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銀のリボンを結んで  作者: 吉岡果音
第二章 ギフト
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第15話 寂しそうな瞳

 虫の声なのだろうか。異世界の生きものたちは、不思議な音色で夜を彩っていた。


「凛子、眠れそう?」


 横になってしばらくのあと、隣のベッドからリールが声をかけてきた。


「はい、たぶん……。寝つきはいいほうなんで大丈夫です」


「このベッド、寝心地がいい感じよね。安宿じゃなくてほんとよかったわ」


「あの……」


 気になっていたこと。思い切って訊いてみることにした。


「なあに? 凛子」


「リールさんは……。リールは、ギフトをもらってよかったと思っていますか……?」


 カーテンの隙間から少し、月の光が差し込んでいた。


「うん……。そうね。私はどちらでもないわ。私は私だし。ミルゼやディゼムのように、遠くへ行ってみたいとかそんなに思わないしね。生まれたときからだから、もうそういうものだって思ってる……。でも自分の能力に関しては、私は誇りを持っているわ」


 誇り……、そうなんだ。


 かっこいい、と思った。自分の個性を受け入れ、堂々と胸を張って生きている。とてもうらやましいな、と思う。


 リールは、素敵な人だから。自分は――。


「ギフトは……、妖精の植えた『種』だって思ってる人もいるわ」


「え、種……?」


 そういえば、と思い出す。ミルゼは妖精の「ギフト」を、「人間が使った魔力エネルギーの一部を養分にするため」与えているのだ、と説明していた――。


「妖精が、あとで自分の食料にするため人間に種を植え付けているようなものだって感じている人たちもいる。人間が魔力を使ったときが収穫どき。妖精って、人間が力を持ったら使わずにいられないってことを知ってるのね」


 確かに、不思議な力があったら自分だって喜んで使うだろう、と思う。


「妖精に反発して、あえて魔力を使わない人もいるわ」


「え……?」


「一生魔力を使わないって誓って、あえて普通の職業を選んで普通に生活していく人もいる。ミルゼがよく食事に行く店の店員さんもそうね」


 あ、あの牛の角の店員さん!


「別に、魔力を使わない人たちがいても、他に使う人がたくさんいるから妖精はまったく困らないわ。魔力の残り火は妖精の主食でもないし。人間が魔力を行使するかどうかは、妖精にとってはおそらくどうでもいいこと。でも――。ギフトや妖精に複雑な思いを抱く人は、たとえ意味がないささやかな抵抗だとしても、あえて普通の生活を選んでいくわ」


 いろんな人がいる。いろんな捉えかた、生きかたがあるんだ――。


 ギフトは幸運なのだろうか。不運なことなのだろうか。ただ、誰もが前を向いて生きている。受け入れるしかないからなのだろうけれど、それぞれ自分の人生を見つけていく。

 ただ凛子は、リールにどう返事をしたらいいのか、わからなかった。

 外部の人間、しかも「世界」が違う人間である。年下の、さらには出会ったばかりの人間が言えることなどなにもなかった。

 しかし、沈黙を気に病む必要もなかった。リールが、話かけてくれたからだ。


「これから、凛子はどんな道を選んでいくのかしらね。勉強して、恋をして、働いて……。変わっていくことを恐れず、どんどん自分の世界を広げていきなさい。遠い世界から応援してるわ」


 勉強……。それは今の延長だろうから大丈夫だろうけど、恋……。働く……。その辺りは、イマイチ想像できないなあ……。


 未来の自分は、ちゃんとできているんだろうか。未来、といってももう遠い話ではない。正直心もとない、と思った。

 でも、リールの自分を思ってくれている言葉が、嬉しかった。あたたかい言葉を、素直に受け取ろうと思った。


「自分を信じてあげてね。凛子なら、大丈夫だろうから」


「リール……。ありがとう」


 ふふふ、とリールは笑った。楽しいこと、きっとたくさん待ってるわよ、とも言ってくれた。


「明日は早いからね。そろそろ、おやすみなさい」


「リール……。おやすみなさい」


 窓の外の生きものたちは、それぞれの音色を響かせる。懐深い夜という時間の中、喜びか叫びか、無数の小さな唄声たちが溶け込んでいく。


 元の世界、自分のいた世界は今何時ごろなんだろう、みんな心配してるのかな――。


 暗闇の中、両親や友だちのことを考えていた。それから、学校のことも。不安や心配や寂しさが、凛子の胸をよぎる。様々なことに思いをめぐらせていたとき、唐突にミルゼの顔が浮かんだ。

 いつの間にか凛子は、ミルゼの寂しそうな瞳を思い出していた。


 ミルゼに海、見せてあげたいな……。


 海に憧れるミルゼ。叶わないささやかな願い。切ない横顔――。


 あれ? お父さんやお母さんや友達や学校のことを考えていたのに、どうして私、ミルゼのことを考えているんだろう――。


 それから、ミルゼの優しい笑顔、子どものようにすねた顔、そして私のために怒ってくれた顔――。いろんなミルゼの表情が頭に浮かぶ。それから――、腕に抱かれたときの、ほのかな甘い香り――。


 私、ミルゼのこと悪魔だと思ってたんだっけ――。でもいつの間にか、こんなにも……。


 こんなにも、と思って、どきりとする。こんなにも、なんだというのだろう。

 布団の中にすっぽり顔まで入れ、ついでに布団を巻き込み反対側に勢いよく体を向ける。


 やっぱりミルゼは悪魔、だったりして――。


 生きものの唄。リズミカルに、長く、遠く。誰かを求める恋の唄なのだろうか。


 銀の瞳、銀の髪……。まるで、月からの使者のよう。


 ほどなく凛子は眠りに落ちていった。

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