誰が王子を殺したか1
日が沈む。今日が終わろうとしている。
今頃生徒会役員の方達は、生徒会室で明日の打ち合わせをしているはずだ。卒業パーティーの仕切りと、彼らがやろうとしているちょっとした余興の最終確認を。余興と言うには悪趣味な計画の算段を、紅茶でも飲みながら話し合っていることだろう。
卒業パーティーという祝いの場で婚姻を破棄などと、随分と酷いことを思いつくものだ。たまたま漏れ聞いてしまった時は、耳を疑った。婚約者のある身でありながら、他の女性と懇意にするだけでも裏切り行為なのに。
今年編入してきた男爵令嬢を、生徒会役員を務めるほどの面々が囲い込むなど、誰が予想しただろう。成績上位者であるだけでなく、身分が高いことも生徒会に入る条件だったはずだ。それなのに、いくら編入後の試験で学年首位を取ったからといって、昨年貴族になったばかりの男爵家の令嬢を生徒会書記に任命などするから。
そもそも第五王子を始め、生徒会役員は高位貴族の令息ばかりだったのだ。そんな場所に令嬢を一人だけ入れるなど、それだけでも周囲との軋轢を生むには十分だ。
そのうえ元は庶民の男爵令嬢は、貴族の礼節を無視して生徒会役員の令息達と文字通り距離を詰めていった。非難されるのも当然なのに、王子達は男爵令嬢を擁護するばかりか、あまつさえ男爵令嬢が被害者だと宣う。更に彼らが計画している婚約破棄。こんな事が許されるはずがない。
悪いのは彼だ。
うまく事が運んでいれば、今頃学園は大騒ぎになっているだろう。失敗していたら──いや、正義は我にあり、だ。天はこちらに味方するはずだ。
知らせが届くのはいつ頃になるだろう。彼が死ぬのは悲しいから、悲しみを表現するのは問題ないはずだ。けれど、きちんと驚いたふりが出来るだろうか。表情を整えることは貴族の必須技能だから習得しているが、真逆の技能は持ち合わせていない。
今からでも練習するべきだろうか。付け焼き刃ではかえって白々しくなるだろうか。
いずれにせよ不審に思われないよう、行動には細心の注意を払わなくては。この国は司法国家だが、国王が黒と言えば白でも灰色位にはなる。それに調べられれば簡単に証拠が上がるだろう。証拠隠滅の技能も、生憎持ち合わせていない。
夜が迫っている。長い夜になりそうだ。今夜は眠れそうにない。
夜半、第五王子ジョーンズが亡くなったとの知らせが、王都を掛け巡った。