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外交官の使い魔探し





 その日。俺はずっと先延ばしにしていた件を解決するために、エヴァンのもとへ向かう。

 魔法部隊が使用している部屋に行くと、エヴァンとハル以外は誰もいなかった。良いタイミングだ。


 さっそく、用件を話す。



「――使い魔を探したい?」

「ニャー?」

「そう。万が一、俺がアドルフ達と何らかの理由ではぐれて一人になってしまった時。使い魔を護衛役として呼び出せたら、助かるだろう?」



 目的は、俺だけの使い魔を探すことだった。ハルやトレスという使い魔がいるエヴァンなら、何か心当たりがあるはず。



 ――災いは闇を崇め奉る。闇は金の人間を欲してやまず、彼と常に共に在る銀の狼を憎む。

 金の人間と銀の狼は災いが訪れる前に修練を積み重ねなさい。傍らの友を護りたいと願うのならば。


 俺とアドルフが魚人族の巫女、シエルからそんな予言を聞き、災いと闇の正体にはエクレール教が関わっていると推測したこと。

 その後、まるでその推測が現実になったかのように、エクレール教の信者が俺を狙ったこと。


 そのせいで……否。そのおかげで、と言うべきか? とにかく危機感を覚えた俺は、エクレール教と帝国に動きが無い今のうちに、使い魔を手に入れるべきだと考えた。


 シエルが俺とアドルフのみに伝えた予言については、既に獣王軍の各旅団長と部隊長達にも通達されている。

 当然、エヴァンもそれを知っているため、俺の用件を聞いて納得したようだ。



「確かに使い魔と契約すれば、常に一緒にいなくても、いつでも呼び出すことができます。レイモンドの護衛役にぴったりですね」



 エヴァンが言っているのは、使い魔と契約すると使えるようになる、召喚魔法のことだ。

 これを使えば、使い魔が遠くにいても自分の側に呼び出すことができる。



「あぁ。そういうことだから、使い魔を探すのにちょうど良い場所は無いかと、あんたに聞こうと思ってな」

「なるほど。それなら、獣王国のイリス峡谷に行ってみますか?」

「イリス峡谷?」

「はい。……レイモンドには、まだ話していませんでしたね。実は僕の使い魔はハルとトレス以外に、もう一体います。その使い魔が住み着いている場所が、イリス峡谷なんですよ」

「へぇ……って、三体目? 珍しいな」



 普通、一人の魔法師が契約できる使い魔は、一体か二体のはずだ。


 魔法師が初めて使い魔と契約した時。もう一体と契約できるかどうかが、感覚で分かるそうだが……

 ごく稀に。二体目と契約した後も、まだ契約できるという感覚が残る魔法師がいるらしい。


 まさかエヴァンが、その珍しい魔法師だったとはな。驚いた。



「自分でも驚きましたよ。ハル、トレスと契約した後でも『まだ契約できる』という感覚があって……そのおかげで、クラフトと契約することができました」

「そのクラフトは、どんな使い魔なんだ?」

「それは、イリス峡谷に行ってからのお楽しみにしましょう! クラフトの側にいれば、こちらに敵意がある狂暴な魔物は滅多に近づいて来ません。安心して使い魔を探すことができます。あの峡谷には友好的な動物や魔物もいますから、使い魔探しには最適だと思いますよ!」

「お、おう」



 やけに熱弁してくるな。彼の興奮した様子を見るのは、以前神話について詳しい話を聞いた時以来だが……もしや?



「そのイリス峡谷って、神話に何か関係があるのか?」

「あ、良い線いってますよ。実はですね、イリス峡谷には神獣が住み着いている、という噂が昔からあるんです。獣神様の加護を持ち、既に神獣のレヴィアタン様と出会っているレイモンドが来てくれたら、その噂の神獣にも会えるのではないかと思いまして!」

「噂の真偽はさて置き、それはちょっと気になるな。……行くとしたらロッコ爺のテレポートか?」

「いいえ。今回は――僕が使うテレポートで行きましょう」



 と、彼が得意顔でそう言った。……何だって?





