シー・サーペント退治【前編】
「――シー・サーペントだ!」
ヒュドールの住民の一人がそう叫び、他の住民達が悲鳴を上げた。彼らは一目散に逃げ出す。……それでいい。余計な犠牲を出さずに済むからな。
「アドルフ、パーヴェル! シー・サーペントについて何か知っていることはないか?」
「鱗が硬い! 毒を持っている! 打撃なら通るが、一番効果的なのは魔法による攻撃だ!」
「あ、あと、ヒュドールでは昔から、漁に行った人達が奴に食べられてしまう被害が多発しているみたいです!」
「了解!」
僅かだが、情報は得られた。どうやら、前世のファンタジー小説で何度か見たシー・サーペントと、同じような魔物であるらしい。
その小説の中では下位の龍とされていたから、ブレス攻撃もあったのだが……もしかして、こいつも?
とりあえず、頭の片隅に置いておこう。あとは戦力の確認だな。
「この街にいる戦闘員は?」
「人間の兵士達がいますが、今は獣人の兵士達の方が多いです! それに、水上で戦えるのは僕の魔法に慣れている獣人達だけだと思います!」
「魔法?」
「術式を書き換えて、水上でも自由に動くことができる魔法を編み出しました!」
「そいつはいい! さっそく獣人達を集めて――」
「既にテレパスを使って呼びました! 人間の兵士達にも、テレパスで住民達の護衛をお願いしています!」
「仕事が早いな! いいぞ!」
普段はおどおどしているが、戦闘中は頼もしくなるタイプか! 魔法の術式の書き換えに、時空魔法まで……さすがはロッコの弟子だ。
しかし、会話ができたのはそこまでだった。シー・サーペントがこちらに向かって来る!
「副団長、今魔法を掛けました! いつでも水上で動けますよ!」
「補助魔法も掛けた!」
「おう!」
パーヴェルと俺の言葉を聞くや否や、アドルフは水路に向かって飛び出した。そして水面に下り立つと、すぐにシー・サーペントに向かって走り出す。
まるで、地上を走るかのように軽やかだった。シー・サーペントが動く度に波立つ水面をものともせず、奴に肉薄する。
シー・サーペントは自身に迫るアドルフに向かって、口を大きく開けながら突進した。まさか、呑み込むつもりか!
しかしアドルフはその突進を避け、奴の横面をぶん殴った!
「グギャアァッ!」
シー・サーペントが叫ぶ。打撃が通るという情報は本物だったらしい。それに今さらだが、アドルフの戦闘スタイルは自らの肉体を武器とする……所謂、武闘家タイプのようだ。
あいつはいつも鉄製で細身の、指の部分が無いガントレットを身に付けていた。肘まで覆っていたそれは、ただの防具だと思い込んでいたが……あれは武器だったのか。
そのまま攻勢に出る……かと思いきや、アドルフはシー・サーペントから離れて後退し、俺に声を掛ける。
「おい、ユート! お前が掛けた魔法は本当にただの補助魔法か!」
「あぁ、そうだが――まさか、何か不具合でもあったか!」
先程、肉体強化と防御力強化の魔法を掛けたが、もしも本当に不具合があったらまずいな。今はアドルフしか前衛がいないのに……!
だがそんな不安とは裏腹に、アドルフは興奮した様子でこう言った。
「違う! むしろ調子が良過ぎる! 同胞に補助魔法を掛けられた時よりも攻撃力が上がってるし、体が軽い!」
「何だって……?」
「まぁいいや! 力が強くなることに越したことは無い! ありがとな!」
「あ、あぁ……」
アドルフは再び、シー・サーペントに立ち向かう。
俺が使ったのはごく普通の補助魔法だ。術式の書き換えは行っていない。では、何故アドルフの調子が良くなったんだ?
いや、今考えても答えは出ないか。それよりも戦闘に集中しなければ。
「……ん? そういえば、イルカ達はどこに行った!」
「あっ! そ、そうですよね。大丈夫でしょうか? 上手く逃げていると良いのですが……」
俺とパーヴェルがイルカ達のことを心配していると、鳴き声が聞こえた。
それに驚いて、すぐ近くにある水路を見る。……イルカ達が顔を出していた。
「良かった! 無事だったんだな。ここは危ないから早く逃げるんだ!」
「ピュイー!」
「ピュー! ピュイピュイー!」
彼らは俺に何かを訴えている。あの警告の時と同様に、俺には彼らの気持ちが理解できた。
「自分達も何かしたい、と?」
「ピュイ!」
イルカ達は一斉に頷いた。……正直、今は猫の手も借りたい――あ、既に借りていたな。隣にいる灰色猫の手を。
なんて冗談はさて置き、今は本気で猫の手だけでなく、イルカの手も借りたい状況だ。彼らが力を貸してくれるのは非常にありがたいが……
「最悪の場合、死ぬかもしれないぞ! それでもいいのか?」
「ピューイ!」
「……何故そこまで俺達に力を貸そうとするんだ?」
「多分、イルカ達にはヒュドールの漁師達への恩があるんだと思います。漁師達は漁で獲った魚介類を、イルカ達にお裾分けすることがあるみたいで……」
「ピュイ!」
パーヴェルの言葉に、彼らは何度も頷いた。なるほど、そういうことか。……ならば申し訳ないが、頼らせてもらうとしよう。
「……分かった。君達の力を借りたい! 頼んだぞ!」
「ピュイ!」
「――パーヴェルさん!」
「うわ、マジでシー・サーペントだ!」
「戦ってるのは副団長か! 相変わらず化け物じみた立ち回りだな……!」
「助太刀します!」
「待ってましたよ、皆さん!」
その時。増援の獣人達がやって来た。……大体が前衛職のようだが、魔法使いなどの後衛職も数名いるようだ。
パーヴェルに魔法を掛けられた前衛職の者達は、続々とシー・サーペントに立ち向かっていき、後衛職は俺やパーヴェルと共に陸から援護する。早くも魔法使い達が攻撃魔法を放っていた。
「イルカ達は、負傷者が出たら俺達のところまで連れて来て欲しい。できるか?」
「ピューイ!」
「ありがとう! 頼む!」
イルカ達が前線に向かった後、俺は久々に懐から杖を取り出した。
「さて、と――やるか」
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
★ただ今、読者様からの感想、評価、レビューを募集中です!★
一言でも構いませんので、感想を頂けると嬉しいです!
本文の下の星評価や、レビューも頂けるともっと嬉しいです!!
読書の皆様。どうか、応援をよろしくお願いいたしますm(_ _)m
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




