べ直すわ。貴族の女性が多いだろうし、デリケートな問題だから。貴方達は別の線を探ってちょうだい」

「そうだねー、こっちもデリケートな調査になりそうで気が重いよ。でも俺がやるしかないよねー」


 話しているうちに長い階段は終わり、グラントは最後の一段に足を掛けてハァ、と溜息を吐いた。それから気を取り直して背筋を伸ばし、最上階に足を踏み入れる。

 先着していた制服姿の司法局職員が駆け寄ってきた時には、グラントは完全に仕事モードの顔に切り替わっていた。わたし達はキャトルが借りていたという客室に入り、調査を開始した。

 

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