*****




 イリス峡谷に行く許可をもらおうと、ヴェーラの執務室へ向かう途中。

 何年も前から修練を積んでいたが、最近になってようやく、失敗することなくテレポートが使えるようになったと、エヴァンから聞いた。



「と言っても、今の僕が一度に転移させることができる人数は、三人までですが……」

「いや、そもそもテレポートを習得できたことが凄い。さすがは魔法部隊の隊長だな」

「いやいや、そんな……師匠と比べたら、僕はまだまだですよ」



 そう言って照れているエヴァンだが、彼には間違いなく才能がある。



 魔法師が今後も時空魔法を極められるかどうかは、テレポートの習得によって決まるという。


 テレポートを習得できた魔法師であれば、今後も時空魔法を極められる可能性が高い。

 しかし。それができなければ、ロッコが使っていたスペイス・ウェアハウスや、グラビテイションなどの強力な時空魔法を習得することができないという。


 エヴァンは、その壁を乗り越えた。


 彼は将来、ロッコと同程度……もしくは、それ以上の凄腕の魔法師になるかもしれない。



「……おや?」

「アドルフ達もいたのか。……何かあったのか?」



 その後。ヴェーラの執務室に到着した俺達が見たのは、部屋の主である彼女だけでなく、アドルフ、ミュース、ロッコの三人の姿だった。



「おう、ちょうど良かった。ジジイのテレパスでお前らを呼ぼうとしてたところだ」

「先ほど国から連絡があった。――獣人、魚人、鳥人の代表者が集まる三種族会談の日程が決まったそうだ」



 三種族会談。イグナーツ様とステラ様、レオン様と出会った時に、アルベルトから話は聞いていたが……ついに日取りが決まったか。



「会談が行われるのは一週間後。場所はもちろん、レーヴェの王城だ。当日はロッコさんがラルゴ島とアネモス山に向かい、それぞれの種族の代表者とその護衛を、テレポートでレーヴェまで送る」

「ラルゴ島の魚人族の村と、アネモス山の鳥人族の村にはこの前行って来たからのう。いつでも行けるぞ」

「獣王様からの要請により、レイモンドも会談に参加してもらう。三種族の橋渡しを頼みたい、とのことだ」

「分かった」



 三種族が最後に交流したのはかなり前だと聞いているし、この会談は歴史的な出来事になるだろう。その場に立ち会うことができるなんて、光栄だな。



「……レイモンド達は、団長に何か用が……?」

「あっ、そうでした。ヴェーラ団長、僕とレイモンドに外出許可を出して欲しいんですが――」



 ミュースに言われて本来の目的を思い出したエヴァンが、事情を説明する。



「ほほう。レイモンドの護衛役となる使い魔探し、とな」

「あぁ。……この話は既にアルベルトも知っている。むしろ、できるだけ早くに使い魔と契約してくれと言われているんだ。副隊長の仕事にも慣れて落ち着いて来たし、そろそろ探したいと思っている」

「そうか……分かった。外出を許可しよう」



 よし、団長から外出許可が出た。これで使い魔を探しに行けるぞ! エヴァンの三体目の使い魔や、神獣の噂も気になるし、楽しみだな。


 しかし――



「とは言え、お前達二人だけで行かせるわけにはいかない。エヴァンの使い魔達以外にも、せめてもう一人同行者が必要だな」



 ヴェーラのその言葉が、思わぬ騒動の引き金となった。



「それなら俺が――」

「駄目。……私が行く」

「いや、私が行こう」

「いやいや、儂が行くぞ」



 そして睨み合う、狼と鼠とホワイトタイガーと山羊。……不穏な空気が漂う。



「やはり、こうなりましたか。いつぞやの同行者選びの争い、再びですね」

「えっ?」

「ミャー、ニャウー」

「えぇそうですね、ハル。争いが終わるまで、勝ち組の我々はゆっくりしていればいい。……さぁ、レイモンド。そちらに座りましょう」

「あ、あぁ……」



 輝く笑顔でそう言ったエヴァンに従い、彼と共にソファーに座る。すぐに膝に乗って来たハルを撫でながら、アドルフ達の様子を見る。



「仕方ない、例の方法で決めよう」

「おう!」

「うむ。そうしよう!」

「負けない……!」



 四人で円になった彼らは一斉に、とある掛け声を口にした。



「――じゃん、けん、ぽん!」



 うわ、懐かしい。懐かしい、が……ファンタジーな世界で、この光景はシュールだなぁ。

 だがしかし、アドルフ達は真面目に勝負している。笑ってはいけない。


 そして数回のあいこが続き、ようやく勝者が決まった。



「やっ――たあぁぁっ! 勝ったあぁぁぁ!」

「ちくしょおおぉぉぉ!」

「……そんな……そんなぁ……!」

「むう……負けてしまったか。残念じゃ……」



 勝利を掴み取り、狂喜乱舞するホワイトタイガー。地に沈む、狼と鼠。地に沈む程ではないが、落ち込んでいる山羊。


 大袈裟だな。



「……高が同行者を決めるだけのじゃん拳だろう? 何故あれほど騒ぐ?」

「さぁ? 何故でしょうね?」

「ニャア?」



 こっちでは羊と黒猫が、何故か始終嬉しそうに笑っているし……あの騒ぎの理由が分からないのは俺だけか?



「おい、エヴァンとハル! てめぇらのその態度、さっきからムカつくんだよ!」

「同感……!」

「ははは。負け組に何を言われても、勝ち組の僕達には関係ありませんねぇ」

「くそったれ!」





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