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【最期の景色】(悲しい)
テクノロジーは日々進歩している。
そしてこの度、自分の目がレンズ、瞬きがシャッターの役割を担って、見た景色をそのまま写真に納めるという新しい手法が開発された。
それはデジタルカメラのように、スマホやPCなどの外部機器に即データを転送できる仕組みだ。
男が自分の片目を指差しながら、女に話す。
「自分が見ているものをそっくりそのまま伝えられるってすごいだろ?今度いいのが撮れたら見せてあげるよ。」
「楽しみにしてるわ。」
男が散歩をしていたある日、不運にも信号無視のトラックに跳ねられてしまった。
路上に横たわる男は自分の死期を悟る。
(そうか。俺、ここで…)
男の眼前には抜けるような青空が広がっていた。
アスファルトを赤く染めながら、朦朧とする意識の中で思う。
ーこの空を最愛の人に見せたいー
これが男が見た最期の景色。
男はゆっくりと瞬きをした後、静かに目を閉じた。