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いつかの魔法  作者: 紀之貫
第5章 真実
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第224話 「フィオさんの調査①」

 4月からは色々と忙しくなりそうな見通しだけど、それまでは時間に余裕がある。となると、今のうちに1つやっておきたいことがある。フィオさんについての調査だ。次に会うときは彼女の故郷で、みたいな約束をしていたからだ。まぁ、呼べばどこでも来てくれるとは思うけど……それじゃ、あんまりだろう。それに、彼女がどういった存在なのかは興味がある。

 しかし、調べると言っても手がかりは彼女の名前――フィオリア・エルミナス――だけ。俺1人の手には余る調査になるだろう。だから、誰か協力者が欲しい。



 3月19日9時。アイリスさんが投宿しているホテルのフロントで面会希望の旨を申し出ると、とても丁寧に応対していただけた。逆に少し緊張したぐらいだ。

 スタッフの方が呼び出しに行ってくださって、前みたいに従業員向けらしき休憩室で待たせてもらっていると、ほどなくして彼女がやってきた。彼女はいつもどおりの穏やかな微笑を浮かべて、俺の言葉を待っている。俺はさっそく、用件を切り出した。


「たぶん、ご存知だと思いますけど、俺がこっちとあっちを行き来した際に、白いローブの女性に世話になりまして……」

「はい、私もお会いしました。かなり短い時間でしたけど……」


 会う時間が短かったというのは、よく分かる。あの人(?)は自身の体を維持するのにも、かなりの労力がかかっているというか、相当なリスクを負ってるようだった。


「それで、あの人から前に名前を聞きまして、詳しいことを知りたいので調べ物を手伝ってもらえればと」

「ええ、わかりました。喜んで」


 話には乗るだろうと思ってたけど、実際にこうして快諾してもらえると大変助かる。俺の事情に関して知っているから、助けを求めても面倒はないし、彼女は結構な読書家だから心強い。

 彼女の方も、かなり乗り気のようで、さっそく「お名前は?」と尋ねてきた。


「フィオリア・エルミナスさんですけど……ご存知ですか?」


 すると、彼女は口元に指を当てて考え込んだ。少ししてから、静かに口を開く。


「確か、英雄的な働きをした魔法使いで、同じ名前の方がいたような……だいぶ、うろ覚えですけど」

「いえ、十分ですよ。人かどうかもわからなかったですし」


 少なくとも、人間以外の上位存在とかじゃなさそうだってのがわかった。実在の人物ってことであれば、歴史書を漁ればいいだろう。まぁ、かつてきちんと生きていた方が、今になって霊体で活動してるってのも、だいぶ途方も無い話ではある。でも、不思議と大きな驚きはなかった。

 とりあえずの目星がついたところで、アイリスさんは念のため目立たないようにと、変装のために部屋に戻った。ただ、これは前々から思ってたことだけど、彼女は変装そのものを楽しんでいるフシがある。だから、今日のも趣味半分だろう。ややあって、少し懐かしさもある感じの、中性的な装いをした彼女が現れた。顔を見る感じでは、やっぱり楽しそうにしている。


 そんな彼女と外に出たけど、変装までしてもらっておいて申し訳ないことに、最近では俺の方も冒険者仲間から注目を浴びやすくなっていた。色々あったから仕方ないとは思う。しかし、俺の方を見られるとアイリスさんも視界に入るわけで、バレやしないかと気が気じゃなかった。

 そんなこんなで、妙に距離を長く感じながらも、どうにか図書館にたどりついた。さすがに、ここでは身分を明かさないわけにはいかないけど、アイリスさんは結構変装して図書館を使っているようだった。読書に集中するためなのだろう。受付の方も手慣れたもので、特に普段と変わりなく利用させてもらう形になった。

 本棚が立ち並ぶ中、アイリスさんの見立てに従っていくつか本を取っていく。しかし、フィオさんが過去の偉大な魔法使いだとあたりをつけても、見てみるべき本はいくつもある。あたりに配慮しつつ、小声でアイリスさんが話しかけてきた。


「2人でも、大変かもしれませんね」

「そうですね」


 両手で抱える形で持っている本は、それぞれが結構な分厚さで6冊ある。実際には、この中に見るべき情報がない可能性もあるわけで、予想以上に大変そうだ。

 そんな事を考えていると、「外で読みましょうか」と言われた。外ってのは、階下のカフェの、オープンテラスのことだ。友達と話しながら読んだり、同好の士に話しかけてもらいたい人向けのスペースだ。


