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銀のリボンを結んで  作者: 吉岡果音
第二章 ギフト
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第10話 認められるということ

 野菜料理の皿、肉料理の皿、そして四人分のグラス――凛子とミルゼだけソフトドリンクである――の脇に、ミルゼは羊皮紙に描かれた地図を広げた。


「予定通り明日早朝、このルートで向かいます」


「そ、早朝っ!?」


 凜子は思わず大声で驚いてしまった。


「どうしたの? 凛子。なにか問題でも?」


 リールが凛子の反応を見て、声をかけた。


「も、問題です!」


 ミルゼも不思議そうな顔で凛子を見つめる。


「凛子さん。なにが問題なんです?」


「だ、だって、早朝って……! それじゃ、それじゃ今晩はどうするのよ!?」


 朝を迎えるためには、当然のことながらまず夜を迎えねばならない。


 夜を過ごすって、どこで、どうやって!? 大問題じゃない! それに、「予定通り」って、なに!? 初めて聞くんですけど!?


「宿は、みんなの分ちゃんととってありますよ」


「や、宿!」

 

 あぜんとしてしまった。勝手に話が進んでいる。 


「もちろん豪華で素敵な宿よねえ?」


 すかさずリールがミルゼに顔を近づけ尋ねる。変な宿、しょぼい宿だったら容赦しない、とでも言いたげだ。


 リールさんも、それでOKなの!?


 反対意見を言おうとしたら、先にディゼムが話し出していた。


「女子はそういったとこに敏感だねえ! やれやれ、まずは今晩の宿のことから打ち合わせかよ。まあ確かに思い出作りにははずせない重要ポイントだけどねえ!」


 ディゼムはそう言いながら頭の後ろに両手を当て、ちょっと伸びをする。


 凛子がちょっと待って、と言おうとしたら、今度はミルゼが応えていた。


「ディゼムまで……。旅行じゃないんですから。リールも知ってるでしょう? すぐそこの『ミモザ』ですよ」


「ちょ、ちょっと待っ……」


 凛子の声は、偶然隣のテーブルで起きた笑い声と、リールの溌溂とした声にかき消されてしまった。


「ああ! あそこは評判いいみたいよね!」


「あ! 俺泊まったことある! 飯もうまいんだぜ!」


 ディゼムが急に目を輝かせ、身を乗り出した。肉食獣の両耳をぴんっと立てている――。いかにもわくわくしているという感じ。


 だから、勝手に話を進――。


「部屋はリールと俺、ミルゼと凛子の組み合わせ? それとも俺と凛子?」


 ディゼムがとんでもない爆弾を投下してきた。


「なっ……!」


 凜子は顔が真っ赤になり、絶句する。


「ディゼム! なんで男女が同部屋なんですか!」


 凛子の代わりに、ミルゼが指摘した。


「うーん。やっぱ野郎同士か」


 そりゃそうだとわかってるけど改めて残念、そんなふうにディゼムが呟く。耳をしょぼんと寝かせてしまった――。思ったことがすぐ表れる、わかりやすい性格。


「当たり前でしょ」


 ごっ!


 リールがメニューの角をディゼムの頭にぶつけた。


「角はやめろや。角は!」


 リールが今度はメニューの『面』の部分をディゼムの顔に押し付けてみる。


「面はもっとやめろお! 面を面に押し付けるなあっ!」


「…………」


 ミルゼも凛子も、リールとディゼムの不毛なやり取りは見なかったことにした。面倒なので。


「ミルゼ……。そういう話も契約のときに、ちゃんと私に話していたの?」


 ようやく凜子がミルゼを問いただす。ようやく、だった。隣ではまだリールとディゼムが、わあわあとなにかやっていた。


「ええ。もちろんです。契約ですから」


 なんとまあ。


 凜子がテーブルに突っ伏した。またしてもテーブルの上は料理だらけだったので、あまり隙間はなかったが。


「キノコ採りは早朝が定番ですから」


「それはそうだと思うけど……」


「うー。俺、朝早く起きんの苦手なんだよねえ」


 リールとの攻防戦が収まったのか、ディゼムが話に混ざってきた。さも面倒そうに、雑に頭をかいている。


「凛子。起こして」


 ごっ。


 リールが無言でメニューの角を、ディゼムの頭にお見舞いした。秒速である。


 なんだろう、このひとたちは。


 ドラゴンがいる、そうミルゼは説明していた。自分も含めこのメンバーで本当に大丈夫なのか、凛子はとてつもなく不安になる。


「あの……。皆さんはこういうお仕事、今までも何度かなさっていたのですか?」


 おそるおそる訊いてみた。


「ええ。そうよ」


 リールが答えた。リールの瞳孔は、猫や爬虫類のように縦長な形状になっていた。それが不思議と気持ち悪いというわけではなく、神秘的な美しさがあり思わず凛子は見つめてしまう。


「我々は基本このメンバーです」


 ミルゼが微笑む。落ち着いた口調から、他の二人を深く信頼しているのが伝わってくる。


「プラスもう一人、凛子の役割をする人、それでいつも合計四人なんだ」


 ディゼムが指を四本立てて答えた。ミルゼと違い、男らしい大きな手。


「私の役割?」


「ええ。我々の『目』となる役割です」


「目……」


 そういえばさっき、私の力は「冷静に本質を見極めようとする目」とミルゼが言っていたっけ――。


「私たちには見えないものを見てもらうの。さっきのカードの炎のように」


「リールさん……。私に本当にそんなことが……」


「あら。リールでいいわよ。凛子。さっき、自分でもその力がわかったんじゃないの?」


 本当に、そんなことが――。


 ミルゼもリールもディゼムも、凛子を見つめ穏やかに微笑む。

 皆の眼差しに、どきりとした。

 凛子を信頼し、仲間として受け入れ、そして尊重している、そんな空気が流れていた。

 

 大人の人たちからこんなふうに見てもらえるの、初めて――。


 自分の能力という実感はないが、それでも自分を一人前として見てもらえることは嬉しいと思った。認められることの喜びと清々しい緊張感があった。自然と背筋が伸びていた。


 私に、本当にあるのかな……。トクベツ、が……。


 知りたい、と思った。自分からは見えない、他者から見える自分を。

 そこになにか答えがあるのかもしれない、たとえちゃんとした答えが見つからなくても、純粋に見てみたい、と思った。

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