表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が王子を殺したか  作者: みのりやまと
誰が王子を殺したか
11/48

誰が王子を殺したか11

 くすりと笑う声が聞こえ、僕は俯いていた顔を上げた。

 バイオレットが笑っていた。初めはくすくすとした忍び笑いだったのが、次第に大きく、部屋を揺るがすほどの哄笑になる。心から可笑しそうに、愉しそうに笑うバイオレットを、僕は呆然と見つめた。こんなに大声を上げて笑う彼女を見たことはない。


 ひとしきり笑ったバイオレットは、息を整え、それでもまだ込み上げる笑いを抑えきれない声で話し出した。


「やっと本心を晒してくれたわね、デイル。貴方はいつも耳ざわりの良い、優しく残酷な嘘ばかりで。わたくしの事なんてとっくに愛していなかったくせに」

「そんな事はない、僕は、君を」

「また嘘をつくの?わたくしとの婚約を破棄するつもりだったくせに。知ってるのよ、口の軽いダグラスが友人に話しているのを聞いたんだから。自分達三人は、卒業パーティーで望まない婚約を破棄して真実の愛に生きるんだって、自慢していたわ」

「違う、それはダグラスの思い込みで」

「そうかしら。少なくとも貴方は、婚約者のわたくしよりも、そこのメリッサとかいう女を大切にしてるじゃない。学園でも休みの日も、その女にべったり。わたくしのお茶会を断って、その女と二人で出掛けたと聞いて、わたくしがどんな気持ちだったか分かる?想像すらした事無いんでしょ」

 

 メリッサと二人で出掛けたのは、割ってしまったティーカップを新しく買いたいというメリッサに付き添った時だけだ。疚しいことなんて一つも無い。

 けれど、軽率だったことは確かで、今さら僕が何を言ったところで言い訳にしかならないだろう。


「でも、だからってジョーンズ様に毒を盛っていい理由にはならないだろう」

「話を聞いていなかったの?わたくしは、貴方に、毒を盛ったのよ。ジョーンズ殿下を害するつもりは無かったわ。こんな事になるなら、初めからデイルに直接毒入りケーキを食べさせれば良かった。下手にその女に疑いを向けさせようとしたから、失敗してしまったわ」

「今のは自白と取っていいかな」


 恐ろしい企みをつらつらと口にするバイオレット。その迫力に僕は身震いし、反論する気力も奪われたが、役人は平気そうな顔で口を挟んだ。


「ええ。そう受け取って頂いて構いませんわ。わたくしは、理不尽に婚約を破棄しようとするデイルを恨み、彼を殺そうとした。こうなっては逃げも隠れもしませんわ。何もかもお話します。ですからどうか、公聴裁判に掛けてくださいませ」

「分かった、善処しよう」


 バイオレットは満足げに微笑んで、役人の部下に右手を差し出した。

 

「……何故だ、バイオレット。君は優しい女性だっただろう」

「優しいだけのわたくしは死んだのです。デイル、貴方に殺されたのですわ」


 罪人であることが嘘のように、優雅にエスコートされながら、バイオレットは退出していった。


「さて、君達二人にも、ご同行願おうか」


 バイオレットを見送ってから、役人が僕とメリッサとを交互に見ながら言った。事件の当事者となった僕達に事情を聞きたいのだろうと、僕はまだ楽観視していた。


「分かりました。でもその前に、一つお願いがあります」

「何だい?」

「さっきバイオレットが公聴裁判をと言っていましたが、せめて司法局での裁判にしてやって貰えませんか?」


 公聴裁判はその名のとおり、誰でも傍聴できる開かれた裁判だ。そんな場所にバイオレットを立たせ、不躾な好奇の視線に晒したくない。

 彼女には殺したいほど憎まれていたようだが、僕にはまだバイオレットに対する情がある。被害者である僕の願いなら、聞いてもらえるはずだ。


 けれど役人は、厳しい顔で首を横に振った。


「君は、ここに来ても保身にしか興味がないんだね」

「僕は、バイオレットのためを思ってお願いしているんです!彼女が直接悪意に晒されないよう、守ってやりたいんです!」

「君が守りたいのは自分自身だろう。公衆の面前で、自分がいかに愚かで、卑劣で、矮小かを暴露されるのが嫌で、バイオレット嬢のためと偽って願っているんだ」

「無礼にも程がある!貴方じゃ話にならない、責任者を呼んでくれ!」


 あまりにも酷い物言いに、僕の我慢は限界だった。この役人は、僕がローズマリー嬢を疑っていたことを根に持っているのだろう。だから僕を貶め、悪役に仕立て上げたいのだ。

 僕はこれでも伯爵家の令息だ。いち役人如きに、悪し様に言われる筋合いはない。


 僕が責任者を呼べと言った途端、役人は困ったように眉を寄せた。そっちこそ、自分の愚かさを思い知るがいい。


「俺がこの事件の捜査責任者なんだけどねー」

「は?」

「そういえば名乗っていなかったね。俺はグラント・ストレングス。司法局の長官で、この事件だけじゃなく、あらゆる事件捜査の責任者だ」


 何ということだ。司法局のトップがこんな男だなんて。姓があるから貴族籍にはあるのだろうが、ストレングス家なんて聞いたこともない。


「末端貴族が長官とは」

「……君はまだ、自分の立場が分かっていないんだね」


 憐れむような目で僕を見て、役人──グラントは何度目かの溜息をつく。


「デイル・ポジット、メリッサ・ホープ。二人を第五王子ジョーンズ殺害の共犯として拘束する。もう面倒だから、無駄口叩いてないで大人しくついて来なさい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