第11話 へんなひとたち。
女子高生と、「草食系」と、それから「肉食系」二人。
ご馳走が並ぶテーブルで、奇妙な作戦会議は続く。
「あの……、『目』の役割の、前の人は……、辞めてしまったのですか?」
どうしてメンバーが変わったのだろう――、訊いていいかどうか迷ったが、凛子は思い切って訊いてみる。
凛子の疑問に、ミルゼが答えた。
「『目』の役割をする人は、凛子さんの世界の人にお願いしているのです。こちらでの一日があちらではほんのわずかな時間という、こちらとは大幅に時間進行の異なる世界、そのため大体一回きりの契約になってしまうのです」
「え……? 時間の流れが違うから、それで毎回新しい人に――?」
ミルゼとリールとディゼム、それぞれうなずく。
ディゼムが、酒のグラスをぐいっと傾けてから、話し出す。
「ドラゴンは、俺たちには見えないんだ」
「え、見えないドラゴン……?」
「そう。俺たちには、ね」
こちらの世界の人たちにとって見えないドラゴンを、凛子たちの世界の人が見る、そういう話なのか、と凛子はなんとなく理解した。
ディゼムに代わり、リールが続けて説明する。
「彼らは隠れているから。私たちの世界の『見える人』でもドラゴンはあまりはっきりとは見えないの。だから、ドラゴンなんて伝説上の生物だ、と考える人も多いわ。本当に存在を確信しているのは、魔力を持つためドラゴンを肌で感じることのできるギフトをもらった人間と、研究熱心な学者くらい」
「学者さんが!?」
意外なリールの一言に、驚いた。
「ええ。こちらでは現実的に物事の真理を追究するような人が見えやすいんですよ」
ミルゼが野菜料理を次々と口にしつつ、付け足した。本当に、どれだけ食べるのが好きなんだ、と、そちらのほうにも凛子は驚く。
「それから、異世界の人々、凛子たちの世界の人のほうがちゃんと見えるんだ。ドラゴンが隠れるのは俺たちの目からだからね。異世界の人用には対応しきれていない」
ディゼムは、骨付きの肉の塊を頬張る。漫画によく出てくる「漫画肉」みたい、と凛子は密かに感動していた。ついでに、そういう肉を豪快に食べるのがディゼムは似合うなあ、などという感想を抱く。
「私の目で、ちゃんと見えるんだ……」
「うん。ちなみに言うと、妖精も凛子たちのほうがはっきり見えるよ」
ディゼムは、酒のほうもかなり進んでいた。食べかたも飲みかたも豪快だった。いっぽう、リールはブラッドレッドの色をした酒をたしなみつつ、優雅な所作でナイフを操り、ステーキを一口大の大きさにして口に運ぶ。その「一口大」が少々大きいようにも見えるが。
「そうなの。ギフトをもらった私たちには、妖精は光の球のように見える。妖精はドラゴンのように隠れているわけではないし、私たちにも光として見えるんだけど。よく見える人によると、妖精は、羽の生えた小さな人の形をしている、とのことよ」
「妖精は、凛子のようなかわい子ちゃんの目に見えやすいんだよ」
そう言いながら、凛子に向かってディゼムがウィンクする。
「……妖精は、異世界の人こちらの世界の人を問わず、自らを高めようという想いが強い、前向きで若々しい魂の持ち主が見えやすいんです。妖精の場合、今まではっきり見えていた人でも、向上心や前向きな変化を求める心が薄れると見える力が弱まっていきます。逆に言うと、志いかんで今まで見えなかった人もある程度見えるようになっていきます。見ることに年齢や性別や容姿は関係ありません」
ディゼムの大雑把でテキトウな説明を、ミルゼが訂正した。
「ドラゴンの見える人と妖精の見える人は、違うの?」
不思議なドラゴンと妖精という存在、一緒の話かと思えば、どうも違うらしい。
「はい。それから、隠れているぶん、ドラゴンを見るためには高い資質と能力を必要とします。異世界の人には対応しきれていない、とディゼムが説明しましたが、それでも凛子さんの住む世界の人が誰でもはっきり見ることができるというわけではないんです」
ミルゼが食べながら話す。話しながらで、しかも大口に食べているが、下品な感じや失礼な感じがしない、むしろなんだかほれぼれするような食べっぷり――。凛子は妙なところに感心していた。
「私は、いつも探しています。凛子さんのような素晴らしいかたを。私の能力を駆使して」
「ミルゼは人材探しとキノコ探しの名人だからねえ!」
ディゼムがミルゼに、屈託のない笑顔を向ける。
「名人というわけではないですけれど」
ミルゼが、ちょっと困ったような、照れたような顔で呟く。
あ。そうか。草食系は、「探知能力を持つ」とか言ってたっけ――。
「……ルートはこれが最適だと思います」
ミルゼが地図を指でなぞる。細くて長い指。凛子は地図よりミルゼの美しい指に目が行ったが、慌てて地図に集中する――。目的地とされる場所は山を一つ越えた次の山の中で、見るからに大変そうだ。
「……移動手段はどうするの? まさか……、全部徒歩!?」
「いえ。車で行けるところまでは車、そしてこの手前の山のふもとでギルウを借ります」
「『ギルウ』って?」
「凛子さんの世界にいるヤギを大きくしたような動物です。狭く険しい山道も平気で登ってくれます。その動物に乗って行きます」
「それ、私も乗れるの!?」
馬だって乗ったことがないのに、そんなヤギに似ているという動物に乗れるのか凛子は自信がなかった。
「大丈夫です。人によく馴れ、人が大好きな動物です。彼らはとても賢く、人を乗せて運ぶ仕事に誇りを持っているんですよ」
「とってもかわいいんだぜ! 凜子も気に入ると思うよ!」
「ちょっと乗り心地はよくないけどね。でも一生懸命運んでくれる姿は健気で愛らしいわ」
ディゼムの言葉に、リールが微笑みながら付け足した。
「当然、車の手配も済んでるんでしょ?」
リールがミルゼに確認する。
「はい。大丈夫です」
「そりゃそうだろ! ミルゼは真面目で頼りになるからなあ!」
「誰かさんとは違ってね」
リールが思いっきりディゼムの顔を見ながら言う。
「リール! ひどいなあ! そんな目で俺を見ないでくれよ! んー……。でも、確かに……、俺もそう思う!」
ディゼムが自分で認めた。ディゼムは不真面目で頼りにはならないらしい。
ほぼ雑談だらけの会話が進む。酒も食べ物も進む。凛子は目の前を通り過ぎる会話を、ただぼんやりと聞いていた。
ほんとうに、へんなひとたち――。
くすり、と笑ってしまった。
凛子はいつの間にか、このヘンテコな人たちと共有する空間に居心地のよさを感じていた。
自分では、認めたくないところだが。