「話しかけられると、面倒なことになったりしませんか?」

「そこまで気にすることでもないですよ」


 言いながら、彼女は追加の一冊を本のタワーに重ねてきた。さすがに、結構重くなってきている。


「……では、問題なく手伝ってくれそうな感じの友人が来たら、お願いしてみるってことで」

「はい、そうしましょう」


 方針が定まったところで、貸し出しに向かった。彼女は本を半分持とうとしたけど、持たせるのもなんかな~と思って、結局全て自分で持っていった。

 貸し出しの手続きを済ませたところで下に降り、テラスの適当なテーブルに本の山を置く。それから、俺がカフェのカウンターに行こうとすると、彼女はポケットから硬貨をいくつか取り出した。


「私の分もお願いします」

「あー……今日は俺が払いますよ?」

「そんな、悪いですよ」

「手伝ってもらうわけですし、これぐらいは」


 しかし、彼女はまだあまり納得がいってないように見える。そこで、ちょっとした閃きがあり、試しに言うだけ言ってみることにした。


「じゃあ、俺が先に情報を探し当てたら、そのときは割り勘にしてください」

「……なるほど。つまり、私が先ならタダでお茶が飲めるということですね。がんばります」


 何が何でも払いたかったというわけではなかったようだ。ちょっとした勝負事みたいになった途端、彼女はイスに座って本をめくり始めた。なんにせよ、楽しそうにしてもらえて何よりだ。提案への反応に満足しながら、俺はカウンターに向かった。

 店員さんは、すごくニヤニヤしていた。別にそういうのじゃないって言おうかと思ったけど、言ったら言ったでヤブ蛇かもしれない。そう思って何も言わずに茶だけ受け取り、変に暖かな視線を背に浴びながら、俺はテーブルに戻った。


 一緒に調べ物をしてから数分で、俺は誤算に気づいた。気がつけば、調べ物に関係がない、余計な箇所ばかり読み込んでいる。まるで、大掃除の時の読書みたいに。

 図書館に来るのは、本当に久しぶりだった。それに、よく使っていた頃も、読んでいたのは魔法関係やこの世界の常識、マナー系の本ばかりだった。今日みたいに歴史書を読んだ記憶はない。

 しかし、実際にこうして読んでみると、過去の魔法使いについて興味深い記述が連なっていた。得手としていた魔法や、極めるまでの道のり。彼らと社会との関わり方や与えた影響などなど……。

「普通に読んでます?」という声がして、ハッと我に返り、かなりバツが悪い気持ちになった。


「すみません、つい……」

「いえ、気持ちはわかりますし……実は私も、じっくり読みたいところが……」

「……普通に読みましょうか」


 すると、彼女はにっこり笑ってページをめくる手を止め、静かに読み込み始めた。俺も、読みかけの部分に視線を落とす。

 そうして、2人して本題そっちのけで本を読みふけっていると、女の子に話しかけられた。声の方を向くと、ラックスが立っていた。彼女はアイリスさんに視線を向けて、ほんの小さく頭を下げた。たぶん、変装を見抜いたんだろう。というか、ラックスの立場であれば、変装している方のアイリスさんと行動したこともありそうだけど。

 ラックスは俺に、「何か調べ物?」と聞いてきた。渡りに船だ。ある程度俺の転移の件について理解があるし、彼女は軍師の家系ってことだから、歴史にも明るいかもしれない。アイリスさんに視線で問いかけてみると、彼女も同じようなことを考えたんだろう、すぐにうなずいてくれた。


「実はさ……いなくなったときに、世話になった方のことを調べてて」

「ふうん」

「手伝ってもらえたらって……」

「……どうしよっかな」


 ラックスは、悩んでいるというよりは、俺をちょっといじって遊んでいるようにも見えた。ほんの少し、意地悪な感じの微笑みを浮かべて考え込んだ後、彼女は言った。


「後で甘いものおごってくれるなら、いいかな」

「わかった。お願いします」

「食べに行くのは、この3人でね」

「はいはい」


 すると、彼女は先程よりもハッキリ分かる形で、アイリスさんに向かって頭を下げ、席についた。2人とも友人同士なのだろうとは思うけど、親しき仲にも礼儀ありって感じがある。

 ラックスの助力も得た今、自分の興味を優先するのも失礼だろうということで、俺は本題の調べ物に専念した。アイリスさんも同様なのだろう。ページをめくる音が聞こえてくる。そうやって、真面目に調べ物を再開したわけだけど……。

「この人?」というラックスの声がして、俺達は手を止めた。先を越された。視線を上げるとアイリスさんと目が合う。2人で苦笑いしてから、ラックスの方にイスを寄せて、俺達は本を覗き込んだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 会うのは、あの帰還した日以来ってなってるけど、お屋敷に帰還報告した時に、アイリスさんもいた
2020/09/26 07:09 退会済み
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